【本】師匠は針 弟子は糸2011/09/19

師匠は針 弟子は糸師匠は針 弟子は糸
古今亭 志ん輔

講談社 2011-03-26
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落語家が書いた本をそれほど手にしているわけではないのだか、それを大ざっばに分けるとすれば、落語論と自伝・エッセイ・雑感に大別できるのではないだろうか(もちろん混在している場合が多いのだろうが…)。

前者の代表作といえば、立川談志師匠による『現代落語論』立川志らく師匠の最新刊『落語進化論』 が挙げられるし、講談社エッセイ賞に輝いた立川談春師匠の『赤めだか』 などは後者にあたる。

古今亭志ん輔師匠の本書も、やはり後者に分けられると思うが、その胆(ウリ)となっているのは書名にも象徴されるように、今は亡き志ん朝師匠との想い出に尽きる。なにしろ“名人”の誉れ高い三代目・志ん朝が逝く間際まで、側に仕えた愛弟子だ。志ん輔師匠自身の言葉から、昭和の大名人の芸やしぐさ、生活の息吹まで識りたいという落語ファンは少なくないだろう。

じつはワタシもそのつもりで読み始めたのだが…、じつは瞠目は別にあった。
2章145ページにわたって、小さな文字でビッシリと1年間の日常が記された日記。「志ん輔のケータイ日記」と題されたこの日記を、当初ワタシは読みとばすつもりでいた。

ところが読み始めて、これがめっぽう面白い。
何がオモシロイって、現代の芸人がどのような日常を送っているか、のぞき眼鏡で覗いているかの如く(今ならさしずめライブか)、その生活ぶりがつぶさに開示されているのだ。

例えば、師匠は高座の前にしばしばカラオケに立ち寄る。咽ならしをカラオケで行っているのだ。考えてみれば合理的かつ経済的で道理のいく話なのだが、なんだか噺家→咽慣らし→カラオケというイメージ(絵柄)に意外性があって妙に可笑しい。
東京だけでも500人近い噺家がいるというが、ほかの噺家も師匠と同じようにカラオケを利用しているならば、カラオケ業界は落語協会に感謝状を贈るべきだろう。

そんな具合に、この日記では(ご本人以外も含めて)現代落語家の生態がつぶさに明らかにされる。
そこには、健康に注意を払い、高座での観客に一喜一憂し、寄席と落語会場の行き来に右往左往し、ときに深酒をしては後悔をし、時間を工面して一人孤独に稽古に励み、弟子の態度に腹を立てては雷を落とし、弟子のことで内儀サンと夫婦喧嘩をし、娘の進学を心配する一人の芸人であり、生活人がいる…。

これはれっきとした日記文学ではないか。本書を100年後に読んだ人たちは、きっとこのビビットな生活感溢れる当時(現代)の芸人の生活ぶりに驚くことだろう。

ある時代を生きた、ある一人の芸人の貴重な「記録」だ。ならば志ん輔師匠以外の噺家たちの日記も、覗いてみたくなる…。志ん輔師匠と対極にあるような(芸風です!)白鳥師匠などは、いったいどんな生活を送っているのだろうか?…なんて、ああ妄想モード(笑)。

例えば、(高座を共にすることが多い)三人ぐらいの噺家の日記をそれぞれ載せて、それぞれの立場から観た高座や落語観の違いが浮き立てば、それもまた興味深し。どこかで企画してくれないかなぁ。

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