【映画】息もできない ― 2010/10/01

「息もできない」のは登場人物たちか、はたまた観客か。…まさしくタイトルどおり、息もできない緊迫感が画面を覆い尽くすコリアン・フィルムノワール。これが長編初作とはとても思えない監督・脚本・編集・製作から主役まで5役をこなすヤン・イクチュンの異才ぶりに、言葉もない。
暴力でしか自分を表現できない男サンフン(イクチュン)と、気丈な女子高生ヨニ(キム・コッピ=こちらも名演)が偶然出会い、互いに「同じ匂い」を感じて惹かれあう…。おそらく2人は、直感的に自分と同じ苦しみを背負っていることを感じたのであろう。その「匂い」の根源にあるのは、果てしのない暴力の連鎖だった。「家族」の暴力に苦しみ続けるサンフンとヨニ。画面に飛び散る鮮血と繰り返される暴力シーンに、ワタシたちは暗澹たる気持ちになる。
そして、それら陰惨なシーンと対をなすような、幼い甥子を連れての街中での至福のデート・シーン。3人の幸せそうな姿を遠方からカメラが追う。手持ちカメラの揺れがまるで、この3人の不安定な心を顕すように…。
しかし、本作をあまりに哀しく、美しい物語にしているのは、漢江のほとりで二人が寄り添いながらさめざめと泣くシーンだ。そのやるせない気持ちが、言葉にできない絶望感が、ワタシたちを打つ。
だが、「死」をもってしても救済されない暴力の連鎖を暗示して、本作は幕を閉じる。近代史のなかで「暴力」が蔓延した韓国社会と、その影響がぬぐいきれない家族の「暴力」。自身が虐待にあった経験をもつ、若き監督による告発と救済のドラマは、韓国社会と歴史に向けられたものなのだろうか?
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_ 映画的・絵画的・音楽的 - 2010/10/20 05:01
前々から申し上げているように、韓流映画はほとんど受け付けないのですが、予告編から、この映画の出来栄えには素晴らし...
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