【演劇】焼肉ドラゴン2011/02/12

焼肉ドラゴン
鳴りやまぬ拍手とスタンディングオベーション…。
2008年に初演され、その年の演劇賞を総なめにした『焼肉ドラゴン』の再演を観たが、やはりこれは歴史に残る名作だと確信した(2月12日・新国立劇場)

会場に入るともうそこは島次郎氏が手がけた秀逸な舞台セットによって、“昭和”の朝鮮人部落が出現していた。まるで舞台からホルモン焼きの臭いが漂ってくるかのような、濃厚な世界。ワタシたちは、すぐにその異空間に誘われる…。

じつはワタシは、テレビ放送でこの初演版を観ている。
したがって、“語り部”である一人息子・時生(トキオ)の運命も、ホルモン焼店とその家族の行く末も、既に知っている。
しかしストーリーもセリフも、ほぼ初演版のまま演じられる舞台に、初見でないことを悔やんだのは、10分にも満たなかったのではないか。
役者の姿を追いがちなテレビカメラの目線ではない、舞台全体から立ち上る“物語”に一気に引き込まれた…。

高度成長真っ只中の1970年前後を時代背景に、関西の朝鮮人部落でホルモン焼店「焼肉ドラゴン」を営む在日コリアン一家が、歴史と社会に翻弄されながらもたくましく生きる様を描く。
そこに詰め込まれるたのは、日韓の歴史はもとより、差別、教育、結婚、ジェンダーの問題や「在日」と韓国人の確執、影を落とす済州島四・三事件など、在日コリアンの苦難の歴史を紐解く一大パノラマのよう。

それらの在日コリアンが抱える象徴的な課題や問題を、ほぼすべてといっていいほど詰め込みながら、教条的にもならず、破綻することなく、ユーモアをたっぷりまぶしたエンターテイメントに仕上げた鄭義信(作・演出)の手腕は讃えて然るべきだろう。

日韓合同による役者陣のイキもぴったりで、ワタシたちもまるで「焼肉ドラゴン」の店内に居るかのように、臨場感溢れるその悲喜劇に巻き込まれていく…。

そんな役者陣のなかでも、店主夫婦を演じた韓国人俳優二人(申哲振・高秀喜)の存在感はバツグンで、とりわけ寡黙な店主を演じた申が自身の過去を静かに独白する場面では、一瞬にして観客すべてを惹きつける。

ふだんは本作のようなストレートな芝居はあまり観ないワタシだが、休憩を挟んで3時間余りという上演も、この小さな空間から放たれる壮大な歴史物語のスケールを考えると、必要な時の流れだったのかと思う。

桜散るなかリアカーをひくラストのシーンはまるで、美しい映画(映像)を観ているかのように息を呑む。その後に引き続く、在日コリアンのさまざまな“苦難の歴史”に向かって一家はそれぞれの道を歩み出すのだ…。

『焼肉ドラゴン』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「必死で生きる普遍的な家族の物語」--しのぶの演劇レビュー
「『在日』を真正面から描いた渾身の力作だが…」--因幡屋ぶろぐ
「笑いに紛らせて大きな課題を突きつけた」--変様する港街から
「在日問題に留まらない、普遍性を感じさせる作品」--松井今朝子ホームページ

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