【本】ジプシーを訪ねて2011/03/21

ジプシーを訪ねて (岩波新書)ジプシーを訪ねて (岩波新書)
関口 義人

岩波書店 2011-01-21
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著者の関口義人さんには、たしか以前に一度お会いしたことがあって、貴重な民族音楽のとレコード(LP)をお借りしたような記憶があるのだが、判然としない…。
アーティスト招聘の仕事などをされている頃だったかと思うが、その時も自由人のなかにどこか学究肌が感じられたこともあって、現在、大学で教鞭(音楽マネージメント論、民族音楽研究ほか)をとられているというのもしごく納得。

さて、その関口さんが探究してこられた「ジプシー」に関する新著。
『ジプシー・ミュージックの真実』『バルカン音楽ガイド』 などで、既にジプシー・ミュージックの全容について触れてきた著者だが、本書はさらに彼らが生み出す音楽や文化を超えてジプシーという「人間」そのものに迫っている。

まずは、インド北西部が起源とされる彼らがやがてヨーロッパ、アラブ、アジア各地へと拡散・移動し、ときに(いや、多くの場合は、か)蔑まされながらもしたたかに生き続けてきたことなどが概況される。
その呼称は、ロマ、ツィガーヌ、ヒターノ、マヌーシュ、カーロ、シンティ、ドム…などさまざまで、しかも長年の混血からかアフリカ人やインド人のように黒い肌をもつ者から、ラテン的褐色、アジア的有色、さらには「真っ白な」白人まで、顔の色だけ見てもじつに多様だという。

しかし、どの地域での「ジプシー」であっても、「難民や不法移民が多い上、失業率、非識字率、貧困率の異常な高さの一方で、社会的に存在を認められる『市民』の資格をもつ比率の低さは、変わりがない」という。

そうしたジプシーの置かれた位置を確認しながら、著者は彼らのもつ強烈なエネルギーに導かれるように、その“森”の奥へと足を踏み入れていく…。

ふだん着の彼らの生活を知るために、優れたジプシーの通訳を雇い、ジプシーの「首都」や「王」を訪ねて歩く。そこには、歴史の中ではなく、現代を生きるジプシーたちの生々しい息吹が聞こえてくるのだ。

しかしながら、これだけジプシーたちに寄り添ってしまった著者に客観的ルポを求めるのは無理で、時としてそれは「なぜ自分はこうもジプシーに惹かれるのか?」という自身への問いを解き明かす旅の道程を思わせる。

それだけに、巻末に記された「ジプシーの未来像」は、著者による慟哭の記といえる。
何百、何千というジプシーに出会ってきた著者は、ジプシーに付与されてきた「放浪癖や自由勝手気まま、不道徳、夢見がちな人生観、自然児--」といったシンボリックな「幻想」をも受けとめたうえで、「彼らの姿を全体として総括すれば、『ジプシーという生き方』は幸せな人生ではないことになるだろう」と言い切る。
さらに、「ジプシーが政治的に目覚めたり、国会を形成するという未来像は、少なくともいま、私には思い描くことができない」と、諦観するのだ。

しかし、その一方で「二○世紀の前半には政治の思惑に振り回され、後半には経済の原則に支配されたこの世界に『幸福な生き方の規範(お手本)』など存在しないだろう」とも言う。
そこに、「ジプシーを見つめること、それは私たちの生きる社会を見つめることである」という著者の確固たる信念を見ることができるのだ。

ちなみに、本書を編集担当したのは「キキオン」の十時由紀子氏であることも最後に記しておきたい。

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コメント

_ セキグチヨシト ― 2011/03/23 07:40

丁寧な紹介をありがとうございます。
「音楽夜噺」というイベント(上記HP参照)をやっています。
一度お越しください。
関口

_ 森口秀志 ― 2011/03/23 21:11

関口さんへ

「音楽夜噺」のご案内ありがとうございます。
http://www.ongakuyobanashi.jp/
そのうち寄らせていただきます。

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