【本】ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々2010/12/07

ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々
浜田淳

カンゼン 2010-06-26
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本書は、副題にある通り、ミュージシャン、エンジニア、DJ、レコード店経営、音楽教師、音楽ライター、アーティスト・マネージメント、イベンター、レーベル経営、レコード会社社員、楽器リペア(修理)、PA、舞台監督など、20数種にわたるさまざまな「音楽を仕事にする人々」のインタビューをまとめたもの。巻末には、著者自身も編集の傍ら、「RAWLIFE」なるイベントを主宰した経験を持つイベンターとして登場する。

本書を読み始めて、真っ先に頭に浮かんだのは、インタビューの名手として知られるスタッズ・ターケルの諸作だ。なぜなら、じつはワタシもかつてターケルの手法で何冊ものインタビュー集 を上梓しているので、ああ、こんな若い世代にもワタシと同じ“ターケルズ・チルドレン”がいたのかと、つい思い及んだ次第。

もっとも72年生れの著者が、ターケルを意識をしていたかどうか定かではないが、ターケルが市井の人びとから魔術のように引き出す言葉たちから、見事に“物語”を紡ぎだす手法は、本書でもイキイキと再現されている。

なにしろそのインタビューイーたちの語り(体験)が面白い。
いわゆるスタジオ・ミュージシャンと呼ばれる人たちにも「ジャズ屋かそれ以外」の二種類のタイプがいて、ジャズ屋は「芝居でいったら新劇出身者みたいなもので(略)、基本が完全にできている」だの、「『なんだこのメンバーは?』っていうバンドでツアーに行かされ(略)、そういうのが苦手な人はノイローゼになります」という“人間関係”に悩み、「友だちで売れた人はいませんから。死屍累々です(笑)」という音楽業界の厳しい現実が、まず開陳される。

さらには「マスタリングなんて要らないと思いますよ」というエンジニアの発言や、地方のオーガナイザーとのつながりを大切にし「土曜日はすべて地方にあてています」というDJ、レーベルを立ち上げ、節約のために「デザインは全部自分でやっちゃいますよ」と外貼りシールのデザインまで手がけるミュージシャン、事務所を持たず「打合せなら公園で会ってもいい」というマネージャーまで、知らないこと、目からウロコな話がドサドサ出てくる。

ビジュアル系バンドのマネージャーが、メンバーと直接話ができる打ち上げに高い会費をとってファンを誘い、「ライブの打ち上げはいちばんの稼ぎ頭です」など、抱腹絶倒(失礼)もののエピソードも飛び出す。

「サービス業なんですよ、これは(笑)」と、自身の仕事を自嘲気味に話す私立高校の音楽教師による音楽教育の現場レポートも瞠目で、シラケ気味の生徒たちが授業でトランスや義太夫(!)に触れるなかで、次第に目を輝かせていく様子は、感動的ですらある。

著者も冒頭で記しているように、本書は、よくある職業(業界)案内本でもなければ実用的なカタログでもない。
「もっとも実用的なものというのは個々のリアリティのなかにしか存在しないのではないか」という姿勢でインタビューに臨んだ著者が、「いたって平熱な、『素』の言葉たち」を紡ぎ、「実用書より実用的なであることを目指し」「『仕事とはなにか』を考えるきっかけになればいい」として始めたそれは、見事に“グッジョブ”として結実していると思う。

ターケル的な視点でつけ加えて言えば、本書を通して立ち上がってくるのは、日本の音楽業界・文化を下支えする愛しき“音楽バカ”たちの実像だ。そして極東の地で、欧米から流入したポピュラー音楽が栄えたある時代の貴重な記録だ。
ヒトの芸術・文化は“バカ”によってつくられてきたことを改めて証左し、この愛しき“バカ”たちと著者に、敬愛の念を以て本書をお薦めしたい。

◆『ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々』の参考レビュー一覧
ele-king(三田格氏)
Riddim | RING RING RING(荏開津広氏)
星ぶどうぱん
はぐレ企画

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