【TV】白球~選手たちは海を渡った~2011/02/07

『白球~選手たちは海を渡った~』
NHKハイビジョン特集として昨夜(2月6日)放送されたドキュメンタリー「白球 選手たちは海を渡った」を観る。

「海を渡った」日本のプロ野球選手を追った秀作ノンフィクション『海峡を越えたホームラン』 (関川夏央著)によって、ワタシたちは野球による日韓の“異文化”交流を知り、『甲子園の異邦人』 (金賛汀著)によって、在日朝鮮人高校野球選手の実像に触れることが出来たわけだが、このドキュメンタリーはそうした100年に渡る日韓の野球交流史を“人物”にスポットを当てながら俯瞰する。

まず最初の“人物”として紹介されるのが、韓国の弱小野球チームを常勝軍団へと変貌させた金星根(キム・ソングム)監督だ。金氏は日本で野球選手になることを夢見た在日二世だったが、当時は在日韓国人を受け入れる環境がなく、海を渡った。その頃はまだ日韓に国交はなく、“片道切符”と覚悟を決めての渡韓だった。

選手と活躍した後、やがて韓国プロ野球界で“野神”と崇められる存在となった金監督。淡々と“日本語”でインタビューに答えかと思えば、突然にギラリと眼を光らせて吸いつくように選手に指導し、鬼のようなノックを浴びせる。 そしてその金監督を、日本人の関川 浩一打撃コーチや小早川穀彦臨時コーチが、手足をとなって支える…。

寡聞にしてワタシはこの“野神”監督を本作で初めて知ったのだが、さらに瞠目させられたのは、戦後の韓国野球の基礎を築いたとされる金永祚(キム・ヨンジョ)だ。
アメリカから韓国に野球が伝わったのは、およそ100年前。戦前に早慶戦の熱狂に触れ“野球の早稲田”に憧れたキム・ヨンジョの軌跡が、さまざまな資料や証言とともに描かれる。

さらに驚かされたのが、1963年にソウルで行われたアジア野球選手権で、韓国が3-0で日本チームに快勝し、優勝しているという歴史的事実だ。日韓を沸かせたWBC決勝戦を遡ること40年も前に、すでにこの両雄の対決は球場を埋めた3万人のソウル市民を沸かせていたのだ。

日本人、在日韓国人、韓国人留学生が共にプレーする京都国際高校野球部は、まさに“多文化共生”を象徴し、韓国プロ野球創設に奔走したでした張本勲(チャン・フン)氏や、「裏切り者」と言われながら日本に渡ってきた白仁天(ペク・インチョン)氏のインタビューなども“歴史の重み”を感じさせる。

白氏と立場を逆にして“海を渡った”新浦壽夫氏(現・野球解説者)が、千葉ロッテマリーンズの金泰均(キム・テギュン)選手を激励するシーンは、異国での苦労を共有する者同士の、言葉に尽くせない連帯エールとして胸を打つ。

番組は、金監督が2010年の韓国リーグ優勝を決め、日本シリーズの勝者であり韓国人創業者を企業母体に持つ千葉ロッテとの対決するシーンで終わる。
だが、ワタシたちがその興奮を享受できるのも、そこに至るまでに日韓の野球史に刻まれたたゆまぬ歴史の積み重ねがあったからこそ、に気づかされるのだ。

ここでの“海”は、まさに交流の海であった。ドキュメンタリーとしてのじつにオーソドックスなつくりだが、野球を通じて、日韓の歴史絵巻を紐解く一つの試み。
ワタシたちはそのことに思いをはせながら、改めてアジア史の検証をする必要があるのではあるまいか。

なお、再放送(NHKハイビジョン)が2月13日(日)16:00~17:50に予定されている。

『白球~選手たちは海を渡った~』の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「野球を通じて韓国の戦後史、日韓史を振り返った労作」--YOMIURI ONLINE(片山一弘氏)

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