【コミック】どうらく息子 第一集2011/01/31

どうらく息子 1 (ビッグコミックス)どうらく息子 1 (ビッグコミックス)
尾瀬 あきら

小学館 2011-01-28
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ビッグコミックに連載中の話題の落語マンガ『どうらく息子』。
本来なら未完結のシリーズのレビューは本意としないのだが、“噺家”を主人公にした話題作とあっては、終巻まで寝かせておくのはあまりに惜しい。というわけで、とり急ぎ「第一集」をレビュー。

作者は『夏子の酒』 『みのり伝説』 など、さまざまな“業界”を舞台にしたうんちくマンガの形を借りながら、主人公の“成長物語”を丹念に描くことで、多くの読者の共感を得てきた尾瀬あきら氏。
結論から言うと、氏のその資質は、この物語の出だしから十二分に生かされている。

主人公・翔太は、保育園の先生をしている26歳。ある時、ふと訪れた寄席で落語の魅力にはまり、やがて“噺家”になる夢を抱く…というのがそのストーリーの骨格。

落語をモチーフとしたTVドラマ『タイガー&ドラゴン』も、やはり若い“噺家”の成長物語であったが、そのヤクザの主人公はすでに入門を許され前座として高座にもあがる身だが、本作はその“前史”ともいえる紆余曲折を経ての入門物語から始まる。

しかしながら、演じられる“落語”のストーリーに主人公自身がかぶさる構造は『タイガー~』とも通じ、翔太は“落語”の登場人物にもなるし、翔太の実体験が“落語”のテーマに重なる場面もある。このあたりの重層的な構成はさすがにうまい。

さらに、尾瀬氏の“うんちくマンガ家”としての手並みも見事で、寄席がどういった“空間”かの解説から、老人会や寺での落語会など、“噺家”の世界がわかり易く描かれる。
落語初心者のための手取りと足とりの「落語入門」的な側面を持ちつつ、一方で「文七元結」では、娘が身を挺してこしらえたなけなし50両を、長兵衛が身投げ男にくれてやる時にふと笑う仕種を入れ込むなど、落語ファンをニヤリとさせる手練もみせる。

このあたりは、落語監修として本作に関わる柳家三三師匠の力添えもあるだろうが、硬軟に富んだ内容で読者を飽きさせない。

翔太の入門を許した惜春亭銅楽が、言い放つ「翔太…落語は人の了見をどれほど察するか、理解できるだ。手前のことばかり考えている奴はムリだ」というセリフも、「結局、落語は“人”だ。人間性がにじみ出る」という教えが脈々と続く、いかにも柳家一門らしいものだ。

老人会で落語会を主宰する園児の祖父や伯母である園長、兄弟弟子や師匠の女将さんなど、翔太に絡む脇役陣も多彩。

尾瀬作品の多くがTVドラマ化されたことからもわかるように、よく推敲された脚本で、落ち着いたカメラワークで撮られたかのような作風。大胆なコマ割りもなければ、ジェットコースターのような展開もないが、まさに「大人のマンガ」の風格を感じさせる。

“落語ブーム”を経て、早くも万人の共感を得られる傑作落語マンガの誕生を予感させる。

『どうらく息子 1』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「じっくり腰をすえた展開も読みごたえ」--asahi.com(コミック・ブレーク)
「落語と、それに関わる人との双方を描くもどかしさ」--マンガ一巻読破
「ちゃんと落語を物語にしている数少ない作品」--やすのぼやき
「いい話になっていったら、久々に落語漫画の成功例となる」--見えない道場本舗
「実に堅実で丁寧なつくりのタイトル」--緑画舎まんがブログ

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