【アート】高嶺格「とおくてよくみえない」2011/03/01

高嶺格「とおくてよくみえない」
横浜美術館で開催されている高嶺格「とおくてよくみえない」展を鑑賞(2月28日)。これで、先にレビューした小谷元彦氏、曽根裕氏を含めた″三羽ガラス″といわれる新次世代アーティストたちの個展に全て足を運んだことになる。

結論から言えば、ここでもまた才気溢れるアーティストの作品群を堪能する幸せにめぐり逢えた。

エスカレーターでつながる二階会場へ向かう瞬間からして、すでにワタシたちはその作品「野生の法則」に、目と耳を奪われる。見上げれば、白い大きな布が風にたなびき、嗚咽のような、はたまた獣がむせぶような咆哮が鳴り響き、ただならぬ妖気がワタシたちを迎えてくれる。

“ご挨拶”がわりのこの巨大インスタレーションの歓迎を受けて、薄暗いライトに照らされた「緑の部屋」へ足を進めると、そこは綿布・綿糸による刺繍やウールを素材にした清楚な作品が並ぶ。ポップな画調もあるが、全体的にはロココ調や印象派に影響を受けた静かな作風で意外な印象。
…などと思っていると部屋の出口に、油粘土による巨大な樹形模様と、絵のないぽっかりと空いた額縁がドカンと掲げられている。

これが、本格的な高嶺ワールドへの幕開けの合図だった。

美術館スタッフの案内で暗闇の部屋へ通されると、そこには草っぱらとぼしき中につくられた秘密基地のような空間が広がり、地面にはベッドやお釜、オモチャ、雑貨などが雑然と放り出され、洗濯物は干されたままになっている。
まるで、ついさっきまで人が居たような気配。

その薄闇を“生き物”のようなライトがゆっくりと照らした出すと、地面にはぼんやりと文字が写し出される…。「共通感覚とは…」「自明性を捨て去ったとき…」など、小難しい言葉が曲線を描きながら並び、そこに光が照らされることで、鑑賞者はテキストを読んでいく…という仕組み。

次の部屋では映像作品が並び、代表作の一つだという「粘土で作った巨大な顔に米国の愛国歌を歌わせるクレイアニメ「God Bless America」も上映されていた。

これが秀逸で、粘土で作った巨大な顔に米国の愛国歌を歌わせるのだが、その“顔”が次々に変貌していく様は、ピーター・ガブリエルの傑作PV『スレッジハンマー』を彷彿させる。

それだけではなく、“顔”を制作するさまざまな人たちや、“顔”が置かれた部屋で生活する(?)カップルの生活まで、コマ送りのように写し出され、顔と人間の動きが微妙にシンクロする。
例えば、喧嘩をしたらしいカップルが離れて座るシーンでは、“顔”の目から涙がこぼれるなど、相当に凝った構成。

このように、「とおくてよくみえない」という、本作品展で予想される観客のつぶやきをのそのままタイトルにしてしまったことからもわかるように、作者の狙いはまさに観客の“想像力”を刺激すること、なのだ。

もう一つのこの作者には、“社会派”としての顔もある。
入り口には、森永砒素ミルク事件で障害を負った「木村さん」の写真が掲げられ、写真と自身の独白ともいえるテキストで構成された「ベイビー・インサドン」は在日韓国人の妻との結婚を機に、在日の人たちとの関係を真摯に問いかける作者の姿が浮かび上がる。

しかもそれらが単なる“告発”ではなく、作品として素晴らしい“問いかけ”として成立している。ここでの作者は、観客であるワタシたちだけでなく、自身へも「想像力を喚起せよ!」と迫っているのだ。

高嶺格「とおくてよくみえない」の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「翻弄するもの/翻弄されるもの」--展覧会へ行こう!(桑原俊介氏)
「“よくみえなさを楽しむ”ことこそが、この美術展のキモ」
--アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
「この展覧会をすべて覆っているのは『不穏』さ」--日毎に敵と懶惰に戦う
「気づかなかったものに目が開く」--アートを見る眼・味わう眼(藤田令伊氏)
「高嶺作品をまとめて観られる貴重な機会」--あるYoginiの日常
「独特のユーモアと、作家の体温を感じる展示」--SEBASTIAN X 永原真夏と行く~
「文脈のスケールが微小なのだ」--アートイベント中心、その他つれずれ。
「ピントが合いそうで合わない」--中年とオブジェ~魅惑のモノを求めて~
「分かりやすい答えこそ最も疑うべきもの」--asahi.com(西田健作氏)

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