【映画】アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち ― 2010/12/15

『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』(2008年・監督:ミゲル・コアン)
ハイライトは、やはりラスト30分のコンサート・シーンだろう。
老マエストロたちの超絶、名演、名唱と呼べる白熱の演奏・歌が、めくるめく繰り広げられるステージ。アルゼンチンタンゴの黄金時代を築いたスターたちによる“夢の競演”。
これぞ本作の真骨頂といえる。
しかしながら、そこに至るまでの本作にはいくつかの不満がある。
タンゴと言えば、ワタシもいくつかの盤は耳にしてきたかと思うが、たぶんに住宅事情もあり、わが家のCD棚に残ったのは、わずかに洒脱溢れる歴史的名歌手・カルロス・ガルデルと、タンゴの革新者アストル・ピアソラのそれのみ。
本作であまた登場する“名匠”たちにしても、ワタシが識るのはファン・ダリエンソ、オスバルド・プグリエーセくらい。したがって、彼、彼女らがいかにタンゴ界に功績を残し、どのような位置にいたのか、スクリーン上の情報のみではワタシには見当もつかない。
第一の不満は、そうした登場人物たちの説明不足にある。
アルゼンチン国民、もしくはタンゴ・ファンならば垂涎の名匠オールスターズなのかもしれないが、そのあたりの紹介がされないのは“映画”としてあまりに不親切ではあるまいか。
さらに、本作はコンサート・フィルムではなく、音楽ドキュメンタリーのはずだ。
かつてのスターたちがタンゴ黄金時代を郷愁するだけでなく、それがどのように生まれ、どのように社会や文化に影響を与えるなどしたか、歴史的・社会的な考察を交えた、もう少し突っ込んだ“つくり”が出来なかったものか。
たとえば、コンサートの幕開けで「西欧音楽の影響を受けなかった魂の音楽」という紹介MCが入るが、ピアノの奏法やベルカント唱法など明らかにクラシックの影響を受けているし、ワタシの耳にはジャズやブラジル音楽、ユパンキなどのフォルクローレ音楽、さらにはフラメンコなどからの影響も感じられた。
事実、ウルグアイ出身の女性歌手ラグリマ・リオスは本作の中で、カンドンベ(ウルグアイのアフリカ系音楽)との近似性についても語っている。
ジャズと並んで、1920~40年代に世界的に支持された“世界音楽”としてタンゴのグローバリズムを、もう少し探ってほしかった。そして、それがやがて衰退した意味も…。
本作は、キューバ音楽の“伝説”たちを蘇らせてみせた『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のタンゴ版とも評されているようだが、『ブエナ~』がライ・クーダーという最良のナビゲーターを得て、彼によって“発見”された老人たちが、ステージに上がるやいなやスーザン・ボイルばりに驚愕の名演・名唱を魅せる点がじつにドラマティックだった。
本作は、マエストロたちが結集したレコーディングを契機にしたプロジェクトのためか、酒場での独唱やレコーディング風景がいくつも挿入され、そうしたドラマ性もやや希薄だ。
だが、そうした不満をもってしても、奏でられる音楽はどれも素晴らしい。それだけに、コンサートシーンでの演奏途中カットが多い点も気になった。
◆『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』の参照レビュー一覧
映画瓦版
映画通信シネマッシモ
LOVE Cinemas 調布
...旅とリズム...旅の日記 by 栗本斉
シュミットさんにならない法 映画編
Cafe Opal
Tower Record Online(佐藤由美氏)
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ハイライトは、やはりラスト30分のコンサート・シーンだろう。
老マエストロたちの超絶、名演、名唱と呼べる白熱の演奏・歌が、めくるめく繰り広げられるステージ。アルゼンチンタンゴの黄金時代を築いたスターたちによる“夢の競演”。
これぞ本作の真骨頂といえる。
しかしながら、そこに至るまでの本作にはいくつかの不満がある。
タンゴと言えば、ワタシもいくつかの盤は耳にしてきたかと思うが、たぶんに住宅事情もあり、わが家のCD棚に残ったのは、わずかに洒脱溢れる歴史的名歌手・カルロス・ガルデルと、タンゴの革新者アストル・ピアソラのそれのみ。
本作であまた登場する“名匠”たちにしても、ワタシが識るのはファン・ダリエンソ、オスバルド・プグリエーセくらい。したがって、彼、彼女らがいかにタンゴ界に功績を残し、どのような位置にいたのか、スクリーン上の情報のみではワタシには見当もつかない。
第一の不満は、そうした登場人物たちの説明不足にある。
アルゼンチン国民、もしくはタンゴ・ファンならば垂涎の名匠オールスターズなのかもしれないが、そのあたりの紹介がされないのは“映画”としてあまりに不親切ではあるまいか。
さらに、本作はコンサート・フィルムではなく、音楽ドキュメンタリーのはずだ。
かつてのスターたちがタンゴ黄金時代を郷愁するだけでなく、それがどのように生まれ、どのように社会や文化に影響を与えるなどしたか、歴史的・社会的な考察を交えた、もう少し突っ込んだ“つくり”が出来なかったものか。
たとえば、コンサートの幕開けで「西欧音楽の影響を受けなかった魂の音楽」という紹介MCが入るが、ピアノの奏法やベルカント唱法など明らかにクラシックの影響を受けているし、ワタシの耳にはジャズやブラジル音楽、ユパンキなどのフォルクローレ音楽、さらにはフラメンコなどからの影響も感じられた。
事実、ウルグアイ出身の女性歌手ラグリマ・リオスは本作の中で、カンドンベ(ウルグアイのアフリカ系音楽)との近似性についても語っている。
ジャズと並んで、1920~40年代に世界的に支持された“世界音楽”としてタンゴのグローバリズムを、もう少し探ってほしかった。そして、それがやがて衰退した意味も…。
本作は、キューバ音楽の“伝説”たちを蘇らせてみせた『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のタンゴ版とも評されているようだが、『ブエナ~』がライ・クーダーという最良のナビゲーターを得て、彼によって“発見”された老人たちが、ステージに上がるやいなやスーザン・ボイルばりに驚愕の名演・名唱を魅せる点がじつにドラマティックだった。
本作は、マエストロたちが結集したレコーディングを契機にしたプロジェクトのためか、酒場での独唱やレコーディング風景がいくつも挿入され、そうしたドラマ性もやや希薄だ。
だが、そうした不満をもってしても、奏でられる音楽はどれも素晴らしい。それだけに、コンサートシーンでの演奏途中カットが多い点も気になった。
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