【アート】ヘンリー・ダーガー展2011/05/06

ヘンリー・ダーガー展
「アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』」と題された本展に足を運ぶまで、じつは寡聞にしてこのヘンリー・ダーガーなる作家のことは、まるで知らずにいた。まったくお恥ずかしい限りだが、その鬼気迫る創作欲と奇異なる人生に驚愕し、また大いに考えさせられるという貴重な体験を得た(5月4日・ラフォーレミュージアム原宿)

何しろその謎にみちた生涯の間、誰一人として知られることなく、黙々と創作活動を続け、死後その膨大な作品が死後発見された…。そしてその作品が、暴走する妄想にあふれたアートワークとして、驚愕をもって迎えられた。
じつはそれだけの情報だけで本展に駆けつけたわけたが、その壮大な“物語世界”は、実に摩訶不思議な、なんとも言い難い魅惑をもって、観る者に迫ってくる。

19歳から81歳で死を迎えるまで、ダーガーが執筆・作画したとされる15,000ページにも及ぶ小説『非現実の王国で』は、彼が部屋を去った後、部屋の片付けに入ったアパートの大家によって発見されたという。 そこには子どもを奴隷として虐待する暴虐非道な男たちを相手に、壮絶な戦いを繰り広げる7人の美少女姉妹“ヴィヴィアン・ガールズ”の苦難に満ちた冒険が綴られていた…。

作品展はダーガーの生涯を辿りながら、そのポップ感溢れる挿絵の展示を主に展開される。まるで子どもが描いたようなその“作品”はけっして「上手い」というシロモノではないが、よく見れば人ひとりの役割(所作)がキッチリと描かれたキッチュなヘタウマ感に溢れている。

作画に自信のなかったダーガーが、必要に迫られてトレースやコラージュといった技法を駆使したことで独特のガジェット感が生れた。その独自(特異)性によって、“アメリカン・アウトサイダー・アートの代表的な作家”と称されるに至る。

しかしながら、その絵物語はけっしてメルヘンチックなものばかりでなく、少女たちの股間にはペニスが生え、南北戦争の戦禍を連想させる壮絶な戦いが描かれ、医学書をも研究したとおぼしき陰惨な虐殺体の内蔵までが緻密に描かれる。

まるで、人の人生が、人の“業”がそうであるように、愛と暴力と不条理が混在したカオスが、ダーガーの脳内ワールドから解き放たれる。

それをターガーは、たった一人の読者である自身のために、60年にもわたって書き(描き)続けた…。つまりこのダーガーの膨大な作品群は、表現とは何なのか? アートとは何なのか? ひいては人間とは何のなのか? という根源的な問いをワタシたちに突きつけているのだ。

そうした「問い」に呼応するかのように、会場には、やくしまるえつこ(相対性理論)、菊地成孔(ジャズ・ミュージシャン)、リリー・フランキー(作家)、斎藤環(精神科医)、藤田康城(演出家・ARICA)など、さまざまな立場からこの奇異なる作家への賛辞とオマージュが掲げられている。

そして、ダーガーの作品には戦争や自然災害に立ち向かう人たちの勇気が讃えられている…と、解説されたエピローグには、こうも記されている。
「人生は残酷で壊れやすい。だが美しく、人は力強く生き抜いていく。ヘンリーの人生と創作は その痛ましい証明だ。」…

まさに、大震災後のこの日本で、本格的なダーガー展が開らかれたことに、不思議な縁を感じてならない。

『ヘンリー・ダーガー展』の参考レヴュー一覧(*タイトル文責は森口)
「非現実と現実のパラレルワールドの如き世界観」--弐代目・青い日記帳
「2011年の中で、最高の展示」--atsushisaito.blog
「表現者としてショック。でも愛おしくて面白い」--なんでも研究室
「壮大な空想世界を築きあげた孤独な作家の、創造の神秘」--asahi.com

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_ 弐代目・青い日記帳  - 2011/05/08 11:13

ラフォーレミュージアム原宿で開催中の
「ヘンリー・ダーガー展 アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』」に行って来ました。



ハウス オブ シセイドウで2005年に開催された「Passion and Action―生の芸術 アール・ブリュット」展で初めて目にしたヘンリー・ダーガー.あの日から6年。再び予測不能な衝撃と他では決して味わえない感動を得るため雨の降る中ラフォーレ原宿まで。

ヘンリー・ダーガーが日本で初めて紹介されたのが1993年「パラレル・ヴィジョン展」@世田谷美術館。ダーガーが40年暮らした部屋の家主で、遺作の発見者であるネイサン・ラーナー氏からのオマージュも展示されています。


まずはヘンリー・ダーガーの生い立ちから「大人」になるまでをパネルで解説する「Early Days」でダーガーが歩んだ道のりをしっかり予習。ここ大事です。

注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

ダーガーの作品の謎を解き明かすためのヒントが幾つも隠されています。例えば執拗に彼の作品に登場する少女たち。しかし生きた眼差しはほとんど感じられず、作家との距離感が異様なまで感じ取れます。

それもそのはず、彼の人生の中で女性と接した時間が極端に少ないのです。ヘンリー・ダーガー4歳の誕生日を迎える直前、出産時の感染症により母親が他界。生れたばかりの妹はすぐさま養子に。

幼い男の子の心に深い傷を残したことは想像に難くありません。ヘンリーは「自分には母親の記憶がなく、妹の顔も、名前も知らない。」と綴っているそうです。


ヘンリー・ダーガー(左)『サリー・フィルダー、デイジー、へティ、ヴァイオレット、アンジェリニア・アーロンバーグ、ジョイス、ジェニー、アンジェリン、キャサリン、マージョリー・マスターズ』(右)『マルコチノの第二戦、グランデリニアンが仕掛けた破壊的爆発からも逃走。』
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011

男の子にとって女性親は幾つになっても恋しいもの。それなのにその大事な大事な母親の記憶が欠落し、妹も家から連れ去られ、父親と暮らす破目に。

ほどなく父親も亡くし天涯孤独の身となったダーガー。シカゴの街を一歩も出ることなく54年間黙々と淡々と病院の掃除夫として働きながら糊口を凌ぐ暮らしを。


ヘンリー・ダーガーが暮らした部屋と本邦初公開の遺品の数々。彼が使用していた画材も展示されています。水彩絵の具は子供用のものだったりします。

しかし、皮肉なことにこうした「孤独」な環境こそが大作を生み出すことに。来る日も来る日も幼い時と同じあだ名「クレイジー」と呼ばれながら病院の掃除夫として働き、アパートに帰り独り黙々とタイプライターに向かい世界一の長編小説『非現実の王国で』を打ち続けたダーガー.

費やした時間何と60年!!間違いなく世界一の長編小説『非現実の王国で』(1万5千ページ以上)の挿絵として描かれたこれまた膨大な数の絵画。


作品展示風景。横長の薄い紙両面にびっしりと水彩画で描かれているヘンリー・ダーガーの作品。両面を観られるような工夫がされています。「プロペラ型」?のパネルを採用。

照明も明るくし過ぎると支持体が薄いので裏に描かれた絵が透けて見えてしまうそうで、やや照度を落とした展示会場となっています。これが効を奏し独特のムードを漂わせています。


ヘンリー・ダーガー『キラキラ輝くブレンゲン。ボイ・キング・アイランズ。一匹は年若いタスカホリアン、もう一匹は人の頭をしたドロテリアン』
Collection of Kiyoko Lerner (C)Kiyoko Lerner,2011

誰に頼まれたわけでもなく、誰に見せることもせず、ひたすら書き・描き続けた『非現実の王国で』を軸に展覧会は展開されています。

物語の正式名は『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコーアンジェリニアン戦争の嵐の物語』

悪魔を信奉し、子供を奴隷として虐待する邪悪な大人の男たちが君臨するグランデリニアと、子供奴隷制の廃止を求めるキリスト教の国々の間で繰り広げられた、4年と7カ月におよぶ戦争の歴史。


「プロペラ型」の展示がその迷宮を更に深化させ、鑑賞者の通常の感覚(美術館での鑑賞の常識)をどこかへ連れ去ってしまいます。

ヘンリー・ダーガーの非現実と現実のまさにパラレルワールドの如き世界観。来歴を読んでも作品を目の前にしてもその謎は晴れることありません。そればかりか迷宮の奥へ奥へ自然と足が向かってしまいます。そう無意識に。

残虐なシーンあり、一面のお花畑のシーンありと一見荒唐無稽の破天荒な作品に観えますが、それは理性的、合理的に観ているからに過ぎません。

アウトサイダーアート、アール・ブリュット。そんな言葉はあくまでもこちら側の理屈から派生したもの。ヘンリー・ダーガー自身はいつだって大真面目で彼の王国を築きあげていたのです。来る日も来る日も。。。


そうそう、ヘンリー・ダーガーの作品とかく女の子に目が行ってしまいがちですが、実は最もユニークで彼の「本性」が現われていると思われるのが、雲です。

よーく、雲に注目して観て下さい。

「狂気」「子供」などを近代的価値に対峙するものとして再認識・・・なんてご託を並べる必要ゼロ。まずは彼の作品と対峙してみて下さい。

映像作家のブリュノ:デシャルム氏(abcdコレクション代表)の映像作品に、2008年滋賀県立近代美術館が展覧会を開催した際、日本語字幕が付けられた約10分間のビデオも会場内で流れています。必見!

映像音楽が適度な音量で会場内に響き一層独特の展示空間となっています。日本初公開となる約80点にものぼる作品に加え、ヘンリー・ダーガーの遺品の数々それに彼を畏敬する著名人からのオマージュなどから構成されています。

今回の展覧会は、作品所有者であるキヨコ・ラーナーさん、ロバート・ロスさん、シカゴのヘンリー・ダーガー研究拠点「イントゥイット」からの貴重な作品提供に加え、日本側の監修者に小出由紀子さんが加わりタクトを振っていらっしゃいます。質・量・内容の三拍子揃ったダーガー展です。

「ヘンリー・ダーガー展」は5月15日までです。是非!

小出由紀子さんら貴重なインタビュー等満載の『芸術新潮』古本屋さんで見つけたら迷わずゲットです!


『芸術新潮 2005年 11月号』
特集:アール・ブリュットの驚くべき世界


「ヘンリー・ダーガー展」
〜アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く「非現実の王国で」

会場:ラフォーレミュージアム原宿 (ラフォーレ原宿6階)
会期:2011年4月23日(土)〜5月15日(日)   
時間:11:00〜20:00
[5月15日(日)は18:00まで]
料金:一般800円 / 学生600円
※ 小学生以下、ラフォーレカード会員は無料

こちらの展覧会も併せて是非!
「アール・ブリュット・ジャポネ展」

Twitterやってます。
@taktwi

この記事のURL
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2480

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