【映画】メメント2011/03/06

メメント
『メメント』(2000年・監督:クリストファー・ノーラン)

先頃発表されたアカデミー賞でも『インセンプション』が4部門受賞と気を吐いたクリストファー・ノーラン監督だが、じつは.ワタシは未だこの監督の作品は一本も観ておらず、思い立ってまずは2000年作の『メメント』から観始めることにした。

冒頭からして、いきなり主人公(ガイ・ピアース)による殺人というショッキングなシーンによって本作は始まる。さらにアップを多様した映像で謎めいた雰囲気を醸しだし、観る者を一気に惹きつける。そこから倒叙法で物語は進むのかと思いきや、この監督はさらなる仕掛けを施し、ひと筋縄ではいかない展開を用意した。

前向性健忘という障害を持つ主人公は、10分しか記憶が保てない。つまり、10分前のことは全て忘れ、会った人間も、自分がしたことを覚えていない。記憶にあるのは、暴漢に妻を殺され、そのショックで記憶障害を負い、その犯人を追っているということだけ…。

したがって本人が頼りとするのは、手持ちのポラロイドカメラで写した写真とメモ、さらに身体に刻まれた文字(入れ墨)だ。
その写真やメモを確認することで、常に過去を“推測”をしながら次の行動に決定しなければならない。今話している人間は過去に会ったことのある人間のなのか? 味方なのか、敵なのか? 曖昧なまま物語は進んでいく…と書いたが、じつのところ物語が進んでいるのか、過去をなぞっているのか、それすら判然としない。

目覚めるたびに今、自分はどこにいるのか混濁し、見知らぬ人間から電話があり、ドアを明ければ見知らぬ男がいる…そんな、そんな体験が何度も繰り返され、ワタシたちもまたその度に混濁の迷宮へと誘われる。

かろうじて、事件以前に保険会社の調査員をしていた時代に、今の彼と同じような前向性健忘となった男性と妻とのやりとりのみがモノクロで写し出され、それが彼の残された“記憶”であることがおぼろげながら確認できる。

それにしても、“記憶”というものがいかに人間のアイデンティティ形成にとって重要であるかを、『ボーン・アイデンティティー』以上に迫る一方で、その時の思いや印象を書き綴ったメモや写真が本当に真実なのか、さらには“記憶”とは何かを深く問いかける。

同一シーンの繰り返しと巻き戻しという手法は、クエンティン・タランティーノ監督による『パルプ・フィクション』内田けんじ監督による『運命じゃない人』などでも用いられていたが、これだけ複雑に多層なレイヤーを交錯させるノーラン監督の手腕はやはり唸らざるをえない。

それだけに、メビウスの輪の途上のまま、突然に出口を塞がれてしまったかのような幕切れは、じつにあっけない。どこかかつてのニューシネマを彷彿させるようなラストだが、それだけに主人公の“心の闇”の中に放り出されてしまったかのような不気味さが、後味悪くねっとり絡みつく…。

『メメント』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「これは『喪失』についての物語だ」--ウェブマガジンUNZIP
「観客、そして映画そのものに対する意欲的作品」--CINEMA PREVIEW(谷本桐子氏)
「相対性の映画。」--粉川哲夫の「シネマノート」
「脚本構成のアイデアを明確に映像化」--映画瓦版

↓応援クリックにご協力をお願いします。
人気ブログランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ