【本】アンジャーネ ― 2011/02/24
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例えば、住民であるベトナム美女の部屋にただならぬ様子のベトナム人の男が訪れ、争いの気配の後、その女が深夜になってドス黒い赤をにじませ布がはみ出たトランクスをひきずっていく姿を目撃する…。
またある時は、イラン女性・ジーナの部屋から飛び出してきた女子高生が手にしていたのは彼女自身がモデルとなったセミヌード写真。撮影したのはジーナなのか? なぜ、彼女の部屋にはさまざまな日本人が出入りするのか…。
さらに、「ランタン楼」の近くでの殺人事件や独居老人の死に、住民たちへの疑いの目が向けられる…。
そうした、ちょっとした事件や謎に“大家”となった青年が否応なく巻き込まれ、ときに心あたたまる、ときにホロ苦い結末となりながらも、謎を解いていく。
文章も端正で、テーマ性も、今日性もあり、すぐにでもNHKドラマになりそうな物語なのだが、どうもワタシは最後までこの「ランタン楼」の住人にはなれなかった。その原因を探れば、どうもこの青年の希薄なキャラクターに思いあたる。
青年がかつてなぜ弁護士を目指し、そして“挫折”したのかが十分に説明されず、思いよらず大家を引き受けてしまった心象風景も描かれていない。友人たちに登場によって動揺する場面もあるにはあるが、キャラクターの掘り下げにはあまり寄与はしていない。
そうした意味では、小説のテイストはまったく違うが、キャラの勢いにまかせ書きなぐったかのような『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉著・小学館)とは、じつに対象的だ。
また、エスニック・メディア(外国人向け新聞)を発行するエネルギシュな女性社長に振り回される体験を綴った高野秀行氏による『アジア新聞屋台村』 ようなハチャメチャさもここにはない。
ワタシなどは、しばしばその往事の様子が語られ、今もその存在感をにじませる“中国人”の祖母が、今よりもはるかにその居住が大変だった時代に、どのように地方の小都市でアパート経営をしていたのか、そちらの物語を読みたくなった。
青年を支える“大人”たちや、ユニークな父母も、この物語に華を添えてはいるのだが、この人たちももっとキャラを際立たせることができたのに…と、そこが惜しい気がする。
「あそこじゃ、剥き出しなんだ。全神経を使って、手さぐりで付き合わなきゃならない」「そう。でも、それが気持ちいいんだよね」…といった青年の“成長”を示すいいセリフも出てくる。
ドラマ化する際には、ぜひキャラを掘り下げて、「ランタン楼」のディープな世界を描いてほしいと思う。
◆『アンジャーネ』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「読み心地のよい連作短編集」--WEB本の雑誌
「ジワっと染込んでくる人の繋がりが温かい」--view halloo
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