【映画】クロッシング2010/10/19

『クロッシング』
『クロッシング』(2008年・監督:キム・テギュン)
脱北者問題を正面から取り上げ、実際の脱北者が全面協力したという問題作。家族のために薬と食糧を求め北朝鮮を去った父と、父を探す11歳の息子の過酷な運命を描いた作品だが、2002年に脱北者25人が北京のスペイン大使館に駆け込んだ実際の事件をモチーフにしているという。

脱北から親子の再会までの展開は、“つくりもの”でないだけにもちろんスリリングではあるのだが、何といっても衝撃的なのは、目を背けたくなるような北朝鮮の圧政と、その犠牲となる子どもたちの痛ましい姿だ。
それを知るだけに、韓国に渡った父は身を焦がしながら息子の救出に力を注ぐのだが、「北朝鮮には神はいないのか!」と、恩人のキリスト者に向かって悲痛な叫びをあげる…。

心打つ作品である。しかし、ワタシにはやや物足りなさが残った。
制作陣は、実際に起きた事件を基に、脱北劇を正確に描くことに心を砕いたのだろう。が、どうも「映像」と「劇」を追うばかりで、人びとの「内面」が十分に描かれたとは言い難い。
たしかに親子の情愛は描かれているが、韓国の生活を識った父が“神さえも見放した”祖国をどう思ったのか、あるいはどう思っていたのか? その内面の苦闘やあるいは「変化」は語られない…。同様に、祖国に翻弄される妻や子たちの「内面」もワタシには見えてこなかった。
そして、なぜサッカー選手として国民的な英雄である主人公(父)が、炭鉱夫としての貧困生活を余儀なくされているのか、その北朝鮮社会たる背景をもう少し語ってもよかったのではないか?

あるいは、親子の物語に固執することなく、もう少し他の脱北者も描くことで、むしろより深みのある作品になり得たのではないか。
さらに欲を言えば、韓国映画が得意とするユーモアのセンスを少しで取り入れることで、より「人間」が描けたのではあるまいか? …

4年の歳月をかけ、中国、モンゴル、韓国で秘密ロケを行ってきた制作陣にそこにまで求めるのは酷なのかもしれないが、「政治映画」としてではなく「名作」として歴史に刻まれるためには、もう少し映画としての膨らみが欲しかった気がする。今後は、群像劇としての脱北者ドラマを、連続ドラマで観てみたい。

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