【コミック】風間亭やんわりの漫画落語傑作選2011/02/11

風間亭やんわりの漫画落語傑作選風間亭やんわりの漫画落語傑作選
風間 やんわり

新潮社 2009-08-26
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落語を題材にしたマンガといえば、まっ先に浮かぶのは古谷三敏氏の『寄席芸人伝』 という世代だが、ビッグコミック連載中の『どうらく息子』(尾瀬あきら・落語監修:柳家三三)も新たな傑作落語マンガを予感させ、そして風間やんわり氏による本書もまた、味わいある落語マンガとして十分に推挙できるものだ。

その特長をひと言でいえば、古典落語のやんわり流現代風ギャグへの“改作”集だ。
例えば、“第一席”の「寿限無」からして、その長たらしい名前でトホホな子ども時代を送り、やがてその名前に嫌気がさしてヤクザになったものの、逆にその名前で命拾いをするという馬鹿馬鹿しいオチで、クスリとさせる。

対談相手の春風亭昇太師匠から「一目でわかる絵というのは本当にすごい」とヨイショされたその絵は、お世辞にも“上手い”ものではないが、たしかにトホホな〆でオチまくる風間亭ギャグにはマッチングしている。

昇太師匠のほかにも、立川志の輔柳家喬太郎三遊亭楽太郎各師匠らとの対談が本書に華を添えているが、さすが師匠連で、「じつは落語家になりたいという気持ちがあったんです」というやんわり氏に対して、昇太師匠が「だから『好き』と言っても、落語家になりほど好きじゃないんだよ(笑)」とやんわり(でもないか…)と返したり、喬太郎師匠は「落語という話芸だから成立するものはいっぱいあります」と「金明竹」における“サブリミナル効果”を語って、「これを漫画で表現するのは難しい」と、マンガに対抗心を燃やすかのようにその芸を自負する。

「落語用語コラム」も収められて、初心者にも目配せするつくりだが、結果として前掲のストレートな落語表現とはまた違う、落語の“奥深さ”を見せつける逸品となっている。

『風間亭やんわりの漫画落語傑作選』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「実に見どころが多いマンガ」--ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ
「落語だと知らなくても楽しめるマンガ」--asahi.com(中野翠氏)

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【コミック】どうらく息子 第一集2011/01/31

どうらく息子 1 (ビッグコミックス)どうらく息子 1 (ビッグコミックス)
尾瀬 あきら

小学館 2011-01-28
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ビッグコミックに連載中の話題の落語マンガ『どうらく息子』。
本来なら未完結のシリーズのレビューは本意としないのだが、“噺家”を主人公にした話題作とあっては、終巻まで寝かせておくのはあまりに惜しい。というわけで、とり急ぎ「第一集」をレビュー。

作者は『夏子の酒』 『みのり伝説』 など、さまざまな“業界”を舞台にしたうんちくマンガの形を借りながら、主人公の“成長物語”を丹念に描くことで、多くの読者の共感を得てきた尾瀬あきら氏。
結論から言うと、氏のその資質は、この物語の出だしから十二分に生かされている。

主人公・翔太は、保育園の先生をしている26歳。ある時、ふと訪れた寄席で落語の魅力にはまり、やがて“噺家”になる夢を抱く…というのがそのストーリーの骨格。

落語をモチーフとしたTVドラマ『タイガー&ドラゴン』も、やはり若い“噺家”の成長物語であったが、そのヤクザの主人公はすでに入門を許され前座として高座にもあがる身だが、本作はその“前史”ともいえる紆余曲折を経ての入門物語から始まる。

しかしながら、演じられる“落語”のストーリーに主人公自身がかぶさる構造は『タイガー~』とも通じ、翔太は“落語”の登場人物にもなるし、翔太の実体験が“落語”のテーマに重なる場面もある。このあたりの重層的な構成はさすがにうまい。

さらに、尾瀬氏の“うんちくマンガ家”としての手並みも見事で、寄席がどういった“空間”かの解説から、老人会や寺での落語会など、“噺家”の世界がわかり易く描かれる。
落語初心者のための手取りと足とりの「落語入門」的な側面を持ちつつ、一方で「文七元結」では、娘が身を挺してこしらえたなけなし50両を、長兵衛が身投げ男にくれてやる時にふと笑う仕種を入れ込むなど、落語ファンをニヤリとさせる手練もみせる。

このあたりは、落語監修として本作に関わる柳家三三師匠の力添えもあるだろうが、硬軟に富んだ内容で読者を飽きさせない。

翔太の入門を許した惜春亭銅楽が、言い放つ「翔太…落語は人の了見をどれほど察するか、理解できるだ。手前のことばかり考えている奴はムリだ」というセリフも、「結局、落語は“人”だ。人間性がにじみ出る」という教えが脈々と続く、いかにも柳家一門らしいものだ。

老人会で落語会を主宰する園児の祖父や伯母である園長、兄弟弟子や師匠の女将さんなど、翔太に絡む脇役陣も多彩。

尾瀬作品の多くがTVドラマ化されたことからもわかるように、よく推敲された脚本で、落ち着いたカメラワークで撮られたかのような作風。大胆なコマ割りもなければ、ジェットコースターのような展開もないが、まさに「大人のマンガ」の風格を感じさせる。

“落語ブーム”を経て、早くも万人の共感を得られる傑作落語マンガの誕生を予感させる。

『どうらく息子 1』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「じっくり腰をすえた展開も読みごたえ」--asahi.com(コミック・ブレーク)
「落語と、それに関わる人との双方を描くもどかしさ」--マンガ一巻読破
「ちゃんと落語を物語にしている数少ない作品」--やすのぼやき
「いい話になっていったら、久々に落語漫画の成功例となる」--見えない道場本舗
「実に堅実で丁寧なつくりのタイトル」--緑画舎まんがブログ

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【コミック】ビューティフルピープル・パーフェクトワールド2011/01/11

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)
坂井 恵理

小学館 2010-11-30
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以前、短期間の間に、何人ものさまざまなセクシュアル・マイノリティの人たちと、出会い、話し、一緒に飲んで騒いだことがあった。それはそれで一緒にいるときは楽しいのに、なぜかその後一人になるとドッと疲れている自分に気づいた。

おそらくそれは、彼(彼女)らが「恋人」の話をしたり、「○○が好き」というときに、無意識のうちに頭の中でいちいちそれが男性・女性のどちらなのか確認する作業を行ったり、ふだんはまったく気にもとめない自身のセクシュアル・アイデンティティを否が応でも意識させられるからなのではないかと思い至った。自分は「異性愛者」なのだということを、ことあるごとに確認しなければならない煩わしさ、というか…。

それは、また同時に「同性愛者」たちが日々強いられている煩わしさなのだ、ということを思い知らされることでもあった。
本作を読んで、その時の記憶が甦った…。

舞台設定は「21世紀が残り半分を切った頃」のニッポン。
「芸術も文学も過去の作品のリメイクかパロディばかり」で、人類が“停滞”するなかで、美容整形だけが“進化”し、「どんどん美しくなった」人類ばかりが暮らす世界…。
その「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」を舞台に、4つの物語が展開される。これが、いずれも“痛い”話、ばかりだ。

カオの見分けがつかない同級生のなかに、自分と同じ(身体を)“いじってない”生徒に次第に惹かれていく主人公の“僕”。やがて、彼女の正体を知り、そのファンタジックな身体の秘密も明かされるのだが、その時に“僕”が抑え込んできたセクシュアリティもまた、彼女によって晒されてしまう…。
“僕”は言う。「スカートはキライ。けど--男になりたいわけじゃないんだ」…という1話「思春期」からしてセツナさが全開する。

2話の「パチモン美少女in南国」も、「ひきこもり」だった兄が、アニメキャラの女の子になり、専業主婦を目指すも暗礁に乗り上げ…というドタバタ劇なのだが、「そんなにヌルくねんだよ。女は!」という母親の啖呵や、「見上げるの見下すのしんどい」という主人公(弟)の呻くようなつぶやきから、本作の隠されたテーマが強く立ちあがってくる。

3話「いつまでもコドモのままでイタイの」の児童買春を取り締まる女性刑事が、夫の“初恋”の女性そっくりに整形し、“コドモ”のまま愛される…という設定からしてすでに“痛い”。その“若い”夫も、じつはそれ相応年なのに、だ…。
みな同じようにキレイになった世界で、まっさらに素をさらけだしていた小学生時代の“初恋”に憧れるパーフェクト・ワールドの住人たち…。
ここでは、男子児童のレイプ犯が、オンラインゲームのアバターでは女児として登場するなど、まさしく読み手のセクシャル・アイデンティティを混濁させ、揺さぶるような展開がなされる。

最終話の何度も“再生”する「スーパースター」も、美容整形でどんな人間にもなれるという舞台設定をうまく生かした作者のストーリーテラーぶりが発揮された作品。しかし、登場人物たちのそのしたたかな生きざまに潔さを感じつつも、やはり全体を通奏するのは“痛み”でしかない。

改めて、この“美しい人々による完全なる世界”を、“心までは美しくなれない不完全な人々の世界”として仕立て上げた作者の炯眼には、感心するばかり。
こんな評価は作者にとって不本意かもしれないが、小説のネタとしても、映画の原作としても魅力的な、多くを考えさせられる“社会性”をもった作品集だ。

◆『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』の参考レビュー一覧
(*タイトル文責は森口)
「美醜という題材の扱いにくさを、SFとしてうまく昇華」--イチニクス遊覧日記
「『姿形を変えられる』から想像されるバリエーションを上手に使い展開」--マンガ一巻読破
「人々が心に抱え込んだ問題をさまざまな角度から描く」--asahi.com(ササキバラ・ゴウ氏)

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【コミック】作品集 このたびは2010/12/11

作品集このたびは (Feelコミックス)作品集このたびは (Feelコミックス)
えすとえむ

祥伝社 2010-10-08
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冠婚葬祭に顕される出会いと別れ、人生におけるさまざま「儀式」をテーマに、6篇の作品が収められた「えすとえむ」氏による作品集。「フィール・ヤング」の連載をまとめたものだという(書き下ろし1点)。

えすとえむ氏はボーイズラブ系のマンガ家らしいが、本作で描かれているのは“男女”や“家族”の切なく、ときにほんのりとした愛情だ。

なかなか結婚に踏み切れないイケメン好きと草食系男子のそわそわとした結婚綺譚、遠距離恋愛中の二人が“祭り”を通じてふれあう人びとの思い、相いれなかった父親と入院を機に“出会う”娘の心の揺れ、互いに心に傷を持つ姉妹の“邂逅、彼女の祖母の葬儀に参じたフリーター君の密かな心象風景…。
こう記していくと、なにかドラスティックな展開が起きていそうな作品群だが、いずれの物語も大きな起伏はなく、流れる時間もゆったりとしている。そうしたゆったりとしたリズムのなかで、登場人物たちの心境の変化が無理なく綴られる。

そう、この作品集を通奏するのは、ここに登場する人たちが、迷い、戸惑い、怒り、諦めを経たあとに発見する、小さな心の安寧だ。
そして、それは次の「始まり」をもたらす静かな予感でもある。
この心のひだを丁寧に撫でるかのような短編の名手によって、ワタシたちもまた、その「予感」を共有し、一篇ごとにその小さな幸福感が心を満たす。

いわゆる少女マンガの絵のタッチが苦手なワタシは、この分野のいい読み手ではないと思うが、落ち着いたタッチと効果的なコマ割りで、その作品世界に浸ることを拒まない。
「ふつつかものですが…」「このたびは…」…。
登場人物が口にする、なんともない挨拶や言葉の端々が、やさぐれた日常に小さな灯をともしてくれる。それもまたワタシの涙腺を刺激してやまない。

◆『作品集 このたびは』の参考レビュー
asahi.com(南信長)

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【コミック】黄色い本2010/10/15

黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))
高野 文子

講談社 2002-02-20
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『絶対安全剃刀』 以来、久かたぶりに手にした高野文子だが、2003年刊の本書が最新刊というのもスゴい(いや、寡作という意味で)。

で、内容だが、副題に「ジャック・チボーというの名の友人」とあるように、地方に暮らす女子高校生が、学校の図書館で借りた『チボー家の人々』をゆっくりと読み進めていく様を淡々と描いた作品。これといった「事件」も起こらず、まさに淡々…なのだが冒頭から彼女が読んでいるページの活字をコマいっぱいに描き、彼女と共に「チボー家」の世界へ旅を始めるワタシたち…。
やがて、彼女の日常に「チボー家」の人びとがたち現れ、彼女とも会話をかわし始める。それはまた読者たるワタシたちとの会話であり、劇中劇ならぬ“漫画中劇”が展開する。

その会話のテーマは「革命」だが、さりとて彼等との論議が彼女(主人公)の実生活を大きく変えるわけでもなく、作中で「チボー家」の世界と彼女の生きる世界はゆっくりと行き来するのみ。その彼女の、たゆたうような心象世界が指でなでるかのように描かれ、ワタシたちは彼女とともに「本を読む」という恍惚を共有する。
そして、『チボー家』読了とともに、この物語の頁も唐突に閉じられ、彼女は何事もなかったように自分の世界に還ってゆく。

いや、「何事もなかった」わけでなはい。その(読書)時間、彼女は「チボー家」の人びとと共にあり、また同時に彼女の日常があった。チボー家のジャックが呼びかける。「いつでも来てくれたまえ、メーゾン・ラフィットへ」と。それは豊かな本の世界(読書時間)への誘いであり、「読書」という体験・行為・活動を、マンガでしかできない表現において示したのが、本作なのだ。

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【コミック】さよならもいわずに2010/10/07

さよならもいわずに (ビームコミックス)さよならもいわずに (ビームコミックス)
上野 顕太郎

エンターブレイン 2010-07-24
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次期手塚治虫マンガ大賞の最有力候補にして、日本のマンガ史にその名が間違いなく刻まれるであろう傑作。マンガ家・上野顕太郎氏を突然襲った最愛の妻との別れ。その慟哭の記録をマンガという表現に刻み込んだ至高のドキュメンタリー作。

愛する者との死別という悲しみと喪失感、そして二度と還らない愛おしき日々を、どのようにマンガで表現できるか…。氏が砕身粉骨、渾身の力を込めて描くいたその世界に、ワタシたちは心張り裂ける思いを共感するとともに、マンガという表現の底知れぬ力を感じるはずだ。
日本のあまたマンガ作家たちが、長い歴史のなかで切磋琢磨し、世界に類のない独自の表現として獲得してきた“マンガ表現”の数々の技を、これでもか!というまで本作に注ぎ込んだ氏の執念と技量…。ギャグ漫画家であるという氏が、むしろギャグ表現は最小に抑え、ネーム、コマ割り、構図、擬音…ありとあらゆるマンガ表現をこの物語に注ぎ込む。
そこにはまるで、マンガの教科書ともいうべき渺々たるマンガ表現の宇宙が拡がっている。愛する妻へのそれとともに、これはマンガそのものへのオマージュ(愛)ではあるまいか…。

見開きページに拡がる無人の大通り。その廃墟のような画面の端に、今にも倒れそうに身を傾ける氏(主人公)。その中空を切り裂くように「タン!」と響く音。「ああ、誰かが…俺を狙撃してくれないもんだろうか」…。やるせない登場人物の気持ちを、このように見事にワンシーンで表現できるメディアが他にあるだろうか?

そして、この物語が悲しみのまま終わるのではなく、スタッフロールのごとく本書をつくりあげた関係者が紹介されたあと、「再生」の物語として本作は「はじまりのおわり」を告げる…。絶望から希望へ。それもまた「人間」の深淵なる生の営みなのだとして…。
涙を模した装丁など、作者のみならず制作陣のなみなみならぬ「思い」も感じる。日本のマンガ文化が到達した、私小説ならぬ“私マンガ”の金字塔であると思う。

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最近読んだコミック2010/08/08

『ナチュン1~6』(都留泰作・講談社)
現役の大学准教授が描いて「モーニング」連載中から話題を呼んでいたSF大作コミック。人工頭脳の研究のために沖縄を訪れた青年を主人公にして、「沖縄×SF=オッサン!?」をキャッチにホッコリとスタートした本作だが、途中からバチカンだの世界征服だのとストーリーが拡がって訳わかんなくなったぁ~(笑)。
しかも次々に場面は転じて、主人公のまわりのドロドロした人間関係だの、恋愛が絡んだりして、かなり振幅の激しい物語です。( ^ ^ ;
ご本人が最終巻(6)で、「ただキャラやシチュエーションで『進んでいるだけの』マンガが好きで、それを今に復活させたい」「藤子・F・不二雄と大友克洋を合わせたようなマンガを理想とした」と記しているように、「下痢を起こしそうな無茶苦茶な組み合わせ」展開ながら、<ネタバレになるが>ラストは何事もなっかったような藤子的な世界…。
それでも、強烈に惹きつけられる作品であることには間違いありまっしぇん!

【コミック】最近読んだコミック2010/01/08

『この世界の片隅に(上)(下)』(こうの史代・双葉社)
広島の原爆をテーマにした『夕凪の街 桜の国』で注目を集めた作家による続編的な家族ドラマ。今度の舞台は戦中の広島県の軍都、呉。じつは『夕凪~』にあまりピンとこなかったワタシだが、その作風をさらに進化させて、声高に戦争反対などの主張をするのではなく、丹念に丹念に戦時下の暮らしを描いていくこというその手法が見事に結実している。たしかに今でも博物館にいけば、戦中・戦後の生活をある程度知ることができるが、マンガでそれを見事に描ききったというのは実は過去の戦争マンガ・戦記物にもあまりなっかたのではないか? ワタシも含めて、戦争を知らない世代に向けたアーカイブとしての仕事として評価できると思う。

『PLUTO(1~8)』(浦沢直樹×手塚治虫・小学館)
浦沢直樹が『アトム』へのオマージュとして現代にその魂を蘇らせたリメイク作品。浦沢といえば何しろ『MONSTER』『20世紀少年』といったミステリー仕立ての長編を得意としているので、こりゃどうなるのかと思ったら8巻で終わっちゃった( ^ ^ ; 。まあ、ワタシもかすかに読んだ記憶のある「地上最大のロボット」のエピソードをもとにしているので、なるほどラストもこーなるのか納得。(^_-)  それにしても巻末に付された村上知彦氏や山田五郎氏の解説が秀逸。みんな手塚への愛に溢れています…。

【コミック】最近読んだコミック2009/12/27

『星守る犬』(村上たかし・双葉社)
職と家族を失った中年男と犬との出会いと別れを描いて話題の「泣ける本」。凡百の動物ファンタジーではなく、時代性を取り入れている点がこの作品の人気の秘密か。作者の「あきがき」もイイ。正直、たしかに泣けます(T_T) 。

『リトル・フォレスト(1)』(五十嵐大介・講談社)
都会の生活に疲れ故郷に戻った若い女性の日々の食と暮らし…という『食堂かたつむり』テイストなネイチャー・マンガ。細やかなな食づくりの描写を眺めているだけでホッとする…というかそんな佳作。作者はホントに男性?

『ファイトじじいクラブ』(山本健太郎・エンターブレイン)
亡き祖父の力を借りて「いじめ」っ子たちに反撃する表題作はなかなか痛快。高齢化社会+少子化子ども社会をポジティブに撃っている。