【本】激変!日本古代史 卑弥呼から平城京まで2010/12/26

激変! 日本古代史 卑弥呼から平城京まで (朝日新書)激変! 日本古代史 卑弥呼から平城京まで (朝日新書)
足立倫行

朝日新聞出版 2010-10-13
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ノンフィクション・ライター“冬の時代”にあって、多くの書き手が得意分野や専門性に絞って活動する傾向があるなかで、足立倫行氏は一貫して多彩なテーマで取材・執筆を続けている希有な作家だ。

その足立氏が今回、題材として取り組んだのが「日本古代史」。
その動機について、氏はこう記している。

生まれ故郷である鳥取市境港で発見された「妻木晩田遺跡」の保存活用・検討委員に任命された氏に、やがて「『古代史は面白そうだ』という意識が芽生え」、日本古代史に関する著作を読み漁る一方で、遺跡やシンポジウムに足を運ぶなどを「数年続けているうちに、私は行き詰まってしまった」のだという。

「見聞を広め、新たな知識を得るたびに、古代史に関する情報は増えていく。けれどもそれらは、異なる時代の異なる事象に関するバラバラの知識であり、いつまでたってもひとつながりの“歴史のうねり”のようなものが感得できないのだ」---。

この感覚は、「この分野の情報の洪水に戸惑っている人」たちの多くが、共感できるものではないだろうか。
そして、「そういう古代史ファンの頭の整理や、次の段階への知的飛躍のために」本書は「多少はお役に立てる」べくというのが、そもそもの執筆動機のようである。
その手法は、「現場の発掘調査担当者の言葉に一番感銘を受けた」という氏が「原点に戻ろう!」とするもので、「テーマに沿って各地の発掘担当者を訪ねて歩いて話を聞き、合間に新旧の情報を入れて落差を埋め、私なりに細くても意味のある補助線を弾いて、歴史の流れに近いものを確認」するというものだ。

さて、それではその氏の“試み”は、うまく成就したであろうか?
本書は9章から成り、それぞれ卑弥呼ヤマト王権邪馬台国と、ここ数年来の古代史トピックスともいうべきキャッチーな話題が並び、さらに邪馬台国九州説、『日本書記』聖徳太子の真偽、大化改新の「真相」、伊勢神宮の謎に迫っていく。

いずれも、ワタシのような歴史オンチでも見聞きした覚えのある事象で、その選択眼はさすがにバランスが取れている。問題はその内容だ。

足立氏も本書をまとめるにあたって相当苦労したと思う。
なにしろ「情報の洪水」だ。何をどうすれば、読者にわかりやすく伝えられるか、苦心されたに違いない。
たしかに、遺跡や博物館の画像を多く掲載し、研究者や取材者だけでなく、一般の古代史ファンが訪れることのできる場所や展示物を紹介するなど、工夫を凝らしている。

しかながら、それでもワタシのような「門外漢」には、本書はまだ読みにくい。一読して頭の中で“歴史のうねり”が見えてこないのだ。

例えば、邪馬台国に「畿内説」と「九州説」があるのはさすがのワタシも識っているが、「考古学界で『邪馬台国=畿内説』が圧倒的に優勢」なのかが、よくわからない。
できれば、双方の論者がそう主張する論点を表組か何かでわかりやすく示してもらえなかったものか…。

あるいは、「『日本書紀』をドラマティックに否定する馬子=大王説と、『日本書紀』に基づく現在の説は、真っ向から対立する」としているのだから、その前提となる「『古事記』や『日本書紀』は、その記述をどこまで史実として信頼できるのだろうか?」とするポイントも、もう少しわかりやすく明示してほしかった。

もちろんこうしたイチャモンは、「古代史」に対するあまりに無知なワタシに非があるのやもしれず、「古代史」ファンの本書の評価はまた違ったものになるかもしれない。

ワタシはすっかり「渡来人」だと思い込んでいた蘇我氏にしても、「渡来人説もあるものの、根拠に乏しい」といった、見聞を新たにする記述も少なからずあり、それなりに勉強になった。

一方で、古代史研究において長年にわたって議論となっている「天皇陵」の調査・発掘問題について、まったく触れられていない点も気になった。

なので、こうした本こそ新たな情報や論点を適宜加え、「激変!」をヴィヴィットに伝える生きた書物として、“電子版”の刊行が望まれるのではないだろうか?
ワタシは、そうしてブラッシュアップした本書をもう一度読んでみたい。

◆『激変!日本古代史』の参考レビュー一覧
図書新聞(小嵐九八郎氏)
9892
読書日記
雑記帳
東洋経済(書評)

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コメント

_ むからみからむ ― 2011/09/23 22:38

足立さんの本も確かにいいけど、古代史やるなら石渡信一郎を読んでからだと信じています。.ぜひ 完本 聖徳太子はいなかった の感想 聞かせてください。

_ 森口秀志 ― 2011/09/30 05:49

コメントありがとうございます。書名は記憶にあれど、石渡本は未読でした。今度読んでみます。

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