【本】新書 沖縄読本2011/09/11

新書 沖縄読本 (講談社現代新書)新書 沖縄読本 (講談社現代新書)
下川 裕治

講談社 2011-02-18
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いわゆる「沖縄本」があまた世に氾濫するなかで、「沖縄ブームに落とし前をつける」として、この道の手練である二人の書き手(下川裕司氏・仲村清司氏)が書き下ろした、沖縄の今(真の姿)を直視した書。

冒頭から本土(ウチナンチュ)が描く沖縄のイメージを壊すショッキングな報告がなされる。長寿県として知られる沖縄が、じつは今、危機的な状況に陥っているというのだ。沖縄の伝統食に支えられてきた長寿文化は、ファストフードの急速な普及によって肥満率はなんと日本一となり、県民総メタボ化が進む。

さらに元気で働くオジィ、オバァたちの姿も消えつつある。その背景にあるのは、本土資本の流入による地域の崩壊と貧困だ、著者たちは指摘する。

ワタシも目にしたが石垣島などは、本土資本による観光開発と本土からの移住者によってホテルやマンションが急増。土地の値段も高騰しているという。それによって老舗ホテルが廃業に追い込まれるなど、多重債務に喘ぎ、自殺者も急増する深刻な沖縄経済の実相をあぶり出していく。

このように著者たちは、自らが加担してきた「沖縄ブーム」の影で、さまざまな“沖縄クライシス”が進行していることを自戒を込めて告発する。

もちろん基地の問題も避けては通れない。
『好きになっちゃった沖縄』『沖縄オバァ列伝』 といった、ノベルティな(?)沖縄エンタメ本を手がけてきた著者たちも、ここでは「アメリカが普天間にこだわる真の理由」として、真正面から基地問題に切り込む。

もっとも政治的なテーマだけではなく、沖縄の人々や暮らしを深く考察してきた著者たちだけあって、食生活や高校野球、音楽・芸能から、本土からは伺いしれない独自の文化世界を描き出していく。

そのあたりが二人の強みだろう。『観光コースでない沖縄』『だれも沖縄を知らない 27の島の物語』 といった、他のアナザーサイド沖縄本とは一線を画する所以だ。

「離島」に対するアンビバレントな感情などもディープに切り込む。
ワタシも西表島を旅した際に、近隣の島から移住した人たちによる稲作の跡をみたが、それが厳しい「人頭税」によるものであったことを本書によって知った。そこには牧歌的な風景とは縁遠い、歴史の軛(くびき)が影を落とす。

ほかにも、本土復帰前に沖縄に住んでいた期間の保険料が免除される「年金特例」など、本書で学んだことは少ないないが、手軽に手にとってもらえる「新書」にこだわったためだろうか、一冊に収めるにはやや窮屈なボリューム感も感じられた。

 「沖縄が好き。癒やされる」と言うウチナーンチュに対して、知念ウシ氏(ライター)は、「沖縄には日本(本土)から年間五百万人が来る。沖縄が好きなら五百万人で国会議事堂に座り込んで基地をなくしてほしい」と、喝破した。

変わりゆく沖縄と、そこに深く関わる日本(本土)。ブームに隠された沖縄の真実を、今後も地についたレポートとして照らし出してほしい。
巻末のブックガイドも秀逸。

『新書 沖縄読本』の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「ブーム終焉後を漂う今」--琉球新報(新城和博氏)

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