【本】歌謡曲--時代を彩った歌たち ― 2011/05/27
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ワタシがそこまで評価するのは、その卓越したサウンド論だ。
今までの歌謡曲評論は時代論であったり、社会学論であったり、またアーティスト論であったり、歌詞からのアプローチ、洋楽との比較などさまざまな視点からの論が中心だった。
つまり、何かしらの視点からみた歌謡曲論であって、トータル性をもった全体論ではなかったように思う。そこがワタシが従来の歌謡曲にもの足りなかった部分であり、その最も弱かった部分が、歌謡曲におけるサウンド論だった。
本書を一読して、その溜飲を下げた。
現役音楽プロデューサーとして、多くのアーティストのプロデュース・マネジメントにあたってきた著者だけに、その豊富な現場経験に基づいたサウンド解析には、とにかく唸らされた。
例えば--
第1章「和製ポップスへの道」で、ザ・タイガースの「君だけに愛を」(64年)を次のように解析する。
音楽的にはかなり凝った作りで他に類をみない画期的な手法が多く導入されている。ギターのチョーキングに続いてドラマチックな冒頭の“オー!プリーズ”のバースで静かに曲は始まる。続くパート“A君だけに~”はフーガを導入。クラシックの手法によるコール&レスポンスで盛り上がり演出している。構成はバース→AA'BA゛→間奏→BA゛。キーはGm。間奏のギター・ソロはそれ以前の歌謡曲の間奏とはまったく趣旨が異なる。コード進行は同一だが、歌の旋律やモチーフとはまったく無関係で新たなフレーズで演奏しており、ジャズにおける「アドリブ」と同じ手法である。ロックの分野で「ギター・ソロ」という概念自体が一般化するのは七○年代以降のことである。
どうだろう、GSサウンドをこれほど明晰に分析した文章をワタシは知らない。
本書ではこうした明解なサウンド分析が随所で行われ、その度にはワタシは膝を打つことになる。
もちろん本書の白眉はそれだけでなく、先に挙げたさまざまな歌謡曲評論の要素が、多角的に詰まっている点にある。
歌謡曲の詩世界における言及も凄まじく、タイガースを経てソロ歌手となった沢田研二については、「沢田研二の歌う物語はいつも苦悩に満ちている。どれも哲学的でまるでゲーテのようである」とゲーテまで例に引いて評し、「少なくとも七○年代の沢田研二の作品はどれも苦悩に満ちあふれ、かつカラフルでポップである。この二律背反した詞曲とスタイリッシュな外観との情緒的な歌唱のギャップがジュリーの最大の魅力である」としている。
神が宿りたもう細部から本書を評してしまったが、序章の「戦前・戦後の歌謡曲」に始まり、1章の「和製ポップス~」、2章「歌謡曲黄金時代」、3章「変貌進化する歌謡曲」、終章「90年代への萌芽--ダンス・ビート歌謡」に至る道筋は、まるで“歌謡曲”という戦後文化の寵児を主人公として大河ドラマを見ているかのようにドラマチックで、読みごたえがある。
そこもまた本書の魅力であり、著者の批評ヂカラと筆力の賜物といえる。
そうした意味では、本書(新書)を読み終えてもの足りなさが残るとすればそのボリュームで、この2倍は読みたい!という欲求にかられる。
これだけの充実作だ。きっと90年代以降のビーイング全盛から、AKB48に代表される現在のアイドル・ポップ復興に至るまでの、続編を書いてくれるに違いないが、同時にスピンオフ的な企画でもいいので、この著者によるさらに突っ込んだ(カルトな)歌謡曲評論も読んでみたい。
高さん、よろしくお願いします!
◆『歌謡曲』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「社会学的分析と楽理的な分析が一体化」--批評.COM
「歌謡曲の構造、発展の様子を多角的に読ませる」--ぶら~りネット探訪
「コンパクトなサイズながら、情報の密度はものすごく濃い」--Girls.Music blog mix
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