【映画】クレイジー・ハート ― 2010/10/31

これはもうジェフ・ブリッジスの映画だろう。アカデミーならびにゴールデングローブの主演者男優賞ダブル受賞は記憶に新しいが、むべなるかな。
演じるは酒に溺れドサ回りの自堕落な生活を送るかつての大スター、カントリー歌手のバッド・ブレイク。これがもう様になっている。パンツ一丁でヘドを吐きながらのたうち回るブリッジスのなりきり振りは尋常じゃない。このあたりは『スター誕生』のクリス・クリストファーソンを彷彿させるが、そのやさぐれ感はジェフに軍配が上る。
そして、観るものヒリヒリと迫ってくる痛々しさと哀しさゆえに、このダメ男に観客は見事に感情移入させられる…。
その彼の前に現れるのが、地方紙の女性新聞記者。この主人公と恋仲になるシングル・マザーを演じるマギー・ギレンホールもまた魅惑的な演技を魅せる。
けっして美男美女と言えない(失礼)、離婚を経験し、心に傷を持つ二人のぎこちないラブストーリーというのが、この物語にリアル感を与える。やがて幼い彼女の息子も含めて、つかの間の“家族”を得たシンガーは、再び曲をつくり始めるのだが…。
ブリッジスのプロはだしの歌唱も堂に入っているし、今や大スターとなったかつての弟子を演じるコリン・ファレルも渋い歌声を聴かせる。ロバート・プラントの新作にも参加しているバディ・ミラーの起用をはじめ、音楽を担当した名匠・T・ボーン・バーネットの貢献も見逃せない。その、まるでライブ会場にいるかのよう演奏場面の臨場感がまた、本作のリアル感に寄与している。
幕切れは唐突だが、ハリウッド的なハッピーエンドではなく、ビターな味わいのまま“そして、人生は続く”としたのも良し。ただし、“立ち直り”や弟子との邂逅の過程をはしょったせいか、やや薄味になった感も…。
いずれにせよ大スターの起用もなく、大事件も大災害も起こらないこうした小品が愛される米映画もまだまだ捨てたものではない…と思わせる佳作。イラク戦争に反対したディキシー・チックスが大バッシングを受けたことが象徴するように、保守層から愛されるカントリー音楽を、本作を観て少し好きになった。
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