【コミック】ビューティフルピープル・パーフェクトワールド2011/01/11

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)
坂井 恵理

小学館 2010-11-30
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以前、短期間の間に、何人ものさまざまなセクシュアル・マイノリティの人たちと、出会い、話し、一緒に飲んで騒いだことがあった。それはそれで一緒にいるときは楽しいのに、なぜかその後一人になるとドッと疲れている自分に気づいた。

おそらくそれは、彼(彼女)らが「恋人」の話をしたり、「○○が好き」というときに、無意識のうちに頭の中でいちいちそれが男性・女性のどちらなのか確認する作業を行ったり、ふだんはまったく気にもとめない自身のセクシュアル・アイデンティティを否が応でも意識させられるからなのではないかと思い至った。自分は「異性愛者」なのだということを、ことあるごとに確認しなければならない煩わしさ、というか…。

それは、また同時に「同性愛者」たちが日々強いられている煩わしさなのだ、ということを思い知らされることでもあった。
本作を読んで、その時の記憶が甦った…。

舞台設定は「21世紀が残り半分を切った頃」のニッポン。
「芸術も文学も過去の作品のリメイクかパロディばかり」で、人類が“停滞”するなかで、美容整形だけが“進化”し、「どんどん美しくなった」人類ばかりが暮らす世界…。
その「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」を舞台に、4つの物語が展開される。これが、いずれも“痛い”話、ばかりだ。

カオの見分けがつかない同級生のなかに、自分と同じ(身体を)“いじってない”生徒に次第に惹かれていく主人公の“僕”。やがて、彼女の正体を知り、そのファンタジックな身体の秘密も明かされるのだが、その時に“僕”が抑え込んできたセクシュアリティもまた、彼女によって晒されてしまう…。
“僕”は言う。「スカートはキライ。けど--男になりたいわけじゃないんだ」…という1話「思春期」からしてセツナさが全開する。

2話の「パチモン美少女in南国」も、「ひきこもり」だった兄が、アニメキャラの女の子になり、専業主婦を目指すも暗礁に乗り上げ…というドタバタ劇なのだが、「そんなにヌルくねんだよ。女は!」という母親の啖呵や、「見上げるの見下すのしんどい」という主人公(弟)の呻くようなつぶやきから、本作の隠されたテーマが強く立ちあがってくる。

3話「いつまでもコドモのままでイタイの」の児童買春を取り締まる女性刑事が、夫の“初恋”の女性そっくりに整形し、“コドモ”のまま愛される…という設定からしてすでに“痛い”。その“若い”夫も、じつはそれ相応年なのに、だ…。
みな同じようにキレイになった世界で、まっさらに素をさらけだしていた小学生時代の“初恋”に憧れるパーフェクト・ワールドの住人たち…。
ここでは、男子児童のレイプ犯が、オンラインゲームのアバターでは女児として登場するなど、まさしく読み手のセクシャル・アイデンティティを混濁させ、揺さぶるような展開がなされる。

最終話の何度も“再生”する「スーパースター」も、美容整形でどんな人間にもなれるという舞台設定をうまく生かした作者のストーリーテラーぶりが発揮された作品。しかし、登場人物たちのそのしたたかな生きざまに潔さを感じつつも、やはり全体を通奏するのは“痛み”でしかない。

改めて、この“美しい人々による完全なる世界”を、“心までは美しくなれない不完全な人々の世界”として仕立て上げた作者の炯眼には、感心するばかり。
こんな評価は作者にとって不本意かもしれないが、小説のネタとしても、映画の原作としても魅力的な、多くを考えさせられる“社会性”をもった作品集だ。

◆『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』の参考レビュー一覧
(*タイトル文責は森口)
「美醜という題材の扱いにくさを、SFとしてうまく昇華」--イチニクス遊覧日記
「『姿形を変えられる』から想像されるバリエーションを上手に使い展開」--マンガ一巻読破
「人々が心に抱え込んだ問題をさまざまな角度から描く」--asahi.com(ササキバラ・ゴウ氏)

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