【演劇・ダンス】冨士山アネット『SWAN』 ― 2010/10/23
「アネット」はダンス的演劇(テアタータンツ)という手法で独自の活動を行っているが、その生ステージを観るのは初めて。噂どおりの独自のパフォーマンスに圧倒された。
湖のほとりに暮らすホームレス状態の犯罪者の群れに、一人の若い女・オディール(黒鳥)がやって来る。この「白(黒)鳥」たちは日々、官権(公安)に監視されている。やがてオディールは建築会社の息子である王子と出会い、そして悲劇が始まる…。
…という背景説明とストーリーが当日配布されたパンフに記されているものの、舞台ではセリフらしきセリフは一切なく、物語は役者(ダンサー)たちのダンスと音楽、そして映写された文字だけで綴られていく。
驚くことに、作・演出・振付を担当する長谷川は、作品をつくりあげる上で、まずセリフも含めた台本を書き、演出の過程でそのセリフを身体の動きに変換していくのだという(演劇ファンとして知られる中井美穂氏とのポスト・トークでこのことを知った)。
そうした特異ともいうべき制作手法について触れてもあまり意味がない。ワタシたちは、なにより舞台で起こった事象を語るべきだろう。しかしながら、その計算され尽くした、饒舌ともいうべき身体の動きが“セリフ”だと識ると、なるほどと肯首せざるをえない。
とにかく舞台を縦横無尽に動き回り、あるいは機械体操が如く息を合わせ、また組んでほぐれつのたうち回る役者/ダンサーたちはもとより、これらの動きを飽くことなく見事に魅せつけた長谷川の手練は賞賛に値する。
バスケットボールを模したバッグの投げ合いや“湖”での格闘シーンなどアイデア満載で、なにより群舞が美しい。
演劇にダンスなどの身体表現を取り入れている劇団としては、ほかにもニブロールやチェルフィッチュがあるが、身体表現の水準の高さと、そこから生み出されるカタルシスは、群を抜いている。
長谷川の溢れんばかりの才気が、どの高みまで「アネット」を運んでいけるのかはわからないが、この試みはもうちょっと先まで見てみたい。(公演は24日まで)
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