【TV】鬼平外伝 夜兎の角右衛門2011/03/24

『鬼平外伝 夜兎の角右衛門』
『鬼平犯科帳』のスピンオフとして3月21日に放送された時代劇『鬼平外伝 夜兎の角右衛門』。CSの「時代劇専門チャンネル」の放送ということで聴視者も限られたかと思うが、内容が素晴らしかったので、遅まきながらここに取り上げる。

「鬼平」こと火付け盗賊役・長谷川平蔵に中村吉右衛門を配して人気を呼ぶ『鬼平犯科帳』だが、2001年の第9シリーズを最後に週一での放送はなくなり、近年は時折スペシャルとして放送されるのみになってしまった。
伝え聞くところによると、池波正太郎原作の作品のなかでTVドラマ化できる作品はもうないらしく、実際に「スペシャル」では今まで脚本化された作品の焼き直しやリミックスばかり。

加えて、“相模の彦十”がはまり役だったの江戸屋ねこ八亡き後、あの情があり、笑いとペーソスがあり、そして凄味のある「鬼平ワールド」はもう堪能できないのかと寂しく思っていたところへ登場したのが今回のスピンオフ企画だ。

資料によると、池波正太郎は「鬼平」を書き始める前に、何本もの"盗賊"を主人公とした短編を書いており、その短編集『にっぽん怪盗伝』 から鬼平こと"長谷川平蔵"が脇役として登場する「白浪看板」が、今回の企画として選ばれたという。

今までのシリーズのなかでも、盗賊にスポットを当てた作品がなかったわけではないが、今回はもろに盗賊を主人公として、鬼平をまったく登場させないという“英断”によって、むしろ「鬼平ワールド」を見事に再現するという快挙に出た。

「鬼平」をこよなく愛する制作陣の、執念ともいえる“思い”が見事に結実している。

「犯さず」「殺さず」「貧しき者からは奪わず」という“掟”を守ってきた大盗賊・夜兎の角右衛門(中村梅雀)とある日、女乞食(荻野目慶子)と出会う。
彼女の片腕が、自分の配下によって切り落とされたことを知った角右衛門は、“掟”に従って火付盗賊改方に“自首”する。ところが、なぜか斬首されずに牢屋に留め置かれるのだ…。

その後の展開はお察しのとおり、“密偵”として鬼平配下となる角右衛門なのだが、その間の逡巡や悔恨、さまざまな感情沸き起こるドラマを緻密な脚本(金子成人)と役者たちが描いていく。

とりわけ脇を固める役者たちの演技が素晴らしい。
とても味のある役者なのに近年ひっぱりだこの人気で、どうも最近は“しょっぱい”演技が目立つ“佐嶋”扮する平泉成の凄味はどうだろう。鬼平不在を補って余りある存在感を示す。
さらに、角右衛門に仕える石橋蓮司の上手さ、“盗賊”本田博太郎の狂気を孕んだ役づくりなど、いずれも「鬼平シリーズ」では常連ともいえる面々すさまじい“競演”が繰り広げられる。

逆に「鬼平ワールド」という縛りがあるだけに、制作陣も役者たちも自由に“創作”ができたのではないだろうか。
“無常観”漂わせる哀しいラストも、まさに鬼平がこの間の顛末を静かに見守っていたのかの如く、ワタシたちの胸にストンと落ちる。

そうか、こういう手もあったのか!と膝を打つとともに、ならば人を殺めた過去をもつ密偵“伊三次”や、腹心“佐嶋”やひょうきん者の“うさ忠”を主人公にしてスピンオフ企画もぜひ観たくなる。

すでに3月27日(日)、30日(水)、さらには4月にも再放送が予定されるというが、いずれ地上波にも登場することになるだろう。
こうしたCSを利用した“実験”ならば、今後も歓迎したい。

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