【TV】鶴瓶の家族に乾杯 石巻・再会の旅 ― 2011/06/02

番組の趣旨を換言すれば、昨年(2010年)2月に番組収録で訪れた宮城県石巻を鶴瓶師匠が、さだまさし氏を伴って再訪するというもの。
そう、あの大震災で壊滅的な被害を受けた石巻を、だ。
だからこそこの番組は価値がある。
前編では、鶴瓶師匠が当地で出会った人たちの消息を訪ね歩くという、まさに「再会の旅」。日和山公園で出会ったサーファーの、津波のがれきな中を泳ぎきり九死に一生を得た体験をはじめ、師匠が再会する一人ひとりに凄まじい受難のドラマがあったことを思い知らされる。その一人ひとりと抱き合い、無事と再会を喜びあう鶴瓶師匠…。
そして、その“生きのびた”人びとの証言の一つひとつがまさに歴史的な価値を持ち、またかつてののどかで美しい風景と比較される、現在も続く被災地の惨状も、歴史の記憶として深くとどまる。
漁の盛んな石巻市渡波地区も壊滅的な被害を受けた。
“婚活中”とばかりに「夜のクラブ活動」に勤しんでいた、山田さんとも再会。だが、あのひょうきんだった山田さんもさすがに元気がない。それも無理はないだろう。北上川沿いに建てられていた自宅の根元がごっそりと削られ、津波に揉まれた1階は見るも無残な姿なのだ…。
ちなみにワタシの同級生の多くも、避難所から自宅に戻ったものの未だに2階暮らしを強いられているという…。つまりガス、水道、風呂がろくに使えないということだ。「復興」は、まだこれからなのだ。
後編では、津波を受けて閉館となった中石巻市民会館でかつてコンサートを開いたことがあるというさだ氏と共に、避難所になっている寺で落語&ミニコンサートを開く師匠たちを捉える。
鶴瓶師匠はかつてこの寺を訪れた際に、寺の住職に「落語会を開く」と約束した。師匠はこうして、今回の再訪で石巻と人びとと交わした約束を次々と果たしていく。つまり、“約束の旅”というじつにパーソナルな旅であり、ドキュメンタリーなのだ。
マスであるはずのテレビが、ここでは“個”に徹底する。個と個の関係性が、マスを超えてワタシたちの胸を打つ。そこにワタシはテレビの可能性を感じるのだ。
阪神大震災で“発見”されたラジオの役割は、此度の大震災でもその能力を大いに発揮したが、テレビでもラジオと同じように、あるいはラジオと違ったかたちでの役割が果たせることを示したのが本番組だったと思う。
それにしても鶴瓶師匠の“人たらしぶり”は流石で、出会う人、出会う人、どんな市井の人でも彼の話術と所作に操られるように見事に一人ひとりの“物語”が立ち上がってくる。
その“引き出し”の技(わざ)は、かの宮本常一に比してもおかしくないほどで、『ニッポン国・古屋敷村』で結実した小川プロによる映画的フィールドワークにも通じるものだ。
通奏するのは、一期一会の奇跡と、人と人をつなぐ絆。皮肉なことではあるが、震災という酷苦が、石巻を舞台にした一つのドラマを生んだ。(6月5日(日)16:45~17:30に後編が再放送予定)
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