【本】1秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二2011/03/26

1秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二1秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二
古賀 重樹

日本経済新聞出版社 2010-11-30
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論じられ尽くした感もある、日本映画が世界に誇る三大巨匠・黒澤明小津安二郎溝口健二の作品論だが、その論評群に、また新たな頁が加わった。

本書の新機軸は、「美」としての映画作品を探究している点にある。
日本経済新聞に連載中の「美の美」という美術特集で取り上げた、黒澤、小津、溝口各監督の記事を大幅に加筆、改稿したという本書によって、かの映画作家たちがいったいどんな「美」をフィルムに焼き付けようとしたのか、それがつぶさに語られる。

「完全主義」と評された黒澤映画では、『羅生門』で墨汁の雨を降らせ、『天国と地獄』の疾走する特急列車から身代金を渡すシーンのために民家が二階屋が取っ払われた。
さらに、『影武者』では130頭の馬と10数人の獣医が集められ、馬術指導の号令で獣医が次々と馬に麻酔を打ち、阿鼻叫喚の合戦シーンを描いたという…。

小津もまた凄まじく、『秋日和』で原節子や司葉子の、『秋刀魚の味』で岩下志麻の背景に飾られた絵はいずれも“本物”の名画が使用され、小津自らが「ミリ単位で」掲げる位置を決めた。

さらに、盟友だった美術監督の水谷浩とともに、“溝口神話”を築いた溝口健二。戦時統制で「民間に回すフィルムは一フィートもない」といわれた1941年に制作された『元禄忠臣蔵』では、江戸城の“松の廊下”を原寸大で再現してみせた。

もっともこれらのエピソードは、多くの映画ファン、各監督作品に精通する者なら一度は耳目にした事柄に違いない。

しかしながら、それら周知の事実を並べ、縦横に編み込むことで、三人の監督の“美”に対するこだわりや、撮影・編集・演技指導、さらには映画に対する考え方などが、見事に対比される。

新聞記者らしいわかりやすく記述は、じつに教科書的で、やや物足りなさを感じる読者もいるだろう。そうした意味では、本書は映画を知り尽くした映画オタクのものではない。
されど、単なる映画好き、映画初心者からもう一歩踏み込んで、映画という芸術が持つ奥深さを堪能したい人にとっては、格好のガイドといえる。

『1秒24コマの美』の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「巨匠の映画 核心にある『絵画』--asahi.com(横尾忠則氏)

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