【本】どろんころんど2010/11/17

どろんころんど (ボクラノSFシリーズ)どろんころんど (ボクラノSFシリーズ)
北野勇作 鈴木志保

福音館書店 2010-08-04
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日本SF大賞を受賞した『かめくん』 は不思議な味わいを残す作品だったが、その著者による新作もこれまたキテレツな世界が展開する。

舞台は、人間のいなくなった“泥の世界”。かつて人間によってつくられた商品説明ロボットの「アリス」が、その世界(時代)に目覚めたことから物語は始まる。アリスは、彼女が“ヒト”に向けて商品説明するはずだった亀ロボットと共に、今はテレビの世界に住むという“ヒト”を探す旅に出る。案内人は、泥世界に住む“ヒトデナシ”だ。そして、それはアリスの自分探しの旅でもあった…。

これはもう痛烈な寓話小説だろう。
かつて人間がつくりあげた世界を真似る“ヒトデナシ”たち。その一つ一つを、学習[検証]していくアリスを通じて、ワタシたちは“ヒト”の思考や社会を再確認していく。そのさまが、じつにアイロニーに富んでいる。
意味もわからず、何を考えずに“ヒト”を真似る様は、まさに“ヒト”そのものだからだ。

「きれいはきたない、きたないはきれい」という「マクベス」の一節を引いて、“ヒトデナシ”が「それじゃ、きれいときたないは、同じってことになるじゃないですか」という疑問に、アリスはこう答える。
「そうよ、だからもしかしたら--人間にもそれはちゃんとわかっていないんじゃないか、って私は思うのよ」
「人間のことなんて、人間に聞いてみなきゃわからない」
「いや、人間にだって、わかっているかどうか、わかりはしない」
…こんな問答を繰り返しながら、3人(体?)の“旅”は進む。

途中、“駅”から“電車”に乗ったり、“会社”で“社長”に会ったり、“地下鉄”で“街”へ行かけ、“デパート”の屋上で“仕事”をしたり…“ヒトデナシ”がヒト社会を模してつくりあげた世界を冒険するアリスたち。その間のアリスの危機を救ってきたのは、彼女の警護をプログラミングされた亀ロボットだった…。

ようやくアリスが、“ヒト”と再会し、物語が終焉を迎えたとき、ワタシたちはこの物語の「主役」が、じつは亀ロボットだったことに気づく。
そして、同時に“ワタシたち”が亀ロボットだったことを思い知らされる。
今はいなくなってしまった“ヒト”が諭すうように言う。
「君は君のために君のやりたいことをやればいい」…。
物語は、こうして「はじまりの終わり」で閉じる。

本書は、鈴木志保氏によるポップなイラストが随所に配され、奇想天外なこの旅と世界のイメージを補完してくれる。また活字が踊り、途切れ、ねじれる、行き先を失うかのように“断ちおとし”されるなど、物語さながらの“ありえない”紙面が展開する。
この、絵本のような遊び心溢れる本書が、電子書籍になったときに、どんなマジックが飛び出すのか、それもまた楽しみだ。

◆『どろんころんど』のおすすめレビュー一覧
21世紀、SF評論
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