【本】電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ2011/01/25

電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ (ビジネスファミ通)電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ (ビジネスファミ通)
西田 宗千佳

エンターブレイン 2010-12-20
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今まで本ブログでもさんざん電子書籍/出版に関連する書籍を取り上げきたので今さらなのだが、この分野の“目利き”として積極的に取材・発言を続けている西田宗千佳氏による最新刊。

ひと言でいえば、現在の電子書籍/出版の動きを、抱える問題点も含めてわかりやすく解説・俯瞰できる体裁となっており、お薦めできる一冊といえる。

導入となる第1章「『日の丸』電子書籍端末の船出」で、乱立する「端末」から現在に至る状況を概説し、2章「『プラットフォーム』に勝負をかけろ」で電子書籍“書店”という販売の問題に触れ、続く3章「電子書籍を隔てる『壁』の正体」として、やや専門的な“変換フォーマット”の問題にも言及する。

4章「ぼくらに何が起こったか」では、自著の電子書籍刊行をめぐる顛末を開陳し、この問題の複雑さを具体的にレポートする。そして、最終5章では「電子書籍が『変えるもの』とは何か」として副題にある「未来の本 本のミライ」を見通す。

なによりワタシが本書に“好感”を抱いてしまうのは、その「未来の本」にかねてよりワタシが夢想してきた「本のミライ」に重なる部分が散見できるからだ。

例えば西田氏は、「電子書籍は突き詰めればウェブのようなものだ。ある会社のウェブから、別の会社が運営するウェブへ飛んでいけるのと同じように、『本同士』で飛んでいってもいい」として、実際に電子書籍で刊行した自著と吉本佳生氏(作家・エコノミスト)の著作を「リンク」してしまったという。

ちなみに本書にも、「おまけ」が付されている。
「紙版(2010年12月)から1年の間は、本書付属のパスワードを利用し、同じ内容をPDF化したものが入手できる」ようにしているのだ。

この「パスワード」発行という発想は、本書でも再三触れている「DRM」や「1つのIDでマルチプラットフォームの利用」という電子書籍のクラウド化に繋がるものだ。

「本が好きな人には厳しい話だが、本を日常的に買って読む人は、もはやマジョリティーではない。本のカタチでは届かない人にも、ウェブという電子書籍のカタチでなら届き、新しい読者になってくれる。それが『今』電子書籍が持っている、1つの可能性なのだ」という現状認識にも肯首するし、担当編集者の「紙の本では、どこかルーチンワークになっていた部分があったかもしれません。まったく新しい『売るための仕掛け』を考えていける、という編集者としても面白いですよ」という言葉にも、ワタシは深く同意する…。

京極夏彦氏・宮部みゆき氏といった人気作家を擁する「大沢オフィス」を主宰し、自身も電子書籍の“新刊”を書き下ろす大沢在昌氏の、「今の出版界の『分業制度』を完全に維持して、流れ作業で大量の電子書籍を作っていく、という形は無駄でしょう。(紙の)文芸書が苦戦している理由は、本を作りすぎたことが原因です。売上の低下を発刊点数の増加でカバーしようとして、本の洪水が起きて、製作の現場も書店も疲弊してしまった。電子書籍でそれをやっても、なんにもならないですよ。(略)紙と同じことを続けるだけなら、出版界が終わる『審判の日』を先延ばしにするだけですよ」という発言にこそ、電子書籍出版社は真摯に耳を傾けるべきだろう。

そしてワタシも著者と同様に、「電子書籍は黒船なんかじゃなくて、『鉄砲伝来』だ。だったら武器として使ってやればいいじゃないか」という野間省伸講談社福社長が言ったとされる発言を、「とても面白いし、正しい見方」だと思うのだ。

『電子書籍革命の真実』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「電子出版を巡る状況を鮮やかに描き出した」--読書記録, et.al
「事実に基づいた説得力に満ちた筆致」--asahi.com
「ワタシの言いたいことを代わりに言ってくれた!」--勝間和代の「桃鉄」論
「電子書籍を巡る“スピード”の理由が本書を読むとわかる」--とーめいの問わず語り
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