【映画】若者たち2011/05/30

『若者たち』
『若者たち』(1967年・監督:森川時久)

記憶に残っているのは同名のテレビシリーズ(1966年)だが、子どもながらに毎週のように観ていたのだから、たしかによく出来たドラマだったのだろう。その人気にあやかってつくられたのが、この映画版だそう。

監督もテレビシリーズを担当した森川時久氏で、キャストも長男役の田中邦衛をはじめ、橋本功(次男)、佐藤オリエ(長女)、山本圭(三男)、松山省二(現・松山政路)(四男)と、ドラマ版をそのまま踏襲。

それだけに既視感も十分というか、そもそも5人兄弟の立ちまくったキャラがその成功の一因だっただけに、本作でもすんなりとその物語世界に入っていけた。

両親を失くした兄弟たちが、高度成長の中で激変する日本社会の歪みに翻弄されながら、ときに反発し、ときに手を取り合いながら生きていくという本道の家族ドラマだ。

兄弟による疑似親子という象徴的な設定によって、それまで日本の家族を支えてきた家父長制の崩壊というテーマを提示する一方で、ここで語られる下請け労働者や清貧家庭の実態などは、現代の派遣切りや生活保護世帯の急増に見事に重なる。

長女・オリエの恋人(石立鉄男)が、原爆被曝による“風評被害者”であることも、今の原発風評被害の状況に恐ろしく似ている。

そうした意味でも、普遍的なドラマとして本作が愛され続ける理由がわかる。

森川監督は、本作が映画デビュー作となるが、気心の知れたスタッフを指揮するせいか、はたまた役者たちのチームワークに任せてなのか、ドラマの雰囲気そのままに、手堅くこの家族劇をまとめる。

否、「手堅く」というのは当たっていないかもしれない。
なにしろ兄弟喧嘩のシーンはすさまじく、ある意味でこの作品で白眉といえる。とにかく、テレビサイズに収まっていないのがいい。後の「寺内貫太郎一家」の“名物”となる親子バトルに影響を与えたともおぼしきそのシーンは、くんずほぐれつ、物が飛び、戸や障子は破れ、家が壊れるのではないかというド迫力で展開する。

その本気度が観客の度肝を抜き、そこに何とも言い難い兄弟たちの強い信頼感と絆に、ほんのりとやられてしまう…。

サニーデイ・サービスもアルバム・タイトルに借用した「若者たち」は、やはり永遠の青春ソング。本作中、何度もリフレインされるこの名曲が、本作に通奏する“痛み”を見事に演出する。

『若者たち』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「兄妹がひたむきに生きていく姿は、今見ても感動」--BSコラム(渡辺俊雄氏)
「若手俳優を総動員し、エネルギッシュに描いた一作」--夕焼け番長
「ホームドラマとしては定石的な展開ながらも、プロパガンダ的にならず」--プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

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