【映画】春との旅2011/06/07

『春との旅』
『春との旅』(2010年・監督:小林政広)

『愛の予感』(2007年・ロカルノ国際映画祭グランプリ)で、ワタシたちに衝撃を与えた小林政広監督の最新作。
その『愛の~』では、中学生による同級生殺害事件を題材に、被害者と加害者の親同士の、えも言われぬヒリヒリとした関係をセリフを排除したドキュメンタリータッチで描いた同監督だが、本作では一転してセリフありストーリーありのストレートなドラマに真正面から取り組んでいる。

足の不自由な老人・忠男(仲代達矢)は妻に先立たれ、また娘も自死し、孫娘の春(徳永えり)と二人きりの生活を送っていた。ところが、春が職を失ったことで忠男は身を寄せる場所を探すために、兄弟たちを訪ね歩くのだが…。

いわゆる映画の常套であるロードムービーなのだが、祖父と娘というカップリングはたしかに新味であり、その旅から現代日本社会が抱える老人介護・福祉、雇用情勢、世代間格差、家族のあり方など、さまざまな問題が立ち上がってくる。

そういう意味では、山田洋次監督が列島を縦断する一家族の眼から観た高度経済のきしみを見事にとらえたロードムービーの傑作『家族』(1970年)に相通じるものがあるし、見方によっては好き勝手に生きてきた挙げ句に兄弟から見放される忠男の姿に、寅さんの末路をダブらせることもできる…。

しかしまた、当初、忠男を主軸に置くことで転がっていた“物語”が、やがて母(忠男の娘)の自死の秘密が明かされるあたりから、次第に春の物語へと転換していく。このあたりの小林監督の作劇のうまさが光る。
仲代をはじめ大滝秀治、淡島千景、菅井きん、小林薫、田中裕子、柄本明、香川照之といったひとクセもふたクセもある“大物”が顔を揃えたオールスターキャストであることからも、この監督の“演出””がいかに信望されているかがわかる。

ただ、ワタシには絶賛されたという仲代氏の演技がワザとらしく感じ、やや鼻白んだ。また、『愛の~』では“静寂”がじつに緊迫としたドラマを生んでいたが、ここでは全編に響きわたる音楽(佐久間順平)がかえって作品の邪魔をしていたような気がする。

それらが減点となり、残念ながら“傑作”には至らず。

『春との旅』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「日本が直面している問題を浮き彫りに」-- L-Cruise・日経トレンディネット(安部 偲氏)
「ひたすら引く波のような安堵と救済」--trivialities & realities
「悲しみを帯びたハッピーエンド」--映画通信シネマッシモ(渡まち子氏)
「家族、そして人と人との絆の大切さを説いた秀作」--未完の映画評
「『東京物語』が連想されるロードムービー」--映画瓦版
「大津波に見舞われた家族の物語」--再出発日記

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_ 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評 - 2011/06/07 23:58

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