【CD】山下達郎/Ray Of Hope2011/10/01

Ray Of Hope (初回限定盤)Ray Of Hope (初回限定盤)
山下達郎

ワーナーミュージック・ジャパン 2011-08-10
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山下達郎氏、渾身の一作。
プロモーションのために各局のFM番組に出まくっていたご本人がすでに語り尽くしているように、東日本大震災を受けてリリースを延ばし、内容も変更して制作されたといういわくつきの作品。
まさに、3.11に押し出された鎮魂の祈りの音楽、そして希望への歌、がここにある。

プレリュードに続いて、華やかに②「NEVER GLOW OLD」で幕開けたアルバムは、本作のテーマともいうべき③「希望という名の光」でいきなりクライマックスを迎える。

運命に負けないで
たった一度だけの人生を
何度でも起き上がって
立ち向かえる
力を送ろう

震災直後から何度となく耳にしたフレーズが、ここでもその意味を変えることなく、いや震災から半年を経た今だからこそ、さらに深く胸を打つ…。

ご本人も考えに考えた曲順なのだろう。オモチャ箱をひっくり返したように、次々と意匠を凝らした達郎ミュージックが飛び出してくるというアルバム構成は従来の達郎作品と変わり映えしないのだが、その一曲一曲の唄と歌詞が、今までになく心に響く。

そう、あの震災が日本の風景を変えてしまったように、音楽の聴き方さえ変えてしまい、それに敏感に呼応してしまったのが山下達郎氏であり、彼がつくりだした音楽なのだろう。

「路地裏の子供たちは/知らぬ間に大人になって」という何気ない風景を謳いこんだ③「街物語」にしても、「君だけを愛し続けたい」という純ラブソング④「プロポーズ」にしても、「あの丘の向こうに僕らの夏がある/変わらない美しいものすべてがそこにある」と郷愁感たっぷりな⑤「僕らの夏の夢」にしても、すべてが3.11に呼応するように、その歌の意味が、詩がまるで違って聞こえてくる。

そう、⑧「ずっと一緒さ」、⑨「HAPPY GATHERING DAY」といったラブソングから、ラストを飾るカバー曲⑬「バラ色の人生」に至るまで、すべてが鎮魂と祈りのうたであるかのように響くのだ。

本作では異色作として位置づけられるだろうダーク・ファンクな⑦「俺の空」にしても、「俺の空を返せよ!」と達郎氏にシャウトされれば、単なるマンション建設に対する怒りではなく、否応なく原発事故による放射能汚染禍を思い起こさざるをえない。

そうした意味でも本作は、達郎氏の作詞家としての一つの頂点を示す作品になったと思う。

それにしてもデジタル・レコーディングされた本作から聞こえる達郎氏の歌声は、まるで耳元で歌われているかのような臨場感に満ちている。ほとんどの楽器を演奏・プログラミングしているということもあって、達郎氏のホーム・レコーディングに立ち会っているかのような錯覚にも陥る。

まさしく氏の唱える“ポケット・ミュージック”であることには違いないのだが、本作の達郎氏からは斜め45度に顔を上げ、窓から覗く遠い空を見つめている姿が浮かんでくる。そこには、3.11を経てある種の役割を引き受けてしまった、“決意”が感じられるのだ。

初回限定盤に付されたボーナストラックは、ホーム・レコーディングの一室から一転して、達郎氏のコンサート会場へと連れ出されたかのような解放感に溢れた歌と演奏が繰り広げられる。

しかしながら、ラスト⑦に「どんなに大人になっても/僕等はアトムの子供さ」と謳われる「アトムの子」をもってきたのは、どうしたことだろうか? これは、達郎氏流の痛烈なアイロニーと解するべきなのだろうか。

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【本】プロテスト・ソング・クロニクル 反原発から反差別まで2011/08/28

プロテスト・ソング・クロニクル~反原発から反差別までプロテスト・ソング・クロニクル~反原発から反差別まで
鈴木孝弥

ミュージックマガジン 2011-07-19
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藤田正氏による類書 はあったものの、そのヴォリュームやジャンル、さらに福島原発事故以降の「反原発ソング」の急増も踏まえた、待望の一冊。副題に「反原発から反差別まで」とあるように、世界中のプロテスト・ソングを集めた貴重なカタログだ。

ほかに反戦ソング、覇権・圧政に抗する歌、性差別、自然破壊を糾弾するものまで、7つのジャンル分けで紹介されるプロテスト・ソングの数々は多岐にわたる。一読にして印象に残るのは、それらの歌の数々が欧米のポピュラー・ソングに限らず、広く世界中のプロテスト・ソングを紹介している点。
さすがにワールド・ミュージックに強い「ミュージック・マガジン」詩の面目躍如といったところか。

原爆を投下したエノラ・ゲイ号を歌ったオーケストラル・マヌヴァーズ・イン・ザ・ダーク(OMD)「エノラ・ゲイの悲劇」や、あの山下達郎氏が反戦を掲げて歌いあげた「THE WAR SONG」がなぜ取り上げられないだの、喜納昌吉&チャンプルーズは「東崎」よりもやっばり「島小ソング」だろうとか、瑣末な揚げ足とりはやめておこう。

ここは本書を片手に豊穣なるプロテスト・ソングの世界を堪能すべし。しかしながらいつに増して思うのは、こうしたガイドブックこそ電子化されて即座にネットからその曲を聴くことができるという仕様がとれないものか。読んでいて曲が聴けないもどかしさを感じるのは、ワタシだけではないだろう…。

というけわで、とりあえず第一章の「原発、核兵器の根絶を訴える歌」を以下にリンクしてみた。

ゴールデン・ゲイト・カルテット/アトム・アンド・イーヴル
小室等と六文銭/ゲンシバクダンノウタ

クラフトワーク/放射能
ギル・スコット・ヘロン/ウィ・オールモスト・ロスト・デトロイト
加藤登紀子/原発ジプシー
ウィリー・コロン/ラ・エラ・ヌークレアル
デヴィッド・ボウイ/風が吹くとき
ミュート・ビート/キエフの空
RCサクセション/サマータイム・ブルース
ザ・ブルーハーツ/チェルノブイリ
佐野元春/警告どおり 計画どおり


ランキン&ダブアイヌバンド-誰にも見えない、匂いもない

ECD/Recording Report 反原発REMIX
RUMI/邪悪な×××(高円寺原発いらいなデモ)
斉藤和義/ずっとウソだった
制服向上委員会/ダッ!ダッ!脱・原発の歌


本来ならこの1章だけで1冊つくれるほど、世界にはプロテスト・ソングが溢れている。それだけ世界は多くの問題を抱えているということだ。続編に期待したい。

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【LIVE】FUJI ROCK FESTIVAL '112011/08/02

FUJI ROCK FESTIVAL '11
6年ぶりに「FUJI ROCK FESTIVAL」に参戦(7月29日~7月31日・新潟県・苗場スキー場)。といっても今回は、NGOビレッジでのボランティア参加なのでライブ参戦(チラ観も含めて)は少なかったが、以下簡単にレボート。

【7月29日】
毛皮のマリーズ
雨のフジロック '11の幕開けは、毛皮のマリーズから。志磨遼平(ヴォーカル)が、かつてこのホワイトステージを熱狂させた故・清志郎を思わせるかのような怪演。女性ベーシスト(栗本ヒロコ)も含めたビジュアルの弾けっぷりも、この野外フェスの雰囲気にぴったり。
リー・スクラッチ・ペリー wtth マッド・プロフェサー
「レジェンド」の域を出ずに、昔の名前で出ています…今の時代、もっと重低音を効かせなきゃ。
Amadou & Mariam
ワタシもノーチェックだったマリ出身のデュオが、この日の拾い物。アフリカン・ポップとして、さほどの目新しさはないが、リズミックでいながら軽やかなライブ・パフォーマンスは十分に楽しめた。

【7月30日】
少年ナイフ
噂の生ライブに接したことのなかったが、なるほど欧米での人気の秘密はそのキュートさとケレン味か。
LITTLE CREATURES
評価の高いトリオだが、ワタシはCDを聴いてもいまひとつで、ライブでもその印象は変わらず…。
岡林信康
今の岡林氏の音楽にはほとんど興味がないワタシだが、かつての“フォークの神様”が、フジロックの若者たちにどのように受け入れられるのか、興味津々だったが…。いやいや、フジの若者はアッタカイねぇ。演やっていることは上々颱風に遅れること30年だが、和太鼓や尺八、津軽三味線、チャングまで動員してのエンヤトット・リズムに会場は大いに盛り上がる。岡林氏もきっと嬉しかったろうな…。
DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN
こちらもCDは今ひとつで、いい線までいくのに最後に弾けさせてくれないというか、カタルシス不足。残念ながらその印象はライブでも変わらず。
ASIAN DUB FOUNDATION
残念ながらラスト1曲しか聴けなかったが(笑)、さすがの貫祿、さすがのパフォーマンス。

【7月31日】
Nabowa
京都からやって来たオーガニック系ジャム・バンド。うーん、悪くはないのだが、どうしても同じオーガニック系のSpecial OthersやヴァイオリンのフュチーャーがROVOを想起させ(ワタシら世代にはI'ts A Beautiful Dayも!?)て、ちょっと損をしているというか、もうひと工夫の個性が欲しいところ。
GOMA & The Jungle Rhythm Section
じつはワタシが最も期待をしていたライブがこれ。交通事故の後遺症による記憶障害から、見事に立ち直って本人も号泣のパフォーマンス。怒濤のリズムのなか、GOMAの吹く重低音のディジュリドゥが森の中に響きわたり、会場(フィールド・オブ・ヘヴン)はナチャラル・トランスの坩堝。まさに唯一無比の存在。復活おめでとう!
TINARIWEN
サハラ砂漠の遊牧民族がそのままフジロックのステージに挙がったかのようなTINARIWEN(ティナリウェン)。その出で立ちといい、独特の「砂漠のブルース」といい、やはりフジロックにぴったり。
CORNERSHOP
UKインド人兄弟によるCORNERSHOPもそれほど新味はないが、シタールを取り入れた「ノルウェーの森」や、ヒット曲「BRIMFUL OF ASHA」を持つ強みもあって、やはり会場をその名の通りヘヴン状態に。
ALTZ
やや期待した日本のアーティストだが、クラブ・フロアでのプレイ(?)は凡庸にしか聴こえなかったのだが…。
くるり
ラストの数曲に駆け込んだが、すごい人気ぶり。でも、ワタシには中越地震チャリティ(2004年・横浜)での火の出るようなライブの印象が強すぎて、最近のくるりはなんだか青春フォーク・バンドのようで…。
TOWA TEI
もしかしてバンドセットで演るのでは? と覗いてみたらDJプレイ。さすがにノセ方は巧いが、残念ながらワタシは途中リタイヤ。

以上が、FUJI ROCK FESTIVAL '11のワタシの簡単な観戦記。
なにしろ3日間、雨が降り続いたというはFUJI ROCK史上初とかで、過酷な状況のなかで、じっと(いや、歓喜のまま)耳や身体を傾ける参加者たちのFUJI ROCK魂に改めて、感服。
観客減が懸念される中で、今年も11万人以上を集め、大きな事故やトラブルもなかった。いろいろな意味で新たなFUJI ROCK伝説をつくった FESTIVAL '11ではなかったと思う。

【CD】ビビアン・スー/ナチュラル・ビューティー2011/06/22

Natural BeautyNatural Beauty
ビビアン・スー The d.e.p

ファー・イースタン・トライブ・レコーズ 2011-03-16
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どうしてこうワタシはアジアの歌姫たちの歌声にほだされてしまうのだろう…。その語感なのか、たおやかな歌唱なのか、はたまたエキゾチジムに惑わされてなのか、うまく説明がつかないのだが、ときとしてその歌声に身も心もとろけそうになる。

そうして最近になってワタシが「発見」したディーバが、ビビアン・スーだ。
ワタシが知るビビアンは、台湾アイドルとして若くして日本に渡り、グラビアからお笑いまで果敢にこなし、「ブラック・ビスケッツ」とヘアヌードでブレイクした“”苦労人”(あるいは努力人)というイメージしかない。よって「ブラック・ビスケッツ」での歌声など、まったく耳にも止まらなかったのだが…。

しかしこの新作アルバム『ナチュラル・ビューティー』(2011年3月リリース)に、収録された「タイミング」を聴くと、なんとイイ曲だったのだろうかとわが耳を疑い、じつに新鮮にその楽曲が響く。スローナンバーに改変されたこのノベルティ・ソングが、ビビアンの魅惑の歌声によって、見事に美しいラブ・ソングに生れ変わっているのだ。

カバー曲の②「恋におちて」、③「長い間」も然り。改めてこれらの曲の良さに気づかせてくれるのもまたビビアンの歌声だ。亀田誠治プロデュースによるシングル曲「Beautiful Day」もまたビビアンの魅力を十分に伝えている。
いや、けっして巧いわけではない。とりたてて声に特長があるわけではない。しかしここが音楽のマジックで、そのとりたてて目立たない中に、どうにも説明しがたい魅力がある。癒しがある。そんな不思議な歌い手なのだ。

もっとも後半のジャンプ・ナンバーになると、その魔力も十分に発揮できず、ワタシなどは中抜きに編集した盤を愛聴しているのだが(苦笑)。

改めてWikiで確認してみると、ビビアンの母方は台湾少数民族のタイヤル族で、ビビアンのどこかアニミズム的な歌世界はそれから引き継がれているのかもしれない。もちろん妄想だ(笑)。

さらに驚いたのは、2001年に佐久間正英、土屋昌巳、ミック・カーン、屋敷豪太といったとんでもないメンバーと「The d.e.p」なるグループを結成していたことだ。もちろんヴォーカルはビビアンだ。このバンドがメチャかっこいい。↓



どういう経過でこのバンドが結成されたわからないが、おそらくこの強者どももビビアンの“歌”に、早くから注目していたからこそ、彼女をフロントに置いてのバンド結成に至ったのではないか。もっとも聴いておわかりのように、ここでのビビアンのヴォーカルは凡庸で、バックの凄さばかり目立つ…。

しかながら本作を耳にした今なら、もう一度このスーパーバンドが再結成(ミック・カーンは残念ながら参加できないが…)されて、ビビアンの歌声でこのバンド・サウンドを聴いてみたい!と強く想う。(*ミック・カーンの死去に伴いThe d.e.pは2010年に一度再結成されたようだ)

いつの日かフジロックに“アジアン・ステージ”が設けられ、台湾のメイデイ(五月天)、 ジェイ・チョウ(周杰倫)、中国のツァイ・ジェン(催建)、香港ノサンディ・ラム、マレーシアのシーラ・マジットらに混じって、ビビアン(The d.e.p)が歌い舞う…そんな夢想さか沸き起こるビビアンの快作だ。

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【TV】トニー賞 ミュージカル特集「フェラ!」2011/06/20

『フェラ!』(C) Monique Carboni
これは驚いた。
フェラ・アニクラポ・クティの半生を描いた『フェラ!』なるミュージカルがブロードウェイで上演され、しかも2010年のトニー賞で11部門にノミネート、3部門を受賞していたとは!
その舞台ライブが、6月15日にNHK・BSプレミアムで放映された。

フェラ・クティといえば、70年代に腐敗しきったナイジェリア政府を攻撃し続けた先鋭的なミュージシャンで、「アフロビート」の創始者。いわばアフリカにおけるワールド・ミュージックの先駆者であり、ボブ・マーリーと比してもおかしくない存在だ。
しかしながらその知名度ははるかに低い…と思っていたので、こうしたミュージカルが製作・上演されていたことに大いに驚いた次第。
たしかに近年、アンティバラスなど若い世代の間で、フェラの遺伝子を引き継いだアフロ・ビート・バンドが注目を集めていることは知っていたが、まさかフェラがミュージカルになるとは…。

舞台設定は、フェラの活動根拠地であった「シュライン」。
観客はそのライブハウスに集まった「観客」という設定で、フェラの語り(演説)とライブ演奏で物語は進む。

「シュライン」といえば、ナイジェリア政府からの弾圧を何度も受け、たしか死者まで出したフェラの“聖地”。そこでのライブを再現するということで、観客は生前のフェラの聖地ライブを疑似体験できるという仕掛け。

なるほど、そこまではいい。
しかし、どんなに(風貌から声や喋りまでも)フェラに似せた男優(サ・ンガウジャ)が演じても、腕達者なミュージシャンやバンド演奏やコーラスが熱演を繰り広げても、あのフェラの呪術的なパフォーマンスは再現できないのだ…。

あのおどろあどろしいまでのカリスマ性、危険な香り、ヒリヒリとした感性と、あくことのないアグレッシブなサウンド…。ワタシがフェラの生ライブを体験した数少ない日本人(1984年グラストンベリー・フェスティバル)であるということを差し引いても、その舞台で演じられるものは実際のフェラには及びもつかないものなのだ。

しかも客席を埋めるのは、正装に近い大人げな紳士・淑女ばかりだ(収録はなぜかロンドン公演)。
ここはシュラインだ、と言われてもまったく現実感はなく、かえってエキゾチズムと正義感に彩どられた植民地ドラマを見せられているかのように、居心地が悪い。かつてボール・サイモンらもやり玉に挙げられた非西欧文化搾取の構図が頭をよぎる。

そうした批判が起こるのを予期してか(?)休憩を挟んでの後半では、フェラの活動と音楽に大きな影響を与えた神話的なヨルバ世界に迫ろうとするが、それほど舞台の深化に貢献しているとは思えず、むしろ冗長になった印象を受ける。

なんといっても休憩を挟んで3時間にも及ぶ舞台は長い。もうちょっと刈り込んでもよかったのではないか。ノミネートのわりに受賞が少なく、しかも主要な賞を逃していることからも、このミュージカルの評価がそう高くなかったことが伺い知れる。

そうは言っても、「Up Side Down」「Zombie」といった往年の名曲が流れればついこちらも熱くなる。それだけに、フェラが世に送り出した楽曲群が時代を超えた“名曲”であったことがはからずも証明されたわけで、それだけでもこのミュージカルが上演された意味があったかもしれない。

ミュージカル『フェラ!』の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「思わず腰ふる、エネルギー爆発ミュージカル『Fela!』」--NY Niche
「ニューヨーク公演は連日超満員」--Dance Cube チャコット webマガジン

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【CD】河内音頭三音会オールスターズ/東京殴り込みライヴ 完全盤2011/06/15

東京殴り込みライヴ『完全盤』東京殴り込みライヴ『完全盤』
河内音頭三音会オールスターズ

歌舞音曲 2011-05-22
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これは歴史的な“名盤”の復刻だ。
1982年7月、関東で初めて行われた本格的な河内音頭ライヴの記録として、またその名演を見事にパッケージした音源として、30年の時を経てもまったく色褪せることがない。

当時、この河内音頭の“東京殴り込み”は、文字サルサのファニア・オールスターズ来日公演(1976)、喜納昌吉&ザ・チャンプルーズの東京上陸ライヴ(1977)と比して語られるほど、音楽通から熱狂的な歓迎を受けた。
つまり大阪の一地域(河内)で愛好されていたローカル・盆ダンスミュージックが、東京の音楽ファンから“ワールドミュージック”として「発見」された、その歴史的な瞬間をとらえたものなのだ。

河内音頭の魅力。
ワタシもその妖力に魅せられ、本盤が収録された錦糸町・銀星劇場(パチンコ屋の2Fだった)に居合わせた一人だが、とにかく演目は「赤城の子守歌」や「無法松の一生」といった無頼の伝承的な歌物語にもかかわらず(だからこそ、か)、緩急自在ともいえる音頭取り(ヴォーカル)と伴奏(三味線、ギター、太鼓、囃子)とのインタープレイの応酬とめくるめくグルーヴの底無し沼に熱く興奮したものだ。

なかでも、転がるように音頭にまとわりつく、エレキ・ギターには瞠目で、その奏法はまさに“発明”ともいえる画期的なものだった。
いわば、ドーナル・ラニーがギリシャやバルカン半島の民俗楽器であったブズーキをアイリッシュ・ミュージックに持ち込んだことで、それが異化反応を起こし世界的なブレイクしたように、この現代的なエレクトリック楽器が、河内音頭に現代に響く生命力を持ち込んだことは想像に難くない。

まさに河内音頭は、当時の東京者(モン)にとって、土着のエネルギーとモダンがスパークした最新型の音楽だった。

ここでは三音家浅王丸と三音家あきらという二人の音頭取りの熱唱が楽しめるが、やはり浅王丸師匠のそれは当代髄一。コブシ、唸り、語り、いずれも微妙な引き押し・強弱をつけたその音頭ワールドを堪能できる。

赤城の子守歌/三音家浅王丸


「完全盤」と謳うだけに、旧盤では削除されていた吉野夫二郎作詞・古賀政男作曲の「無法松の一生」の一節がそのまま生かされた(④「歌入り無法松の一生」)。ただし、新たに追加録音されたダブ仕様の「赤城の子守歌惰撫」は、本盤にはそぐわない気がする。

こうなれば、幻の“名カセット”『浅丸のいない夏』もぜひ復刻してほしいものだ。

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【演芸】てなもんや浪漫バラエティー2011/05/29

てなもんや浪漫バラエティー
台風襲来で土砂降りのなか、浅草・木馬亭へ。「てなもんや浪漫バラエティー」と題された浪曲、音曲漫才、浪曲漫談のオムニバスショーを楽しむ(5月29日)。

聖書を脇に抱えた神父姿で登場した浪曲漫談のイエス玉川は、以前テレビでも観た記憶があるが、司会の澤田隆治氏(メディア・プロデューサー)によれば「テレビでは出来ないネタばかり」とのこと。
たしかに毒舌が持ち味だけあってそれも頷けるのだが、どうも過去に“売れた”経験があるから、グチっぽさが仇になってどうも乗り切れない。それが芸風なのか、それとも客の少なさのせいか…?

「宮川左近ショー」の三味線弾きとして活躍した暁照夫が、弟子の光夫と組んでの音曲漫才は、客席から左近ショーの記憶を引きずりだしながらの楽しいステージ。
上方と東京の気質を比べながら、ひとしきりくっちゃべった後、待ってましたの音曲に突入。左近ショーでも“売り”だった三味線早弾きは顕在で、「なんでこんなにうまいんやろ」と自惚れるギャグも、嬉しい決めゼリフ。
さすがに、お年のせいか(失礼)危なかっしい音程はご愛敬だが、とにかく左近ショウを追想できる上方の円熟芸に触れられたのは収穫。

圧巻だったのは浪曲の三原佐知子師匠。
じつは浪曲を“生”で聴くのは初めてだったのだが、その声量といい、声色・ヴォーカルコントロールといい、ケレンといい、浪曲という芸能の底力に圧倒された。

とにかくその声・節回しが気持ちイイ。ゾクゾクとする。
これはヌスラット・ファテ・アリ・ハーンカッワリー仏教声明に通じる身体に直接響くようにな快感だ。

浪曲(浪花節)という芸能は、明治期から戦前まで一斉を風靡した。
ラジオなどによって全国で愛聴され、当時の浪曲師は大変な人気だったという。なぜそれほどまでに、単純なこの語りと声の芸能が大きな人気を博したのか?

浪曲は今回確認できたように、じつに肉感的な芸能だ。
その語りと声が、心身に染みわたり、癒しや活力を与えてくれる…。
そこにワタシは、昨今の流行りのスピリチュアリズムや“癒し”に似たものを感じる。
だからこそ、浪曲師はヒーラーであり、小屋掛けは庶民にとってのホットスポットだったのではないだうろか?
そんな妄想を抱いてしまうほど、“生”の浪曲はパワーに溢れていた。

最後は出演者総出による歌謡ショーで、ここでも佐知子師匠は「無法松の一生」と「ろうきょく炭坑節」を唸り、さすがの貫祿を魅せた。

それにしても大雨とはいえ客席は寂しく、こんな豊熟な芸が安価で観賞できるのにじつにもったいない…。7月には、浪曲河内音頭を中心とした第二回が企画されているようで、こちらも期待したい。

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THAT'S浪曲ショーTHAT'S浪曲ショー
宮川左近ショー

ミソラレコード 2011-03-20
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【本】歌謡曲--時代を彩った歌たち2011/05/27

歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)
高 護

岩波書店 2011-02-19
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歌謡曲評論は数あれど、これはその金字塔として後世にまで讃えられるべき書となるだろう。

ワタシがそこまで評価するのは、その卓越したサウンド論だ。
今までの歌謡曲評論は時代論であったり、社会学論であったり、またアーティスト論であったり、歌詞からのアプローチ、洋楽との比較などさまざまな視点からの論が中心だった。

つまり、何かしらの視点からみた歌謡曲論であって、トータル性をもった全体論ではなかったように思う。そこがワタシが従来の歌謡曲にもの足りなかった部分であり、その最も弱かった部分が、歌謡曲におけるサウンド論だった。

本書を一読して、その溜飲を下げた。
現役音楽プロデューサーとして、多くのアーティストのプロデュース・マネジメントにあたってきた著者だけに、その豊富な現場経験に基づいたサウンド解析には、とにかく唸らされた。

例えば--
第1章「和製ポップスへの道」で、ザ・タイガース「君だけに愛を」(64年)を次のように解析する。

音楽的にはかなり凝った作りで他に類をみない画期的な手法が多く導入されている。ギターのチョーキングに続いてドラマチックな冒頭の“オー!プリーズ”のバースで静かに曲は始まる。続くパート“A君だけに~”はフーガを導入。クラシックの手法によるコール&レスポンスで盛り上がり演出している。構成はバース→AA'BA゛→間奏→BA゛。キーはGm。間奏のギター・ソロはそれ以前の歌謡曲の間奏とはまったく趣旨が異なる。コード進行は同一だが、歌の旋律やモチーフとはまったく無関係で新たなフレーズで演奏しており、ジャズにおける「アドリブ」と同じ手法である。ロックの分野で「ギター・ソロ」という概念自体が一般化するのは七○年代以降のことである。

どうだろう、GSサウンドをこれほど明晰に分析した文章をワタシは知らない。
本書ではこうした明解なサウンド分析が随所で行われ、その度にはワタシは膝を打つことになる。

もちろん本書の白眉はそれだけでなく、先に挙げたさまざまな歌謡曲評論の要素が、多角的に詰まっている点にある。

歌謡曲の詩世界における言及も凄まじく、タイガースを経てソロ歌手となった沢田研二については、「沢田研二の歌う物語はいつも苦悩に満ちている。どれも哲学的でまるでゲーテのようである」とゲーテまで例に引いて評し、「少なくとも七○年代の沢田研二の作品はどれも苦悩に満ちあふれ、かつカラフルでポップである。この二律背反した詞曲とスタイリッシュな外観との情緒的な歌唱のギャップがジュリーの最大の魅力である」としている。

神が宿りたもう細部から本書を評してしまったが、序章の「戦前・戦後の歌謡曲」に始まり、1章の「和製ポップス~」、2章「歌謡曲黄金時代」、3章「変貌進化する歌謡曲」、終章「90年代への萌芽--ダンス・ビート歌謡」に至る道筋は、まるで“歌謡曲”という戦後文化の寵児を主人公として大河ドラマを見ているかのようにドラマチックで、読みごたえがある。

そこもまた本書の魅力であり、著者の批評ヂカラと筆力の賜物といえる。
そうした意味では、本書(新書)を読み終えてもの足りなさが残るとすればそのボリュームで、この2倍は読みたい!という欲求にかられる。

これだけの充実作だ。きっと90年代以降のビーイング全盛から、AKB48に代表される現在のアイドル・ポップ復興に至るまでの、続編を書いてくれるに違いないが、同時にスピンオフ的な企画でもいいので、この著者によるさらに突っ込んだ(カルトな)歌謡曲評論も読んでみたい。

高さん、よろしくお願いします!

『歌謡曲』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「社会学的分析と楽理的な分析が一体化」--批評.COM
「歌謡曲の構造、発展の様子を多角的に読ませる」--ぶら~りネット探訪
「コンパクトなサイズながら、情報の密度はものすごく濃い」--Girls.Music blog mix

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【CD】松任谷由実/Road Show2011/05/25

Road ShowRoad Show
松任谷由実

EMIミュージックジャパン 2011-04-06
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ユーミンの2年ぶり通算36枚目となるニューアルバム
4月初頭のリリースなので、「新譜」として紹介するには遅きに失した感もあるが、これが聴き込むほどに松任谷由実の衰えぬ才能が伝わってくる傑作アルバムになっている。

なにしろ近年のユーミンの充実ぶりは目ざましく、『A GIRL IN SUMMER』 (2006)、『そしてもう一度夢見るだろう』 (2009)と充実作を連発してきたが、本作はそうした成果をさらにもう一つ上の高みへと押し上げたかのように結実。
ユーミンが再び、何度目か絶頂期を迎えたような輝きを放っている。

本作のコンセプトは“映画”。
タイトルそのままにに、1曲1曲がまるで映画ワンシーンのように、さまざまな情景を描いて魅せる。

いきなり映画のエンディング・シーンを思わせる①「ひとつの恋が終るとき」の力強いチューンで幕を開けたユーミン・シアターは、②は意表をつくレゲエ・ナンバー「Mysterious Flower」ですでにクライマックス。
転調をうまく使って印象に残るフックつくる④「今すぐレイチェル」もユーミンならでは。センチメントな季節感の表出もまたユーミンの真骨頂⑤「夏は過ぎてゆき」、そして「真夏の夜の夢」の続編ともいえるラテン・ナンバー⑥「太陽と黒いバラ」など、きらびやかなユーミン・ワールドが堪能できる。

⑪「ダンスのように抱き寄せたい」↓

ユーミンの詩世界と歌唱を支えるサウンドも過不足なく見事で、とりわけ本作で耳に残るのは、心のひだに染み込むようなギターだ。
丁寧に練られた一つひとつの音で聴く者を安心してその世界に委ねさせる功績は、夫君の松任谷正隆氏の力にも依るだろう。

そして、本作からワタシが感じるのは、ユーミンのパッケージ・メディアに賭した覚悟、CDアルバムで勝負する、という決意だ。
アルバム・アーティストとして日本の音楽界をリードしてきた、日本のポピュラー音楽の裾野の広げてきたという自負と気概こそが、本作を傑作たらしめ、また彼女の創作意欲を支えているような気がしてならない。

彼女は、ニッポンの音楽文化のために闘うジャンヌ・ダルクなのだ。

『松任谷由実/Road Show』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「ユーミンの楽曲はまさに数分で終わる短編映画」--yorimo(大野宏氏)
「全曲がメロディアスでカラフル」--Lonesome-happy-days
「映像的な要素が満載で、熟練の技が光り輝く」--共同通信(つのはず誠氏)

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【CD】ウンベルティポ(Unbeltipo)/アンクル・バーニー・タン2011/05/19

アンクル・バーニー・タンアンクル・バーニー・タン
unbeltipo

Out One Disc 2011-03-03
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これはプログレ/フリーインプロビゼーション好きにはたまらない逸品だ。
今堀恒雄(G)、ナスノミツル(B)、佐野康夫(Ds)によるスリーピース・バンド、ウンベルティポ(Unbeltipo)の最新アルバム『アンクル・バーニー・タン』(2011年3月発売)が、凄いことになっている。

いきなりの変拍子の嵐の中、井上陽水のバッキングや『トライガン』 の音楽監督などでも知られる超絶ギタリスト・今堀氏のフレットを駆けめぐる縦横無尽のギターが駆け廻る。
その急降下、急上昇のフレージングが、ときにスティーヴ・ハウコロシアム期のゲイリー・ムーア、さらにはフランク・ザッパをも彷彿させる。

しかし、全体の複雑かつスピーディーに構築されたサウンドは、かのキング・クリムゾン、それもヘヴィ・メタル期のそれだ。

否、そうした先人たちと比較するのはやめよう。
ウンベルティポはけっしてそうした偉大ではあるが“過去”のプログレ/インプロ・サウンドをなぞっているわけではない。
現在の“J-POP”シーンの中でも、異彩ながらもひときわ強烈な光/磁場を放つ存在として、我々を攪乱する。

いずれも10分前後に及ぶテンション張りまくりの、全7曲。その疾走感と高揚感がたまらない。本年度、日本のロック・アルバムのベスト1候補。

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