【TVドラマ】シューシャインボーイ2010/11/04

TVドラマ『シューシャインボーイ』
今年の「ソウル国際ドラマアワード」でグランプリを受賞したということで、『シューシャインボーイ』(テレビ東京)の再放送を観る(11月3日)。

内容は、戦争孤児から一代で会社を築き上げた社長と、大手銀行を辞めて社長の運転手となった男との交流のなかで、戦後のニッポン社会、そして夫婦や家族のあり方を問う、というもの。

脚本は鎌田敏夫氏。いい脚本とは、まさにこういうホン(台本)を指す。
以前、『俺たちの旅』シリーズ制作陣から、鎌田氏は脚本に取りかかる前に、その人物がどんな家庭で育ち、親の職業、出身地、どんな性格か…といったドラマに出てこない部分まで、人物設定をかなり綿密に書き込むという話を聞いたことがある。
そして本作でも、背景も含めた人物をしっかりと描き、無駄なくしかも含蓄あるセリフ、ワンカット、ワンシーンを重ねることで、豊穣な物語を紡ぎだしていく…。

例えばこうだ。
食品会社社長(西田敏行)の関連会社が不祥事を起こし、件の社長が謝罪に訪れる。「いっちゃん、スマン…」。
そのひと言、佇まい、表情で、この二人の関係がどういうものだったか、どんな苦労を共にしてきたのか、ワタシたちはたちまち知ることができる。
あるいは、社長が工場で働く社員を細かく指導する様など、おそらく丹念な取材をしたであろう。(原作を読んでないのでどこまでそれに沿っているかわからないが)。その細やかな差配ぶりが、この人物を見事に造形している。

そして、その社長と、新宿のガード下で今も仕事を続ける老靴磨き(大滝秀治)との因縁めいた関係や、運転手(柳場敏郎)の過去やトラウマも、その秀逸な脚本によって薄皮を剥ぐように少しずつ明らかにされる…。そのなかで、戦後を経験した世代と現代人との価値観の衝突が顕在化する一方で、世代を超えた“悩み”や“共感”もまた浮き彫りにされる。「ドラマアワード」で広くアジア人の“共感”を得たのも、おそらくそこにあるのだと思う。

予算の関係か(失礼)、映像的には陳腐な場面が散見されるものの、そのファンタジーめいた結末が陳腐に貶められていないのは、そのセリフや展開に十分に“リアル”があるからだろう。そして、その“リアル”さは、やはり脚本から生れたものに違いない。

たしかに西田敏行は上手い役者だと思うが(近年の“臭み”のある演技はワタシはどうも好きになれないが)、この水準の脚本があれば、出演者を全取っ換えしても成立するのではないか? そう思わせるほど、脚本のチカラを感じたドラマだった。
芸術祭参加作品なので、おそらく何らかの受賞があれば再放送、DVD化もされるだろう。その時はお見逃しなく。