【映画】愛を読むひと2011/05/15

『愛を読むひと』
『愛を読むひと』(2008年・監督:スティーブン・ダルドリー)

本作を成功たらしめているのは、やはりそこに“ナチス”という重い重い軛(くびき)が描かれているからだろう。
単に、男と女、世代間、ドイツで、というだけでなく、この“ナチス”という人類史が背負った重い十字架が背景にあるからこそ本作は重く、我々に永劫の問いを投げかける…。

舞台は第二次大戦後のドイツ。通学中に気分が悪くなった15歳の少年(ダフィット・クロス)を、通りすがった年上の女性が介抱し、やがて二人は恋仲となる。『タイタニック』ではそのオバサン顔が仇となって(?)オスカーを逃したケイト・ウィンスレットが、ここではその“老け”具合を利して、生活に疲れたややあばずれた20歳も年上の女を見事に演じる。

女の求めて応じて、少年はさまざまな本(物語)を読み聞かせる。まるでその“朗読”が、この禁断の愛の密やかな確認であるかのように…。
しかし、少年は同世代の少女に心を揺らし、女は突如して少年の前から姿を消す。

やがて時を経て二人が再開したのは法廷で、であった。
少年は法科習生となり、被告席にはナチスの収容所で看守として働いていた女の姿があった…。
女は自身を弁護するための“秘密”を明かさないまま、無期懲役の判決を言い渡される。

“秘密”を知るかっての少年は、やがて弁護士(レイフ・ファインズ)となり自問する。自分は何が彼女にしてあげられのかと…。
やがて、朗読を吹き込んだテープが次々に刑務所に届き始める。

これだけを書けば、たわいもない純愛劇だ。

しかし繰り返すが、本作を単なる忘れじの初恋純愛劇でもなく、禁断の愛の物語に終わらせないのは、“ナチス”を異化装置として、彼(彼女)ら選択(生き方)を現代のワタシたちに問うているからだ。あなたなら、どうしただろうか? と。どうするだろうか? と。
そして、未だ殺戮と、圧政と、迫害・・差別、渦巻くこの世界と歴史の中で、あなたがたはどう生きているのか? と…。

『めぐりあう時間たち』で、やはり時間と場面に自在に往来するという映画ならでは手法を駆使したダルドリー監督は、本作ではその手練(マジック)に磨きをかけて魅せる。

本作で念願の主演女優を射たウィンスレットのみならず、娘とも打ち解けずにいる中年弁護士の内なる苦悩を、あの『シンドラーのリスト』でSS将校となったファインズが、見事に演じている。

しかし、ドイツを舞台にしながら、全編英語で語られるという相変わらずの米映画帝国主義的な発想には、やはり鼻白む。

『愛を読むひと』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「優れた原作と素晴らしい映画の幸福な出会い」--映画通信シネマッシモ(渡まち子氏)
「ハンナとマイケルの自分探しの旅」--地中海ブログ
「社会的弱者の悲劇的確執」--佐藤秀の徒然幻視録
「極上のドラマ、ウィンスレットの映画」--映画ジャッジ!(岡本太陽氏)
「二人の『痛い』関係は表現出来たものの全体はいまいち」--超映画批評(前田有一氏)
「心の揺れ動きの描写が見事」--ツボヤキ日記★TSUBOYAKI DIARY

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コメント

_ (未記入) ― 2011/05/27 18:01

少年の頃経験した恋愛を、その後彼は誰にも告げられなかった。それは、純粋であったけれど 冷静に考えれば尋常ではない恋愛である。しかも 彼は突然の彼女の失踪で傷ついたままなのだ。その心に抱えた闇に、彼はその後まともに恋愛も出来ないし、結婚しても離婚してしまう。
・・彼女も本を読めない、という事実の背後にユダヤ人収容所で看守をしていた、という過去があり、無意識に彼女はその罪悪感にふたをしている。読めないままでいる、というのがそれをあらわしている。其れを直視してしまえば、事の重さにとても生きていけないだろう
同様に彼も自分の心にふたをしているままでは 本当の意味で生きていけないのである
彼らがそれぞれに心の闇を言葉にして読み解いていくこと、認知していく事。それがテーマだったような気もするのです

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_ 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評 - 2011/05/15 23:05

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