【アート】ジパング展2011/06/08

風間サチコ「大日本防空戦士・2670」(ジパング展)
日本の現代アートを担うとされる31人の気鋭作家が出展した「ジパング展」に足を運ぶ(6月8日・日本橋高島屋)

まず印象に残るのは、その多様な表現方法だ。
絵画、彫刻、立体、版画、映像など、「かたち」にこだわらない表現はもとより、和紙、木、アクリル、樹脂、顔料、リンサムニウム、鉛筆などさまざまな素材や画材が駆使された作品群に、その自由度と解放感が感じられる。
まさに、表現もその手法も、百花繚乱の様相を呈した作品展となっている。

ビデオ作品も出展している鴻池朋子氏による屏風に描かれた骸骨画「無題」や、会田誠氏が描く少女が巨大な両生類と戯れる「大山椒魚」からは、先日企画された「日本画の洋画」から綿々と続くアンビバレンツな和洋の衝動が感じられ、山口藍氏の“ふとんキャンバス”に描かれた「道すがら」からはアウトサイダー・アートのヘンリー・ダーガーが生み出した“ヴィヴィアン・ガールズ”へのオマージュを妄想する。

上田順平氏の「ウラシマ・ピーターパン」ら3対のオブジェもまた和洋のクロスカップリングを施すことでポップな笑いを生み出し、小谷元彦氏ばりに緻密な造形を生み出した森淳一氏の造形作品は、その素材(木)から静かな“生命感”を放つ。

“緻密”といえばこの人をおいて他にない池田学氏は、石と木々に囲まれて佇む大作「ブッダ」から、ロボット蟹がうごめく「航路」、ラピュタを連想させる「地下の種」などを出展し、その存在感を示す。

池田氏と対面に展示された三瀬夏之ヶ介氏による巨大な「だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる」は、そのおどろおどろしい迫力と和紙に墨という素材も相まってまるで現代の丸木位里を思わせる。

個展を見逃してしまった岡本映理氏は、カラフルな色使いの緻密画「奪還」で裏ディズニーのような異世界を、人気の束芋氏は古き下町を再現したかのような家屋のオブジェを覗くとアニメが流れる仕掛けで、妖し懐かしい世界を表出する。

通奏するのは、「和」だ。
だからこそ、本展を企画したミヅマアートギャラリーの三潴(みづま)末雄ディレクターは「ジパング展」と命名したのだろうが、じつのところワタシには本展はキュレーターの“意志”はあまり感じられず、とりあえず氏のお気に入りのアーティストの和テイストの作品を並べてみました…という印象。

作品解説や出展一覧も用意されておらず、若手現代アーティストのショーケース・ライブといった感じだ。「企画展」としては物足りなさを感じるが、あえて解説を排し、“素”のままに作品に触れてください、というのが本展の意図するところなのかもしれない。

そうした意味で、“素”のワタシを捉えたのは、展示の最終コーナーに置かれた二人の女性作家の作品だった。

風間サチコ氏による「大日本防空戦士・2670」(上図)と題された巨大“版画”では、鎧をまとった“スラムキング”を思わせる巨人がゴジラのようにビルの谷間にそそり立ち、兵士たちの攻撃と対峙する。
はたしてこの戦争は過去のものなのか、未来を暗示するものなのか?
異様な迫力で観る者にその問いを迫る。

そして、熊澤未来子氏の「浸食」。
セーラー服の少女からゴミ箱から人形から交通標識まで、ありとあらゆるものがブラックホールに吸い込まれるかのように、球体ガジェットと化してキャンバスに渦巻く。
それもまた、われわれの社会の写し絵として、鋭く提示される。

この二人の若い作家と出会えたことでも、ワタシにとっても収穫であった。

それにしても、最後に展示された指江昌克氏の「MOON」はじつに暗示的だ。
2009年の作品だというが、ガレキの上に、救い出されたかのような昭和レトロな店々が球体となって中空にポッカリと浮かぶ不思議な絵図。背景には暗くよどんだ雲の下に、かすかに明るい空が拡がる…。

この絵をあえて最後に展示したこともまた、企画者の意図なのだろうか…。

「ジパング展」の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「現代アートの名作が目白押し」--弐代目・青い日記帳
「保証書付きの現代美術の展覧会」--noricolumn
「31人もの大デレゲーション持ち味の異なる作品が並ぶ」--Art & Bell by Tora

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コメント

_ とら ― 2011/06/09 09:40

TBありがとうございました。それから「参考レビュー」にもあげていただいて恐縮です。
どんなアートもその時代には現代アートですが、世界に羽ばたき、時代を超えて残っていくものはわずかでしょうね。
そういった可能性のあるわが国の作品を、私のような旧世代の観客の多い会場で展覧するという試み自体は素晴らしい実験だったと思います。

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_ 弐代目・青い日記帳  - 2011/06/10 23:00

日本橋高島屋8階ホールにて開催される
「ZIPANGU:ジパング展−31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン。−」に行って来ました。


ZIPANGU/ジパング展 official website

「日本の現代美術の魅力を世界に向けて発信する。日本人自身にもその魅力を再認識して欲しい」というメッセージを込めて震災前から企画されていた展覧会。開催が危ぶまれましたが関係者の努力によりいよいよ開幕となります。

ミヅマアートギャラリーとイムラアートギャラリーを中心に、Ota Fine Arts、ギャラリー小柳、西村画廊、無人島プロダクション、ユカリアート・コンテンポラリーが誇る現在の日本を代表する31名のアーティスト作品が高島屋の会場へ居並ぶ姿は感慨深いものがあります。


池田学、棚田康司、三瀬夏之介

注:展示室の画像はプレス内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

【参加アーティスト】
会田誠、青山悟、池田学、石原七生、上田順平、O JUN、岡本瑛里、風間サチコ、樫木知子、熊澤未来子、鴻池朋子、近藤聡乃、指江昌克、染谷聡、棚田康司、束芋、天明屋尚、南条嘉毅、藤田桃子、町田久美、三瀬夏之介、宮永愛子、森淳一、山口藍、山口晃、山?史生、山本太郎、山本竜基、吉田朗、龍門藍、渡邊佳織


染谷聡、山本太郎、石原七生

「ジパング展」キュレーターである、三潴末雄(ミヅマアートギャラリー ディレクター)氏はこうした現代アートの展覧会を多くの幅広い年齢層の方にご覧頂く為に伝統ある高島屋という百貨店を会場に選んだそうです。

また、東京展だけでなく大阪高島屋、京都高島屋にも巡回。関西地方の現代アートファンの方にとってもまさに待ち望んでいた展覧会となるでしょう。


会田誠、鴻池朋子、町田久美、天明屋尚、山口藍、山?史生

普段ギャラリーで開催する個展は新作発表の場ですが、「ジパング展」はあくまでも展覧会。過去の名作をずらりと揃えているところが大きな見所のひとつです。

会田誠氏の「大山椒魚」、天明屋尚氏の「神風」、束芋氏の「にっぽんのちっちゃい台所」、森淳一氏の「coma」、渡邊佳織氏の「開け心」等など。一度は目にしておきたい現代アートの名作が目白押しです。


上田順平、山口晃、森淳一、O JUN

更に6月1日から20日までのひと月に満たない開催期間中にこれだけのイベントが予定されています。(予約不要、整理券配布無しとのことですが、大丈夫かな〜)

6月4日(土)山口晃 アーティストトーク+サイン会
時間:14:00より 
入場無料、予約不要

6月5日(日)山本太郎 アーティストトーク+サイン会
時間:14:00より 
場所:日本橋高島屋 8階ホール(展覧会会場)
参加費:無料(入場時に展覧会チケットをお買い求めください)
予約:不要
作家が展覧会会場を回りながら作品の解説をいたします。

6月11日(土) 三瀬夏之介 アーティストトーク+サイン会
時間:14:00より
場所:日本橋高島屋 8階ホール(展覧会会場)
参加費:無料(入場時に展覧会チケットをお買い求めください)
予約:不要
作家が展覧会会場を回りながら作品の解説をいたします。

6月12日(日) 鴻池朋子 アーティストトーク+サイン会
時間:14:00より
場所:日本橋高島屋 8階ホール(展覧会会場)
参加費:無料(入場時に展覧会チケットをお買い求めください)
予約:不要
作家が展覧会会場を回りながら作品の解説をいたします。


6月18日(土) 三潴末雄(ミヅマアートギャラリー)キュレータートーク
時間:14:00より
場所:日本橋高島屋 8階ホール(展覧会会場)
参加費:無料(入場時に展覧会チケットをお買い求めください)
予約:不要
本展覧会のキュレーターが展覧会会場を回りながら作品の解説をいたします。

6月19日(日) 天明屋尚 アーティストトーク+サイン会
時間:14:00より
場所:日本橋高島屋 8階ホール(展覧会会場)
参加費:無料(入場時に展覧会チケットをお買い求めください)
予約:不要
作家が展覧会会場を回りながら作品の解説をいたします。


吉田朗、樫木知子、風間サチコ、熊澤未来子

別段、壁紙やライティングに細工を施していませんが、いつもとまるで雰囲気の違う空間(日本橋高島屋8階ホール)となっています。31名の現代アーティスト作品の中で最も自分の感覚にしっくりくる作品を探して観るのも佳し。はたまた一点だけ譲ってもらえるならどれが欲しいか。。。なんて基準で観るのもまた楽しいもの。

何も難しい顔して腕組みしながら蘊蓄語りながら観るのが現代アートの見方ではありませんからね。また普段はまず一緒に展示されないであろう作家同士の「共鳴」も「ジパング展」の楽しみ方のひとつです。

「ジパング展」は6月20日までです。その後、大阪( 8月31日〜 9月12日) 京都(9月28日〜 10月10日)高島屋に巡回します。


「ZIPANGU / ジパング展」

会場:日本橋高島屋8階ホール
会期:2011年 6月1日(水)〜 6月20日(月)
時間:午前10時〜午後7時30分(8時閉場)
※最終日は午後5時30分まで(6時閉場)
主催:読売新聞社
協賛:株式会社サンエムカラー冒険家マルコ・ポーロが、わが国を黄金郷であると伝えた時と同じように、いま日本は新鮮な発見と驚きをもって世界に迎えられています。
人々の視線の先にあるのは、産業技術や食文化だけではなく、独自の美的世界から表現された日本の現代アート。
本展では、21世期の現代アートを担う31人の気鋭作家により、絵画や立体、映像などの作品を展観。欧米美術の枠組みにとらわれることなく、エネルギッシュかつ自由闊達に表現された見る人を熱く、高ぶらせるような作品の数々をご覧ください。
この展覧会に合わせて作られたオリジナルグッズも充実しています。しかも現代アートグッズとしてはとてもお手頃な値段設定となっています。(クリアファイル:350円、限定サイン入りポスター1680円他)

『加藤泉作品集 絵と彫刻』刊行記念展覧会も開催されます!


『加藤泉作品集 絵と彫刻』−作品集出版記念展−
NADiff Galleryとアラタニウラノとの2展同時開催。

NADiff Gallery
2011年6月3日(金)〜7月3日(日)

アラタニウラノ
2011年6月11日(土)〜7月16日(土) 月曜日休廊 
12:00〜20:00

近年、とみに注目されるアーティスト、加藤泉。
2007年のベネチア・ビエンナーレ国際企画展に招待作家として参加するなど、国内外において精力的な活動を続け、ときわ光彩を放っています。初期から、一貫して「生きもの」をテーマにした油彩画を制作。
また、油彩画と併行して発表を続ける木彫作品(2005年から)は、「生命体」としてのプリミティブな存在感とともに、現代の不確かな身体性を表わしているようにも思われ、見るものの心を捉えて離しません。
本書では、初期から現在までの代表作を網羅、油彩画と木彫作品をそれぞれ分冊にして収録した初の作品集です。

インタビュー:加藤泉×青野和子(原美術館主任学芸員)
アートディレクション:重実生哉

Twitterやってます。
@taktwi

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2516

JUGEMテーマ:アート・デザイン

「ジパング展」の図録は一般書籍として青幻舎さんより発売になります。

_ 好奇者さんいらっしゃい! - 2011/06/11 14:14

日本橋高島屋で開催中の「ZIPANGU」展に行ってきました。

キュレーションは、現代美術を中心にアートシーンに貢献する

ミヅマアートギャラリーの三潴末雄さん。

天明屋尚さんとのトークイベントで、

このZIPANGU展の計画を聞いてから、首を長くして待っていました。