【コミック】さよならもいわずに ― 2010/10/07
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愛する者との死別という悲しみと喪失感、そして二度と還らない愛おしき日々を、どのようにマンガで表現できるか…。氏が砕身粉骨、渾身の力を込めて描くいたその世界に、ワタシたちは心張り裂ける思いを共感するとともに、マンガという表現の底知れぬ力を感じるはずだ。
日本のあまたマンガ作家たちが、長い歴史のなかで切磋琢磨し、世界に類のない独自の表現として獲得してきた“マンガ表現”の数々の技を、これでもか!というまで本作に注ぎ込んだ氏の執念と技量…。ギャグ漫画家であるという氏が、むしろギャグ表現は最小に抑え、ネーム、コマ割り、構図、擬音…ありとあらゆるマンガ表現をこの物語に注ぎ込む。
そこにはまるで、マンガの教科書ともいうべき渺々たるマンガ表現の宇宙が拡がっている。愛する妻へのそれとともに、これはマンガそのものへのオマージュ(愛)ではあるまいか…。
見開きページに拡がる無人の大通り。その廃墟のような画面の端に、今にも倒れそうに身を傾ける氏(主人公)。その中空を切り裂くように「タン!」と響く音。「ああ、誰かが…俺を狙撃してくれないもんだろうか」…。やるせない登場人物の気持ちを、このように見事にワンシーンで表現できるメディアが他にあるだろうか?
そして、この物語が悲しみのまま終わるのではなく、スタッフロールのごとく本書をつくりあげた関係者が紹介されたあと、「再生」の物語として本作は「はじまりのおわり」を告げる…。絶望から希望へ。それもまた「人間」の深淵なる生の営みなのだとして…。
涙を模した装丁など、作者のみならず制作陣のなみなみならぬ「思い」も感じる。日本のマンガ文化が到達した、私小説ならぬ“私マンガ”の金字塔であると思う。
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