【コミック】黄色い本2010/10/15

黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))
高野 文子

講談社 2002-02-20
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『絶対安全剃刀』 以来、久かたぶりに手にした高野文子だが、2003年刊の本書が最新刊というのもスゴい(いや、寡作という意味で)。

で、内容だが、副題に「ジャック・チボーというの名の友人」とあるように、地方に暮らす女子高校生が、学校の図書館で借りた『チボー家の人々』をゆっくりと読み進めていく様を淡々と描いた作品。これといった「事件」も起こらず、まさに淡々…なのだが冒頭から彼女が読んでいるページの活字をコマいっぱいに描き、彼女と共に「チボー家」の世界へ旅を始めるワタシたち…。
やがて、彼女の日常に「チボー家」の人びとがたち現れ、彼女とも会話をかわし始める。それはまた読者たるワタシたちとの会話であり、劇中劇ならぬ“漫画中劇”が展開する。

その会話のテーマは「革命」だが、さりとて彼等との論議が彼女(主人公)の実生活を大きく変えるわけでもなく、作中で「チボー家」の世界と彼女の生きる世界はゆっくりと行き来するのみ。その彼女の、たゆたうような心象世界が指でなでるかのように描かれ、ワタシたちは彼女とともに「本を読む」という恍惚を共有する。
そして、『チボー家』読了とともに、この物語の頁も唐突に閉じられ、彼女は何事もなかったように自分の世界に還ってゆく。

いや、「何事もなかった」わけでなはい。その(読書)時間、彼女は「チボー家」の人びとと共にあり、また同時に彼女の日常があった。チボー家のジャックが呼びかける。「いつでも来てくれたまえ、メーゾン・ラフィットへ」と。それは豊かな本の世界(読書時間)への誘いであり、「読書」という体験・行為・活動を、マンガでしかできない表現において示したのが、本作なのだ。

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