【演劇】ハイバイ『投げられやすい石』2011/01/22

ハイバイ『投げられやすい石』
岩井秀人(作・演出)率いる劇団「ハイバイ」の新作『投げられやすい石』を観劇(1月22日・こまばアゴラ劇場)。

岩井氏は16歳から20歳まで「引きこもり」だった体験をもち、岩松了氏や平田オリザ氏の作品を見て「喋り言葉で書いても良いんだ…」と「会話劇の可能性の目覚め」て芝居を書き始め、以後同劇団のすべての作品を手がける…と紹介文にある(ぴあMOOK『小劇場ワンダーランド』 )。

本作は四場から成る1時間半ほどの小品だが、その「現代口語演劇のメソッド」を活かした、やさぐれた、せつない会話劇が、じつにリアルに現代の若者社会を写し出す。

自他ともに認めるその才能によって、美大生ながらすでに個展を開くなど活躍する佐藤(岩井秀人)と、その友人・山田(松井周)。冒頭は、佐藤の個展に出展させてもらった山田がパーティーで挨拶するシーンから始まる。

やがて、山田の口から佐藤が忽然と失踪してしまったことが語られ、佐藤の彼女・ミキ(内田慈)ともつきあっていることも独白される。そこへ、佐藤から2年ぶりに連絡があり、二人は待ち合わせることになるのだが…。

この2場のコンビニでの、変わり果てた佐藤と、再会に躊躇する山田、そして店員(平原テツ)とのやりとりが秀逸だ。万引きを疑われた佐藤と店員の“ありえる”会話はまるで“ドキュメンタリー演劇”を観るかのように、ワタシたちを強引にその舞台世界へと引き込む。

続く河原での、佐藤と山田の会話がヒリヒリと痛い。
「う、ううん」「あ、ああ」~えっ?」…。
相槌のようなそうでないような、擬音を多用した会話から、相手との距離感に戸惑う二人の微妙な関係が、あまりに痛々しい…。
平田オリザ氏がロボット演劇で提示したような、会話と会話の間に舞うイマジネーションの宇宙が、ここでは生身の役者の“息づかい”によって拡がっていく。

そして最終場では、山田と既に結婚しているミキも交えたせつないシーンが続く。“病気”になった佐藤の常軌を逸した発言と行為に、会場からは笑いが絶えないのだが、いたたまれない山田とミキは嗚咽するのだ…。

「おまえは何者だ!?」と山田に詰問する佐藤もまた、自身の存在に揺れているのだ。そして、それはまたワタシたちに向けられた問いでもあるのだが…。

繰り返される“痛いセリフ”のなかに、友情と愛、才能と平凡、人間関係、社会性、自己実現…といくつものテーマが浮かび上がり、せつなさをまとったまま何を解決もみせずに、この青春物語はプツンと幕切れる。

やさぐれた狂気とセツナサと可笑しみ…これこれで「現代口語演劇」の一つの発展形なのだろう。実際に友人同士だという岩井氏と松井氏の、“役者として”のリアルな友人造形も見事(1月30日まで)。

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