【本】師匠は針 弟子は糸2011/09/19

師匠は針 弟子は糸師匠は針 弟子は糸
古今亭 志ん輔

講談社 2011-03-26
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落語家が書いた本をそれほど手にしているわけではないのだか、それを大ざっばに分けるとすれば、落語論と自伝・エッセイ・雑感に大別できるのではないだろうか(もちろん混在している場合が多いのだろうが…)。

前者の代表作といえば、立川談志師匠による『現代落語論』立川志らく師匠の最新刊『落語進化論』 が挙げられるし、講談社エッセイ賞に輝いた立川談春師匠の『赤めだか』 などは後者にあたる。

古今亭志ん輔師匠の本書も、やはり後者に分けられると思うが、その胆(ウリ)となっているのは書名にも象徴されるように、今は亡き志ん朝師匠との想い出に尽きる。なにしろ“名人”の誉れ高い三代目・志ん朝が逝く間際まで、側に仕えた愛弟子だ。志ん輔師匠自身の言葉から、昭和の大名人の芸やしぐさ、生活の息吹まで識りたいという落語ファンは少なくないだろう。

じつはワタシもそのつもりで読み始めたのだが…、じつは瞠目は別にあった。
2章145ページにわたって、小さな文字でビッシリと1年間の日常が記された日記。「志ん輔のケータイ日記」と題されたこの日記を、当初ワタシは読みとばすつもりでいた。

ところが読み始めて、これがめっぽう面白い。
何がオモシロイって、現代の芸人がどのような日常を送っているか、のぞき眼鏡で覗いているかの如く(今ならさしずめライブか)、その生活ぶりがつぶさに開示されているのだ。

例えば、師匠は高座の前にしばしばカラオケに立ち寄る。咽ならしをカラオケで行っているのだ。考えてみれば合理的かつ経済的で道理のいく話なのだが、なんだか噺家→咽慣らし→カラオケというイメージ(絵柄)に意外性があって妙に可笑しい。
東京だけでも500人近い噺家がいるというが、ほかの噺家も師匠と同じようにカラオケを利用しているならば、カラオケ業界は落語協会に感謝状を贈るべきだろう。

そんな具合に、この日記では(ご本人以外も含めて)現代落語家の生態がつぶさに明らかにされる。
そこには、健康に注意を払い、高座での観客に一喜一憂し、寄席と落語会場の行き来に右往左往し、ときに深酒をしては後悔をし、時間を工面して一人孤独に稽古に励み、弟子の態度に腹を立てては雷を落とし、弟子のことで内儀サンと夫婦喧嘩をし、娘の進学を心配する一人の芸人であり、生活人がいる…。

これはれっきとした日記文学ではないか。本書を100年後に読んだ人たちは、きっとこのビビットな生活感溢れる当時(現代)の芸人の生活ぶりに驚くことだろう。

ある時代を生きた、ある一人の芸人の貴重な「記録」だ。ならば志ん輔師匠以外の噺家たちの日記も、覗いてみたくなる…。志ん輔師匠と対極にあるような(芸風です!)白鳥師匠などは、いったいどんな生活を送っているのだろうか?…なんて、ああ妄想モード(笑)。

例えば、(高座を共にすることが多い)三人ぐらいの噺家の日記をそれぞれ載せて、それぞれの立場から観た高座や落語観の違いが浮き立てば、それもまた興味深し。どこかで企画してくれないかなぁ。

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【落語】「残暑、Wホワイト落語会、よたび」三遊亭白鳥 桃月庵白酒 二人会2011/09/07

三遊亭白鳥 桃月庵白酒 二人会
なるほど、白鳥と白酒とでWホワイトか…。三遊亭白鳥桃月庵白酒両師匠による二人会だが、新作派と古典派というじつに対照的な芸風ながら、若手で、またともに実力派による会ということで、4回目を重ねての「残暑、Wホワイト落語会、よたび」。(9月6日・北沢タウンホール)

まずはハンドマイクを持った二人が登場し、この日の割引グッズである「白いハンカチ」を観客にかざしてもらっての記念撮影もまじえるなど、軽妙な掛け合いトークで場を温める。

話の内容から、「今日は怪談噺かな…」と推測したが、白酒師匠の一席目は「松曳き」。古典落語でお馴染みの粗忽者同士の珍妙なやりとりがやがてシュールな味わいさえ醸しだすという流石の話術だが、もともと人格が混濁する(?)などややこしい噺なので、ややわかりにくい描写も。

一方、白鳥師匠はトンデモないネタを持ってきた。
「女性芸人の怨念を描いた」という「珍景かさねが真打」は、本人をはじめ白酒師匠から弟子、女流落語ら「実名」で落語界のお歴々がバンバン飛び出す実録(?)業界裏話落語。とにかく危ない暴露話(?)が満載で、とてもここでは内容を書け(ききれ)ない(笑)。

なんと「中入り」を挟んでので50分にも及ぶ大ネタだが、話の入りで白鳥師匠の弟子同士の会話に「野ざらし」が、終盤の大怪談大会に見事につながるなど、メチャクチャだがよく出来た(?)噺。落語をまったく知らない御仁には「?」だらけの噺だろうが、ワタシらには抱腹絶倒の白鳥ワールド。

それを受けて白酒師匠は、「彼(白鳥)は一体どこへ行こうとしているんでしょうかね?…」とマクラでやって会場爆笑。世界を一気に、自分の土俵に引き込んでの「不動坊」。幽霊は登場するものの、こちらも古典落語お馴染みのドタバタ騒動を楽しく聴かせる。

「替わり目」の酔った亭主など、この人は人のいいおっちょこちょいを描かせたら絶品で、ここでも未亡人との縁談を持ちかけらて夢見心地の男らが、観客を夢見心地に…。

新作と古典、芸風も違うのに、なぜか通奏する笑いを感じる二人。方向に違っても、客を思いっきり幸せにするぞ、という心意気がそう感じさせるのだろうか。

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【芸能・落語】浪花ぶし 澤孝子の世界2011/08/24

浪花ぶし 澤孝子の世界
これはいい企画だ。
当代きっての人気落語家・柳家喬太郎師匠がナビゲーターとなって、浪花節の世界を案内するという「浪花ぶし 澤孝子の世界」(8月23日・博品館劇場)を堪能した。

おそらくメイン・ターゲットは落語ファンなのだろう。ふだんは木馬亭でしか聴けない浪花節をおしゃれな(?)銀座にもってきての公演。これは「澤孝子氏の芸に圧倒された」という喬太郎師匠の計らいか?
というもの、落語好きならば講談を聞く機会はあっても、じつは近しい芸であるはずの浪花節をナマで聞いたことのある人は意外と少ないのではないだろうか。かくいうワタシもつい最近になって、浪花節に開眼したばかり…。

そういう意味でも鈴々舎風車による浪花節解説を冒頭にもってきたのもよかったし、ふだんは声を聞くこともない曲師(佐藤貴美江氏)にマイクに向けて、伴奏者から観た浪花節の魅力を伝えたのもよかった。

孝子×喬太郎対談も、両者さすがに堂にいったもので、二人の語りだけで「芸」になっていて、たっぷりと会場を沸かせる。

で、孝子氏の弟子である澤雪絵が露払いを務め、まずは語り始めたが、この人は高音に魅力がある。語りも低音部の唸りもまだまだだが、今後ののびしろが感じられる舞台。

もはやいつどこに出ても、何にも怖くない喬太郎師匠は、季節ネタをもってきた。四谷怪談をモチーフにしつつつもブラックジョークの効いた「お菊の皿」。かつてのこのネタを春風亭昇太師匠で聞いて、現代落語の魅力に憑りつかれワタシだが、さすがは喬太郎師匠。それをはるかに上回る面白さ、凄まじさ。今ドキ風若者からお菊の豹変する形態まで、ハチャメチャに演じわけ、観客の気持ちをガッチリ掴む。

立川志らく師匠は近著『落語進化論』 (新潮社)で、喬太郎師匠にも触れて「名人の基準は『江戸の風を吹かせられるか』にある」としているが、ワタシは「江戸の風」なんぞより、そよ風から台風まで変幻自在に吹かせまくる喬太郎師匠のふれ幅の大きな“喬風”が好きだ。

さて、澤孝子氏については事前にYou Tubeなどのチェックできず、まったく予備知識のないままその芸に接することに。が、一聴してその声に驚く。咽から絞り出すその強烈なコブシは、モンゴルのホーミーの如く倍音に響く。
そしてこの日の客層にあわせてか、落語でもお馴染みの「徂来豆腐」を可笑しく、情味たっぷりに演じ、語り、歌い、貫祿の舞台。その芸の確かさに舌を巻く。

先日も関西で活躍する三原佐知子師匠の“語り”に圧倒されたが、浪花節界は東西とも、女流がリードしているのだろうか? 寡聞にして浪花節界の現況については見当がつかないが、これだけ魅力ある芸(人)が確たる世界ならば、落語のように“再生”もあるやもしない。

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【落語】こしら一之輔二人会「ニッポンの話芸」2011/07/17

こしら一之輔二人会「ニッポンの話芸」
久かたぶりのブログ。そして、久しぶりの落語会。
立川こしら春風亭一之輔両氏の二人会「ニッポンの話芸」を聴きにいく(7月14日・成城ホール)。

仕事に追われるなか駆けつけたのは、落語評論の新しい地平を開いたと言っていいあの広瀬和生氏のプロデュース公演というのが、その動機。その広瀬氏が「立川流の秘密兵器」としてこしらを、「王道の中の型破り」として一之輔を推してきた。
これは興味を惹かれる。

まずこしらが、立川流らしい破天荒な語り口と所作で、川下り船上での落語体験をマクラにたっぷり。ここですでに、自身のキャラを観客に否が応でも認知させ、「たがや」を速攻で落とした(客席爆笑)あと、「だくだく」へ。

今風を若者を地でいくようなキャラのこしらは、その風体に似合わず(?)古典にこだわっているそうだが、そこは「落語のようなもの」をトレードマーク(?)としてか、スピーディーな展開で、とても16年選手とは思わせない(失礼)、若気の至り的な噺ぶり。

「破壊的な面白さ」((C)広瀬氏)とまでは至らないが、マクラやポストトークで披露された「頭の回転の早さ」を武器に、この二人会を契機にひと皮むけそうな気配。

一之輔はかなり以前にどこかで聴いた記憶があるのだが…そんなことはどうでもいい。この人はたしかに逸材だ。まだ二つ目だが、この日の「らくだ」は、ワタシが聴いた立川志らく・橘家文左衛門両師匠のそれをはるかに凌駕するものだった。

噺の緩急、実物の造形、こしらのマクラや演目を意識したクスグリなどじつに堂にいったもので、「将来の落語界を背負って立つ、スケールの大きな逸材だ」との広瀬氏評にまったく意義を唱えるものではない。

いやはや喬太郎師匠もウカウカしてはいられない、次代の大型ホープが現れた。
ブルース・スプリングスティーンの“出現”を評した名コピーに模するなら、まさにこの日ワタシは「一之輔にRAKU→GOの未来を観た」のだ。

「こしら一之輔二人会」の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「こしらのパンキーコミック感、好きです。 」--ざぶとん亭 風流企画:席亭風流日記

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【演芸】てなもんや浪漫バラエティー2011/05/29

てなもんや浪漫バラエティー
台風襲来で土砂降りのなか、浅草・木馬亭へ。「てなもんや浪漫バラエティー」と題された浪曲、音曲漫才、浪曲漫談のオムニバスショーを楽しむ(5月29日)。

聖書を脇に抱えた神父姿で登場した浪曲漫談のイエス玉川は、以前テレビでも観た記憶があるが、司会の澤田隆治氏(メディア・プロデューサー)によれば「テレビでは出来ないネタばかり」とのこと。
たしかに毒舌が持ち味だけあってそれも頷けるのだが、どうも過去に“売れた”経験があるから、グチっぽさが仇になってどうも乗り切れない。それが芸風なのか、それとも客の少なさのせいか…?

「宮川左近ショー」の三味線弾きとして活躍した暁照夫が、弟子の光夫と組んでの音曲漫才は、客席から左近ショーの記憶を引きずりだしながらの楽しいステージ。
上方と東京の気質を比べながら、ひとしきりくっちゃべった後、待ってましたの音曲に突入。左近ショーでも“売り”だった三味線早弾きは顕在で、「なんでこんなにうまいんやろ」と自惚れるギャグも、嬉しい決めゼリフ。
さすがに、お年のせいか(失礼)危なかっしい音程はご愛敬だが、とにかく左近ショウを追想できる上方の円熟芸に触れられたのは収穫。

圧巻だったのは浪曲の三原佐知子師匠。
じつは浪曲を“生”で聴くのは初めてだったのだが、その声量といい、声色・ヴォーカルコントロールといい、ケレンといい、浪曲という芸能の底力に圧倒された。

とにかくその声・節回しが気持ちイイ。ゾクゾクとする。
これはヌスラット・ファテ・アリ・ハーンカッワリー仏教声明に通じる身体に直接響くようにな快感だ。

浪曲(浪花節)という芸能は、明治期から戦前まで一斉を風靡した。
ラジオなどによって全国で愛聴され、当時の浪曲師は大変な人気だったという。なぜそれほどまでに、単純なこの語りと声の芸能が大きな人気を博したのか?

浪曲は今回確認できたように、じつに肉感的な芸能だ。
その語りと声が、心身に染みわたり、癒しや活力を与えてくれる…。
そこにワタシは、昨今の流行りのスピリチュアリズムや“癒し”に似たものを感じる。
だからこそ、浪曲師はヒーラーであり、小屋掛けは庶民にとってのホットスポットだったのではないだうろか?
そんな妄想を抱いてしまうほど、“生”の浪曲はパワーに溢れていた。

最後は出演者総出による歌謡ショーで、ここでも佐知子師匠は「無法松の一生」と「ろうきょく炭坑節」を唸り、さすがの貫祿を魅せた。

それにしても大雨とはいえ客席は寂しく、こんな豊熟な芸が安価で観賞できるのにじつにもったいない…。7月には、浪曲河内音頭を中心とした第二回が企画されているようで、こちらも期待したい。

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【落語】春風亭昇太・春の噺2011/03/03

春風亭昇太・春の噺
久しぶりの落語会で、春風亭昇太師匠の独演会「春の噺」を聴きに行く(3月3日・世田谷パブリックシアター)

放送作家にして落語に造詣の深い高田文夫氏が、かつて新聞でのコメントだったかインタビューかで、「もしかしたら“昭和の爆笑王”と言われた全盛時の林屋三平よりも、今の昇太のほうが面白いかもしれない」のようなことを言っていたが、その一文を目にしたときにひどく合点がいったものだった。

それほど、ワタシにとって昇太師匠との“出会い”は衝撃的だった。
年寄りが昔を懐かしむかのように、十年変わらぬ噺を、これまた変わらぬ口調で語る芸…という認識しかなかった「落語」を、こんなに現代的で面白いエンターテイメントだったのか!と目を開かせてくれたのが、昇太師匠だった。

緩急つけたスピーディーな展開と、身体をダイナミックに使ったストーリーテーリング、なにより観客の気持ちを自在に操るパフォーマーぶりに、その後に知る若手落語家によるムーブメントととも呼べるハイブッリド落語を牽引する一人として認識した。

その昇太師匠の高座に接するのも実に久しぶりで、この日はゲストの立川談春師匠を挟んでの二席。

演題が「春」なので、それにちなんだ(?)ものとしてまずは旬な“八百長相撲”をネタにした「花筏(はないかだ)」。病気の大関の“替え玉”となって提灯屋が、ひょんなことから土俵に上がることになって…という滑稽噺を楽しく演じる。とくに、気弱な提灯屋の豹変する喜怒哀楽を、うまく演じわけて笑いをとる。
もう一席の「花見の討ち入り」も本人が解説するように「出てくる人たちがみな馬鹿な連中」というバカバカしいお噺。こういう世界は昇太師匠お手のもので、スピード感溢れる軽妙な語り。

しかしながら、結局この日の“主役”はゲストの談春師匠だったかもしれない。
桃月庵白酒師匠の十八番でもある「替わり目」を、“名人”の風格を漂わせながら、人情と笑い、風刺を効かせ一瞬にして談春ワールドへと誘う。アッサリとした語りだが、十分に磁場をつくった。
昇太師匠の現代的で軽妙な笑いと対比をなすように、古典に深みを与えながら今日的な“語り”で観客を惹きつけた談春師匠の話芸が光った。

そのせいか、どうも昇太師匠のハチャメチャぶりがややおとなしく見えてしまったのは気のせいか。たしかにご本人の言うように「バラエティに富んだ現在の落語界にあって、かってのような牽引者とのして“力み”がそれほど必要ないのかもしれないが、はちきれんばかりのエネルギーが持ち味の昇太ワールドをもっと堪能したかった。

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【落語+演劇】『ラクエン!』柳家喬太郎+松村武2010/12/24

『ラクエン!』柳家喬太郎+松村武
柳家喬太郎松村武がお贈りする落語と演劇のコラボレーション!」と、銘打たれた『ラクエン!』を観に行く(12月23日夜・天王洲 銀河劇場)。

終わってみれば、結局は“柳家喬太郎ショー”だった。やはり並みの噺家ではない。そんな感想を抱いた一夜だった。

本作は四部構成になっており、一部でまず喬太郎師匠が古典落語の「抜け雀」を演り、二部の演劇ではその後日談が展開される。休憩を挟んで三部では、別の角度からやはり後日談を新作落語で、さらに四部で演劇、最後に再び喬太郎師匠の新作という進行。

なにしろ3時間にわたる落語と演劇のコラボだ。テーマとなるしょばなの「抜け雀」は時間も関係もあるのか、師匠の高座の“お楽しみ”であるマクラもなく、いきなり本筋に。
この噺は以前、喬太郎師匠の“師匠”である柳家さん喬師匠で聴いたことがあるが、さん喬師匠のどっしりと構えた芸風を踏襲しながら、喬太郎師匠ならではの落差のある人物像、演じ分けで無難にまとめる。
まずは、本日の“お題”の提示といったところ。

それを受けての芝居は、「抜け雀」が描かれた屏風を二千両出して買いたいと申し出た小宮山家での後日譚。“籠の鳥”の生活に厭いた若殿が屏風の中に入り、自由に戯れるものの、お家の大事に屏風より出でてケレン味よろしく活躍するというもの。

再び登場した喬太郎師匠も、やはり後日譚ではあるものの、「抜け雀」で栄えたその後の宿に場面を換えて、「なぜ絵師ばかりが讃えられる?」と憤慨する屏風職人が屏風に変身してしまうというゴシック・ホラーテイストな新作。
人間屏風が空を飛んで行く描写に、会場は大爆笑。

その“しゃべる屏風”を手に入れようと探索する泥棒一家が、屏風の罠に翻弄されるマクベス的な展開から、アクション劇へと転じる芝居を挟んで、最後に〆るは喬太郎師匠。

今回のコラボはどのように創作していったのか?
これはまったくの想像だが、二部の芝居は「抜け雀」を基にした松村氏の創作。屏風師の噺も、芝居と関係なく喬太郎師匠が「抜け雀」の後日譚として創作。
そのキテレツな噺を村松氏が膨らませて芝居として揚げ、それらをすべてを引き受けて、強力(ごうりき)で壮大なイリュージョン落語にまとめ上げたのが喬太郎師匠ではなかなろうか。

それほど、このコラボを〆た最後の噺は、まさに喬太郎ワールド。喬太郎落語の真骨頂だった。

舞台は現代で、小宮山家の屏風伝説を研究する大学教授とその教え子たちを軸に話が進むのだが、なにしろ“二人”の男子学生と二股をかける女子学生と彼らの会話からして喬太郎節が全開し、時流を捉えた(外れた)ネタとリアルな言葉と形態がコロコロと転がる。

やがて、失踪した女子学生を探しに教授と男子学生は、四部の芝居に登場した“屏風墓場”に行き着き、“しゃべる屏風”と対決するのだが…。
もうここまで来ると、噺の強引な展開はどうでもよくなり(笑)、羽織を屏風に見立てるという“芸”を繰り出し、顔を真っ赤にして“屏風”になりきる喬太郎師匠。怒号撒き散らし、のたうち回り、これまでの登場実物を全て登場させて合戦を再現するという熱演。

ここで喬太郎師匠の“爆笑王”たる所以は、客の集中力が切れかかると「お客さん、怒っていませんか~!?」「この噺、もう二度と演やらないから」などと、間一髪のクスグリ(?)を入れて、客を飽きさずにそのバカバカしい世界に最後までつき合わせてしまう手練だ。
これはもう喬太郎師匠ならでは芸当だろう。

一方でワタシは、“人気劇団”という「カムカムミニキーナ」も、松村武氏の関わった芝居も未見なので何とも判然としないのだが、役者が突然唄い出して「ふるさときゃらばん」化したり、これは新国劇か!?とツッコミを入れたくなるような古くさい(失礼)演出に、これはパロディか? と脳内に?マーク浮かぶことしばし。

今までありそうでなかったコラボという意味では、面白い試みだったが、今後は芝居の中で落語が演じられるなどの“入れ子”構造にしたり、落語の中に芝居のシーンを入れ込むなどの、さらなる“ケミストリー”も期待したい。
奇才・喬太郎師匠ならば、それも可能だと思うから。

◆『ラクエン!』の参考レビュー一覧
環状日記帖
yotaro-3の日記
きーさん元気にしています
Kazooの感激記
一番ステキな体で行こう!

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【落語】桃太郎 寿輔 犬猿二人会2010/11/28

桃太郎 寿輔 犬猿二人会
久かたぶりの落語会。「犬猿二人会」と題された昔昔亭桃太郎古今亭寿輔両師匠の二人会に行く(11月26日・日本橋教育会館)。
ワタシはこの両師匠が落語界でどのような位置(人気)にいるのか明るくはないのだが、会場は200席の日本橋教育会館ホール。ところが客席は50~60席ほどしか埋まっておらず、さすがに寂しい。主催者側は会場の選定を誤ったのではないか? 内容がよかっただけに、残念…というかモッタイナイ。

前座の春風亭吉好「やかん」に続き、まずは寿輔師匠が金ラメを縫い込んだ真っ黄色の着物で登場。芸歴43年というベテランの噺家だが、ワタシは初見で、この派手な衣装と口髭がトレードマークなのだという。
前列のご婦人らを軽く弄ってのマクラの後、自作の「自殺狂」。売れない作家が自殺して名を売ろうとするが、なかなか死ねないというありがちな噺だが、円丈師匠を思わせる一人語りのシュールな笑いで客席を温める。が、オチが“トマトジュース”ではどうも味気なく、もう少し気の効いたオチはなかったのだろうか?

桃太郎師匠はマクラで“廓”での自身の失敗談を語った後、「お見立て」につなぐ。マクラでも触れていたように長野県出身ということで、“訛り”が特徴のお大尽(金持ち)を演じるにはピッタリだが、どうも全体に滑舌悪いような気がする。これもこのヒトの持ち味だろうか? 憎めない風貌ともども、とぼけた味で笑いを誘う。

休憩の後、再び桃太郎師匠。
こちらは自作の「結婚相談所2010」。相談所を訪れた男性のプロフィールを尋ねる相談員とのトンチンカンな問答が延々と繰り返される。そのスピーディーかつシュールな味わいは、これもまたツイッター時代の落語か。

そして〆は寿輔師匠の「文七元結」
こちらは先程のシニカルな芸風から一転して、見事に大ネタを演って魅せた。きっぷのいい職人気質から、風格ある大棚の主人まで演じ分け、人情噺の本道をいくような出来ばえ。
マクラでは、忌野清志郎の「愛し合っているかい?」 コールはオーティス・レディングのコピーだの、10年毎に自身の芸風を変えてきたと吐露していたが、そうした引き出しの多さと芸幅がこの師匠の強みなのかもしれない。

それにしても、前段で「泣かせる落語は落語じゃないヨ」と毒づいた桃太郎師匠のマクラも、じつは(本人の意図を超えて?)トリで観客を泣かせるための演出だったのではないか、さらに言えば、一席目に廓噺を持ってきたのもこの師匠なりの粋な計らいだったのではないかと勘繰ってしまうほど、この日の流れは見事だった。

そうすると、「犬猿二人会」というのもじつに洒落の効いた落語会らしいネーミングだった、といえよう。

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【お笑い】これが楽曲お笑い!「ボーイズもの大集合」2010/10/14

「これが楽曲お笑い!『ボーイズもの大集合』」
玉川カルテットが好きだった。浪曲をベースに民謡・歌謡・ノベルティ…さまざまな音楽要素をゴッた煮にして、個性あるメンバーが歌い、ギャグを連発する、あの楽しいパフォーマンスが忘れられない。そこにボーイズの笑いの神髄が詰まっていた。毎度繰り返される偉大なマンネリ・ギャグ「♪ 金もいらなきゃ女もいらぬ、あたしゃも少し背が欲しい」が、いったいどこで飛び出すのか、それもまたスリリングな楽しみだった。

というわけで、演劇評論家の花井伸夫氏がプロデュースする「爆笑寄席・てやん亭」の2010スペシャル「これが楽曲お笑い!『ボーイズもの大集合』」(10月13日世田谷パブリックシアター)に足を運ぶ。

この日は新旧5組のボーイズが出演したが、驚いたことは「今後、こうした面々が揃うことはないかも」という司会を担当した花井氏の解説。なにしろポーイズバラエティ協会に所属するポーイズはわずか5組で、うち3組が本日の出演組というのだから、ポーイズの衰退ぶりがわかるというもの。会場もいつものシアタートラム(200席)と違い、広いせたパブ(600席)ということもあって、1階席のみで6割程度の入りでは、やはり寂しい。
しかしながら、さすがに目利きの花井氏で、このワタシたちはボイーズの過去・現在・未来の芸をたっぷりと堪能することができた。

トップパッターは「中小企業楽団バラクーダ」。「バラクーダ」といえば「日本全国酒飲み音頭」の大ヒットが思い出されるが、さすがにそれも20年前のことなので、観客の反応は今ひとつ。それでもこの「酒飲み音頭」をはじめ、リーダー岡本らの美声を生かした手堅いステージで客席を温める。
二番手はWAHAHA本舗のメンバーでもある「ポカスカジャン」。スピーディーな展開と、演歌+アフリカ、津軽弁+ボサノヴァなどワールドミュージックの素養を生かした音楽性豊かなコミックなどで、この日最もモダンなステージを魅せてくれた3人組で、それぞれの個性と才気が光っていた。
東京ボーイズ」は以前どこかの演芸場で観ているはずだが…、鉄板ネタの“なぞかけ小唄”や軽妙なかけあいで安心して観ていられる2人組。客からのリクエストに応えながらの“客いじり”もさすがの年季。
テツandトモ」の熱演には、花井氏の「『なんでだろ~』でブレイクした後、落ちて、また伸びてきた」との評がピッタリ。ひと言で言えば、「芸の幅を拡げた」とういことか。ジャージをトレードマークにステージ狭しと動き回るテツの動きは健在だが、それに加えて風船パフォーマンスや練ったコントなど、観客を飽きさせない。その裏にある「努力」がかいま 見える充実のステージ。
そして、オーラスにあきれたぼういず・川田晴久に師事し、御年81歳になる灘康治率いる「モダンカンカン」。これはもう灘師匠がストラストキャスターモデル(トレモロアームまで付いている!)のエレキ・ギターを抱え、エフェクターを通してファズ・ギターを弾く姿だけでも、芸になっている。お年のメンバーが曲名やセリフを忘れてしまうのもご愛敬。そこに4人のメンバーがモダンな出で立ちで佇み、どこまで本気かどこまでシナリオがあるのかわらない、ゆる~いボケ&ツッコミをかましてくれるだけで、お金が取れる芸がそこにある。そのなかで、若きメンバー・川田恋の女性声は絶品。

…というかこれは全出演者に言えることだが、改めてみな歌は上手いし演奏もしっかりしている。それは長い芸歴だけでなく、人知れない練習の賜物であることは間違いない。
ポーイズが衰退した理由はさまざま考えられるが、若い感覚を取り入れた「ポカスカジャン」や、高い音楽性に裏付けられた「テツandトモ」の芸(トモの歌も絶品)など、けっして時代遅れではない、“ポーイズの未来”をワタシを感じた。
ようやく時代が「落語」に追いついたように、「ポーイズ」が再発見される日も近いないかもしれない…そんなことも感じさせられたこの日のイベントだった。

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【落語】上方ケモノノケ落語会2010/08/29

上方ケモノノケ落語会
数日前に足を運んだ「道楽亭 Ryu's Bar」での上方落語会(8月28日)
演者全員が獣かモノノケが登場する噺を演るそうで、遅れて入った店内ではすでに笑福亭笑子サンが、家族と移住したシンガポールを舞台にした新作「シンガポール・ドリーム(?)」を演っていた。噺のテンポはいいのだが、間が悪いのかなかなか笑いがとれない…得意の腹話術をもっと活かしたらいいのに…というのは勝手なお世話か。( ^ ^ ;
続く桂あやめ師匠は、花枝と名乗っていった前座時代にインタビューさせていただいたことがあった。以来、20数年!念願叶ってようやく高座を聴かせていただく。元気いっぱいの師匠だが、数日前に遊雀師匠の演じ分けの妙を堪能した後なので分が悪い。「船弁慶」を演ったが、女房の「お松」がご本人のそれに近いのか(失礼!)、鬼気せまる迫力(顔も怖いし( ^ ^ ; )。
収穫だったのが笑福亭鶴笑師匠。大きなガラガラ声で、客をいじりながらのマクラで沸かせると、いきなりの“パペット落語”で客(ワタシもです)の度肝を抜く。両手、両足、お面や手品、釣り竿まで駆使してのパフォーマンスに、客席は大喜び。文字どおりのイリュージョン落語。上方にも白鳥師匠みたいなキテレツな噺家がいたんだ~!と一気にファンになりました。
トリは林屋染雀師匠の怪談噺。ほかの演者も協力して、火の玉、生首飛び出す上方流の楽しい(?)高座。ちなみにこの日のお囃子、鳴り物もすべて「生」。上方落語の世界を堪能した一夜デスた。(^_-)

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