【本】傷だらけの店長 それでもやらねばならない2010/12/09

傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜
伊達雅彦

パルコ 2010-07-31
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これはもう、対面で凄まじい独白を聞いてしまったかのような読後感。いや、凄まじい“自伝”か。あるいは、現場からの“告発”か…。

「ただ、本が好き」で書店でアルバイトを始め、やがて書店員から「店長」となった著者が、閉店に追い込まれるまでの悪戦苦闘の日々が克明に描き出される。ありそうでなかった、“街のリアル書店”から放たれた異色の“出版文化論”といえよう。

冒頭から、「どうしてわたしは書店員であり続けるのだろうか」と、自問する著書の深い深いため息と共に、書店労働者の凄まじい労働実態が明らかにされる。
巷間伝えられるように、雑誌・書籍の出版点数は増え続け、一方で売上は落ちるばかり。今、書店の置かれた状態は、「ただ入ってきた客を待ち、客を待っていりゃいい」という過去のイメージから、はるか遠くにある。なにしろこの十年で、全国で5000軒の書店がつぶれているのだ。

連日山のように届く商品(本)の棚入れ、数分ごと対応を迫られる客からの問い合わせ、営業マンへの対応、追加注文、伝票処理、そして疲弊する万引き犯との逃走劇…。
どんなに“ボランティア労働”に追われても、人員補充は夢のまた夢で、安い時給ではアルバイトも寄りつかない。むしろ本部からノルマをクリアするために自費で本を買うありさま。
それらの出来事を、自らの思いも込めて丁寧に描写する筆者の筆力も見逃せないのだが、そんな「先の見えない」の“街の書店”に、追い打ちをかけるように大型店が近くに進出し…。

出版業界の末席をケガすワタシだが、本と読者を最終的につなぐ、その端末のデバイスたるリアル書店がこんなにも疲弊していたことに改めて驚き、自分の無知を恥じた。同時に、いまも人知れず奮闘するあまたの書店員たちに、頭の下がる思いがした。

じつは、ワタシが住む街でも今春、商店街のメインストリートにあった、街で一番大きな書店が閉店になった。突然のことでワタシも驚いたし、多くの街の住人も驚いたのではないだろうか。なにせ60年にわたってこの地で愛され続けた書店なのだ。
いつ訪れても店内に客が途絶えることなく、そこそこに賑わっていただけに、閉店は意外だった。リアル書店の苦境ぶり改めて目の当たりにした思いがした。知り合いの書店員もいて、ときどき言葉を交わしていただけにじつに残念だった。…

しかし、そう言うワタシも、ご多分に洩れずここ数年リアル書店の利用がめっきり減った。「リアル書店」という言い方も当たり前に使われるようになった。本書の購入も、じつはアマゾンだ。
件の閉店した書店で購入する書籍も、ほとんどが雑誌か新書。おそらく、そうしたワタシのような客がこの書店を閉店に追い込んだのだろう…。
そして、本書の舞台となった「書店」もまた。

本書から何らかの解決策を導き出すことは難しいだろう。
出版界が抱える問題は、巨大で構造的、かつ複雑だ。電子書籍の登場で、リアル書店の衰退はますます抗しがたいものになっていくだろう。
しかし、活版印刷の登場からその後の変革を壮大に描いた『グーテンベルグの銀河系』がそうであったように、その電子書籍版が書かれたときに、おそらく本書から必ず「その時」の様子が引かれるに違いない。

そうした歴史の記録性という意味からも、本書の果たす役割は大きいと思う。

◆『傷だらけの店長 それでもやらねばならない』の参考レビュー一覧
知ったかぶり週報
横丁カフェ(大井達夫氏)
レーベル運営の悲喜交々
asahi.com(四ノ原恒憲)
少佐の記憶-Memoirs of a major-
佃島ひとり書房

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