【映画】インソムニア2011/05/26

『インソムニア』
『インソムニア』(2002年・監督:クリストファー・ノーラン)

未だ未見の『インセプション』(2010年)を観るために、予習として観始めたノーラン監督の諸作だが、『メメント』(2000年)に続いて撮られた本作にもやはりただならぬ才気が感じられ、唸らされる。

アラスカの田舎町で少女殺人事件が起こり、L.Aから凄腕の警部ドーマー(アル・パチーノ)と相棒のハップ(マーティン・ドノバン)がやって来る。
ドーマーの“コロンボ”ばりの推理によって、次第に犯人を追い詰めていくが、霧の中の銃撃戦でドーマーは同僚を撃ってしまう。

内偵対象となっていたドーマーは窮地に立たされ、事実を隠そうとするが、その時、犯人(ロビン・ウィリアムズ)から電話がある…。

白夜のアラスカでの不眠症(インソムニア)。次第に精神的に追い詰められていくドーマー。キューブリックの『シャイニング』を彷彿させるかのように、アラスカの雄大な自然の中で、次第に変調をきたしていく様をパチーノが迫真の演技で応える。

『フェイク』(1997年)ではジョニー・デップと演技対決を魅せたパチーノだが、ここではウィリアムスとのそれに臨む。犯人のウィリアムスはまるで、もう一人のドーマー、彼自身の“良心”として存在するかのようで、船上での“対決”もポールを挟んでの二人の表情によって、心の葛藤がクッキリと表出される。

そう、『メメント』でも『ダークナイト』(2008年)でも示された善とは何か? 悪とは何か? というテーマが、ここでもノーラン監督の深遠なる自身への問いとして提示される。
ノーラン流の「仮面ペルソナ」であり、「セツアンの善人」といえるのだが、そこには映画的な美学へのこだわりを魅せる。

ノーラン監督の映像感覚はとにかく秀逸で、とかく物語に寄りかかりがちなテーマを、映像で語らせるという、物語+映像という双方の表現力に長ける。

冒頭の血液らしき赤い液体が染みだすシークエンスからして、スクリーンに尋常ならざる緊迫を生み、観客を耽美へと誘う。
なおかつ、アートに走らずギリギリのところでエンターテイメント作品に仕上げることが出来るという点が、凡百のハリウッド・ディレクターと一線を画するところ。

本作は『メメント』のように凝った構成ではないが、それでも最後までテンションを保ちながら、善悪の彼岸として成就させる。

『ER』のアビー役で知られるモーラ・ティアニーが、渋い脇役として花を添えているのもワタシ的には嬉しかった。

『インソムニア』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「一人の人間の内面の葛藤を描く心理劇」--映画通信シネマッシモ(渡まち子氏)
「一人の初老の男の内面の物語」--粉川哲夫の【シネマノート】
「曖昧さの中に溶け込んでいくミステリー」--映画瓦版

↓応援クリックにご協力をお願いします。
人気ブログランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ