【アート】「船→建築」展2011/03/05

「船→建築」展
陸上に建てられた建築と海に浮かぶ船。そこに類似性が見てとれるというじつにユニークな視点によって企画された「船→建築」展に足を運んだ(3月2日・日本郵船歴史博物館)。

その“類似性”は単なる偶然ではなく、明らかに関連性をもつ。それが「建築→船」ではなく、「船→建築」への影響から生れているというのだからさらに驚く。
本展で冒頭に紹介される近代建築の巨匠ル・コルビュジェがその証左で、代表的な著作とされる『建築をめざして』 (1923刊)には、建築の本であるにもかかわらずその表紙には客船のデッキ写真が飾られている。
それだけでなく、本書には「商船」という章も設けられ、「新しい建築の形態」と位置づけているという。これはもう“証拠”を突きつけられたようなものだ。

このようにコルビュジェをはじめ多くの建築家にとって、船は機能性・合理性の象徴として、建築が目指す規範とされたことが、さまざまな展示によって証拠づけられる。

例えば、船の操舵室にみられる「流線型」の美が、次々と陸上の建築にも出現したことが指摘され、これまた船の象徴である「円窓」が、商業ビルをお洒落に着飾る意匠として採用されていく。

あの煙突のフォルムでさえ、ビルの頭ににっきりと生えた造形物でもって、その独特の美観に貢献する。その他にも、天窓、プロムーナードデッキ、手すり、階段、タラップなど船を形づくるさまざまな意匠が、陸上へと持ち込まれたのだ。

それは、コルビュジェらモダニズム建築の興隆が「船の時代」、つまり豪華客船が世界を結ぶ主な交通手段であり、文化使節としての役割をも果たしていた時代と軌を一にする。

なにしろ千人以上の人々が一つの船で、何週間、何カ月も共に生活するのだ。いきおいそこは住宅となり、街となり、人々の交流の場となる。船内が機能的でなければ、合理的でなければ、立ち行くはずがないのだ。
コルビュジェたちはそこに建築的な“美”を観たのだろう。

残念ながらと言うべきか、さすがのワタシもかつての大航海=豪華客船時代は知らない。しかしながら、本展に先立つ博物館の常設展で、そのまばゆいばかりの客船の様子が再現されている。

豪華なロビーや食堂、美術品ともいえる調度品に、本格的な和室までしつらえた船内には、テニスコートやプールから診療所、託児所、美容室まで生活に必要な全てが揃っているといって過言ではない。
そしてコルビュジェたちは、そこに人びとの暮らしの中にある建築の“理想”を観たのだろう。

やや拍子抜けだったのが、80点に及ぶ展示物の多くが写真や模型などの“小物”ばかりで、この巨大なシンクロニシティの迫力を十分に実感できなかったこと。たとえ借景でも、一部でもいいから、実物大の建築物があればこの“発見”がさらなる迫力をもって提示されたかと思うのだが…。

「船→建築」展の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「客船のデザインが、建築に与えた影響を丹念に探り出す」 --Chart Table
「客船は最先端の機械であり、動く集合住宅だった」--artscape(五十嵐太郎氏)
「客船にも通じるコルビュジェの『建築の中を散歩する』」--asahi.com(西田健作氏)
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