【本】本は、これから2011/01/09

本は、これから (岩波新書)本は、これから (岩波新書)
池澤 夏樹

岩波書店 2010-11-20
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池澤夏樹氏編集による、37人の書き手による「本のこれから」についてのオムニバス・エッセイ集。もろろん、今この時期に「これから」が語られる主な要因は、やはり電子書籍“ブーム”→紙の本がなくなるかも?…への危機感からだろう。
本書が夏樹氏自らの企画なのか判然としないが、本書が「岩波新書」として編まれていることからも、これは岩波書店からの現在の電子書籍狂騒曲への返答、否“問いかけ”と捉えることもできる。

一読して、紙の本への偏愛を語る“ご仁”が少ないことに少しホッとするが、「紙の本と電子のそれとは、厳然と区別される」と断言する出久根達郎氏に、電子書籍によって“消える”だろう「本の山をうっとうしく思う人はもともと本が好きではないご仁だろう」と言われてしまうと、なるほど“本に書かれた”事象が好きなワタシなどは、きっと“本好き”ではないだろうと改めて思い知るが、「電子書籍を発明した者は、本が好きでない者であって、そういう人が喧伝する物が本好きに歓迎されるわけではない」との指摘には、思わずプッと吹き出しそうになる。

それに比して、最もワタシの現在の感覚に近いのは「人後に落ちぬ本フェチ」という上野千鶴子氏で、「いずれ書物は伝統工芸品になるだろう」と言い切る。「(電子書籍の)端末は準備がそろい、あとはそれにどれだけソフトが投入されるかだけ、という段階に入った」という現状認識も正しいし、「検索読み」を「そんなのは本の読み方ではない、といきり立ってもむだである」と、クールに読み手側の変化をも予測する。
さらに、グーグル訴訟での「集団和解離脱への参加を要請されたが、わたしはそれに乗れない自分を感じていた」として、「自分のメッセージを無償の公共財にするか、有償のクラブ財にするか、と『究極の選択』に迫られたら、私は前者をとる」とする。
これは『街場のメディア論』 での「書物は商品ではない」とする内田樹氏の主張ともシンクロするし、ワタシも同意見だ。

「ふしぎなことに、情報とはそれにアクセスする人が増えれば増えるほど価値が高くなる」ことは、クリス・アンダーソンが『フリー』によって見事に解明しているが、それをビジネスとして展開するためには、紀田順一郎(!)氏による「海外市場への進出であることは自明で、この機会に真剣に検討し直すべき課題ではないだろうか」という提言は至極現実的だ。
ワタシなどは、新刊点数の増大が「日本出版界を先細り」させてきた大きな要因の一つだと思っているので、電子書籍化の際の一つの基準のとして、「外語語による同時刊行」という“足かせ”を履かせてもいいのではないか、という暴論をふりかざしたくなる…。

そこに、上野氏が「出版社はなくなっても、編集者というしごとは残るだろう。編集というよりも、もっと広義のプロデューサーとして。」という予見が被さるし、「もしこの時代に自分が学生だったら、出版社に入りたいと思う。だって、今なら何でもできそうだから。絶好調の業界に入っても面白くないでしょう、きっと」というスタジオジブリ代表の鈴木敏夫氏も、逆説的に響く。

ほかにも、外岡秀俊氏がジャーナリストらしい切り口で、現在の「情報革命」を俯瞰する論考など、読みごたえある文章が続くのだが、正直言ってワタシは、途中から本書に飽きてしまった。その旧泰然とした、“本のつくり”に。

書き手から、編集者、装幀家、読者家、書店員、図書館員…といった本に関係するさまざまな人びとに、一文を寄せてもらい一冊にまとめる…。それが、問題把握・提示の手軽で、分かり易い手法なのはよくわかるが、まさに“電子書籍元年”と言われる現在に、こんなことでいいのですか…とひとこと言いたくなる。

例えば、これをすでにデジタル/ネット化が進んでいる音楽ソフトで考えてみる。CDアルバム丸ごとではなく楽曲単位での購入のように、本書の一文一文を興味のある、読みたいものだけダウンロード購入できないものだろうか。
あるいはシャッフル機能を使って、自分の好きなような並び順で読めないものだろうか。あるいは、同テーマで次々と新しい書き手による、新しい一文が追加される…。

そんな妄想を抱いてしまったのは、もはやワタシが両手で本を支え、新書とはいえ片手に余る本の重さを感じながら、もう片方の手でページをめくらなければならないという読書行為から、早く解放されたいという気持ちが働いたからなのかもしれない。

「これからの『本がどうなる』ではなく、『どうする』という意志がなければ、本の世界は何も変わらない」(紀田氏)のだ。

◆『本は、これから』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「電子だろうが本だろうが、人間は読書を必要とする」--基本読書
「その人にとって本とは何なのか見えてくる」--asahi.com(永江朗氏)
「本を考えるたくさんの寄り道」--毎日jp(小島ゆかり氏)
「消費者にとっては選択の問題でしかない」--この世の全てはこともなし
「デジタル化を推進している現場が触れられていない」--Kiankou books review
「雑誌と本との絡みから見た論説が…」--A Puzzler on the Trail

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