【本】民謡酒場という青春 高度経済成長を支えた唄たち2011/03/04

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山村 基毅

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なるほど、“沖縄民謡酒場”であれば知ってもいるし、そうした店に行ったこともあるが、東京・吉原にあまたの「民謡酒場」があったことは、本書を読むまでまったく知らなかった。本書は、そうした高度成長期に興隆を誇った「民謡酒場」の盛衰を丹念に聞き書きした労作ルポルータージュである。

津軽三味線奏者から耳にした「昭和三十年代、東京の吉原(現在の知名は台東区千束)を中心として、雨後のタケノコのごとく民謡酒場が生れていった」という話に興味を持った筆者が、少しずつその実像に迫っていく。

なにしろ、現存する「民謡酒場」はごくわずか。それもかつての栄華はとどめるべくもない。吉原の街並みもすっかり変わり、かつて栄えた店の所在場所を確認するにしても、当時の人たちの記憶をたどりながら、パズルのピースを一つずつはめるように古地図を甦らせる作業である。その記憶も、記録しなければ時とともにどんどん忘却の彼方へと消し去られる…。

そうした意味でも、この民謡酒場探訪の旅は、筆者のヤマさんがこだわる“記録としてのドキュメンタリー”としての価値も高い。

NHK「のど自慢」による民謡が全国的にブームになるなか、吉原では売春防止法の施行で遊廓から民謡酒場への転業が続出。街のあちこちから歌声が聴こえるようになる。
それを支えたのが、高度経済成長だった。経済成長による折からの建設ブームによって全国から出稼ぎ者が集まり、集団就職による“金の卵”たちが故郷への郷愁を抱いたまま東京という街で暮らし始める。
その望郷の念を癒したのが“民謡”だったのだ。

『森の仕事と木遣り唄』 でも発揮された筆者の人びとの暮らしぶりや想いを丹念にすくい上げる手際は、本書でも十分に生かされ、“民謡”に憑かれた人びととその時代をまるでモノクロのスクリーンに写し出すように、再現する。
後半の「昔から民謡酒場に出入りしている人」たちのざっくばらんな座談会も、その場が甦ったかのように楽しい。そう、これは日本のある世代が体験した“青春物語”でもあるのだ。

しかしながら魅力的な題材であるだけに、ここにもし小沢昭一さんがいたらどんなふうに話は“脱線”しただろうかと夢想し、先頃急逝した朝倉喬司さんなら吉原の街並みをどんなふうに幻視(妄視)してくれただろかなどとも思ってしまう…。

そんな“ないものねだり”はさておき、こんな地味な取材をコツコツと続け、それを自身のサイト「電脳くろにか」でこれまたコツコツと書き続けた筆者の努力と思いが、こうした形で結実したのは誠に喜ばしい。

『民謡酒場という青春』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「民謡酒場の実態を活写する」--大友浩の本棚 芸を読む・人を読む
「『祭礼の宴』気分を味わう場、装置としての民謡酒場」--東京右半分 都築響一
「かつての民謡名手や観客と繋がる私たち」--本屋さんへ行こう!(山本亮氏)

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