【演劇】イキウメ『散歩する侵略者』2011/05/28

イキウメ『散歩する侵略者』
前川知大率いる劇団「イキウメ」による『散歩する侵略者』を観劇(5月28日・三軒茶屋シアタートラム)。これは心に染みる芝居だ…。

不可解な「散歩者」(窪田道聡)の登場から物語は始まり、散歩者に接した家族(岸本幸子)や町の人びと(森下創、盛隆二)が次々に変調をきたしていく。やがて「散歩者」には、同類の仲間(大窪人衛、加茂杏子)がいることがわかり、自分たちは「宇宙人」だと名乗る。彼らの「仕事」は人が持つ「概念」の調査で、彼らと対面した人間たちは次々と「概念」を奪われていく…。

前川氏お得意のレイヤー構造は相変わらず見事で、舞台転換をまったく行わずにそこが、路上であったり、二組の夫婦の部屋であったり、病院内であったりと、さまざまに表情を変える。しかもその場でいくつかの物語が同時に、あるいは交錯しないがら進行していくという手法。

燐国との軍事緊張が高まるなかで、物語は次第に宇宙人(?)による「侵略」というSFチックな様相を帯びていくのだが、前川氏は最後に、それらをすべて吹っ飛ばす仕掛けを施した。

「宇宙人」の夫が妻(伊勢佳世)の一番大切なものを奪い、自身がそれを知ってしまったことで、本作を、せつない“愛”の物語にしてしまったのだ。
これには、やられた。

人間とは「概念」で生きる動物だという存在論的なテーマを突きつけ、平田オリザ氏が主導するロボット演劇に対する一つ回答を提示してみせたかのように思わせて、じつは、つかこうへい的な純愛人間ドラマへと物語を昇華させる…。

その手腕に見事にのせられてしまったのは、ワタシだけではないと思う。終演後の客席の拍手の大きさがそれを物語っている。

もちろんここで語られる「戦争」や「侵略者」、あるいは「概念」などは、さまざまな暗喩として捉えることもできる。とりわけ3.11を経て、未だに収束しない原発事故による放射能に晒されるワタシたちにとって、その妄想は果てしなく続く。

それにしてこの劇団の役者たちは、それぞれに味があり、芝居巧者が揃っている。荒唐無稽になりがちな物語世界に入っていけるのも、そうした力のある役者たちと作家・演出家とが、がっちりとタッグを組んでいるからなのだと思う。

イキウメ『散歩する侵略者』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「スリリングな展開、巧みな状況設定、役者の語りで想像力を刺激」--YOMIURI ONLINE(祐成秀樹氏)
「現代演劇の最高峰の一つ」-- PLAYNOTE
「作り手は何を伝えたいかをより明確にすることが必要」--因幡屋ぶろぐ
「ひとつの小さな奇跡をかみした」--しのぶの演劇レビュー
「特異な独特の世界観にただただ感服」--Forgetting-BarⅡ

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