【映画】海炭市叙景2011/05/11

『海炭市叙景』
『海炭市叙景』(2010年・監督:熊切和嘉)

これは評するのが難しい作品だ。

函館出身の作家・佐藤泰志の同名短編小説(未読)を基にしているというが、本作に登場するのは主に5つの家族だ。

造船所の合理化で不安を抱える若い労働者(竹原ピストル)と妹との小さな生活(谷村美月)。
宅地開発のための立ち退きを迫られる老婆(一人暮らしだが、愛猫が“家族”として描かれる)。
小さなプラネタリウムの撮影技師・夫(小林薫)を尻目に、嬉々として夜の勤めに出る妻(南果歩)。夫婦間は冷えきり、息子もすっかり心を閉ざしている…。
父親から燃料店を継いだ若い社長(加瀬亮)は、浄水器ビジネスに手を出したものの空回りで、病んだ妻(東野智美)と母親に虐待される息子(小山燿)との間で、暴力でしかうっぷんを晴らせない。
故郷を捨てて東京に出た浄水器売り(三浦誠己)が、夜の「海炭市」を彷徨する。その息子を市電運転車の父(西堀滋樹)は黙って見守るしかない…。

最初の二組はまるでドキュメンタリーのように描かれる。
函館のドックで撮影された進水式のシーンはじつに迫力があり、労組組合の団交シーンも、エキストラによる切実感からか、かえって“本物”っぽく見える。
とりわけ老婆を演じた(?)中里あき氏は、まさに監督がたまたま見かけて声をかけた素人役者だというが圧倒的な存在感を放ち、長年住んできた家と土地への思いが素のままに描き出される。

そして、3組目の小林・南コンビによって、ようやくこの映画が「物語」であることに気づく。
4組目の過剰な暴力は、まさに映画的な演出臭をプンプンと放ち、ヒリヒリという以上の“痛み”が伝わってくる。

5組目の浄水器売りの青年の、故郷に対するアンビバレントな感傷…それこそが本作のテーマであると思うのだが、ここでは『焼肉ドラゴン』の名セリフ「この町が嫌いでした…でも本当は好きでした」のような明確な表明はない。

“故郷”とは、そのあやふで曖昧な、自身でも答えにならない複雑な思い抱かせたまま、ワタシたちを終生とらえて離そうとしないものなだ。3.11以降、ますますその思いを強くした人は多いのではないだろうか…。

そのゆっくりとしたテンポも、この作品には必要だったのだろうが、なんといっても2時半という長尺は冗長だ。なのに、本作を観終えて何日も経つというのは、本作に描かれたさまざまなシーンが、ワタシの中で何度となく反芻される。

だから、評するのが難しいと言っているのだ…。
「海炭市」という架空の“故郷”を舞台にした、残酷で、美しい物語。ワタシたちの消し去りたい記憶を呼び起こす叙情詩のような一遍。
傑人ジム・オルークの美しい音楽が、静かに寄り添う。

『海炭市叙景』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「地方都市に暮らす人々の生活と空気感をリアルに捕らた演出」--お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法
「ただそこに住み続ける彼らを優しく肯定」--映画のブログ
「それでも人は生きていく」--LOVE Cinemas 調布
「手放しで称賛できる傑作」--シネマプレビュー(MSN産経ニュース)
「南果歩が圧巻。加瀬亮も素晴らしいが…」--北小路ゲバ子の恋
「不思議なほど穏やかな余韻が残る佳作」--映画通信シネマッシモ(渡まち子氏)

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