【本】電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア ― 2010/11/14
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その記事が、電子書籍の“今”を捉えたものならば、本書はその向こう“未来”を深く考察する書として、世に問いかける本だ。
本書の“仕掛け人”である沢辺均・ポット出版社長による「はじめに」からしてこうある。
「今、出版はとっても面白い状況にあるんじゃないだろうか?」という問いを冒頭から発し、「電子書籍の拡大は、出版『社』をなくすことはあっても、出版というおこない自体をなくすことにはならない」とするが、「出版社がなくなるなら、それを自社も含めてやむを得ないと私は思っている」と挑戦的なもの言いをする。
そのうえで、「電子書籍だからこそその利用方法をさまざま生み出すことが、デジタルとネットワーク時代の出版の課題だと思っている」として、「出版とはどういうおこないなのか、あらためて根源的な問い掛けをしたい」と宣言をしている。
まさに、電子書籍と出版への「問いに正面から向きあった」のが本書といえる。
以下、「2010年代の『出版』を考える」をテーマに、高島利行、猪俣暁生、橋本大也各氏による鼎談を基調として、「電子出版時代の編集者」(山路達也氏)、「20年後の出版をどう定義するか」(植村八潮氏)、「出版業界の現状をどう見るか」(星野渉氏)、「編集者とデザイナーのためのXML勉強会」(深沢英次氏)といった各論へと繋がっていく。
たしか“鼎談”の一部は、ここでも紹介されている“tudaる”でワタシも閲覧した記憶があるが、それも含めて適宜ギャラリーに対して意見(モニター)を問うなど、ライブ感溢れる、熱い議論が繰り広げられる。
内容は、電子書籍をめぐる出版業界の動向から市場論、印税、著作権、図書館の役割など多岐にわたるが、ワタシ的には「電子書籍が売れないのは、そこに新たな付加価値がないから」(大橋氏)という指摘や、「今まで通りの紙の本とは違った形でコンテンツを提供する必要がある」(仲俣氏)という提起に頷首したい。
だからこそ、山路氏が語る「ウェブ上にはすでに膨大なコンテンツが存在しています。今後、『本』という言葉は、ものすごい広い範囲の言葉になると思います」として、「編集者と著者が一緒に本を書いていくようになっていけばいい」という発言から、電子書籍時代の“編集者”の姿がぼんやりと浮かんでくる。
さらには、植村氏へのインタビューのなかで、デジタル/ネットワーク化すなわちクラウド化によって「(電子書籍の講読者は)物体は所有する権利ではなく、アクセスする権利になる」と、沢辺氏は予見する。
また、“冷徹”と評したくなるほど冷静かつ的確な星野氏による出版業界の現状報告と分析は、ワタシにも知らないことも多く、大変参考になった。
終章に、“プロ”に向けた具体的なXML講座が置かれていることからわかるように、本書は専門用語も頻出し(丁寧な参照が付されてはいるが)出版関係者以外には、読みにくい書物かもしれない。
しかし今後、音楽、映画、テレビをはじめあらゆるコンテンツ・メディアは、デジタル/ネットワーク化してことは間違いない。そうした意味では、“メディア”に関心ある人には、一読の価値のある刺激的な書である。
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