最近観た映画2010/02/05

『風が強く吹いている』(2009年・監督:大森寿美男)
三浦しをんの原作は未読だが、おちこぼれ陸上部員が箱根駅伝を目指す青春ドラマ。主演の小出恵介(好演!)以下、実際に合宿まで行なって走り込んだという演出が、リアルな駅伝シーンとチームワーク、人間像に結実した秀作。

『母べえ』(2008年・監督:山田洋次)
まず野上照代サン(黒澤映画スクリプター)がこんな原作(実話に基づいているそうな)を書いているとは知らなんだ。父親が思想犯として特高に捕らえられ獄死するなかで、気丈な母(母べえ)を中心に家族が支えてあって生きる姿を描いた強烈な「反戦作品」(とワタシは観た)。

『冬のライオン』(1968年・監督:アンソニー・ハーヴェイ)
ヘンリー2世の妻・愛人・息子たちの権力をめぐる愛憎劇。もとは舞台劇の映画化というが、凄まじい策謀と強欲、そして嫉妬・恐怖・孤独…がめまぐるしく展開するドラマにふさわしい名優ピーター・オトゥール(王)とキャサリン・ヘップバーン(幽閉された王妃)という配役。

最近読んだ本2010/02/06

『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著・NHK出版)
世界的ベストセラー『ロングテール』のワイアード誌編集長による最新作にして、「フリー」という新しいビジネスモデルを分析・提唱した話題の書。たしかに、なんでこのサイトは運営できてんのかなぁ~という多くの人(?)がギモンに持ちながら、使いまくっている(例えばwikipediaとか)デジタルコンテンツ(以外にも)の運営・経営の仕組みを解読し、それを系統立てて説明してくれて刺激的。なるほど、あれもこれも「フリー」だなぁと思いあたることしきり。

『起業バカ』(渡辺仁著・光文社)
『フリー』に触発された読んだ起業モノだが、自身の体験も含めて失敗例にスポットを当てている。すさまじいフランチャイズの実態が描かれている。

『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(荒濱一・高橋学著・光文社)
『フリー』に通じる「仕組み」をつくった人たちを取材しその成功のヒミツに迫る。

No Man’s Land 創造と破壊@フランス大使館2010/02/07

解体前のフランス大使館旧庁舎で開催されているアート・イベント「NO MAN’S LAND」に足を運ぶ。(2月6日)
著名、無名(?)問わず日仏ほか70人のアーティストが参加し、なおかつ無料(!)ということで話題を呼び、開催期間が延長された(2月18日まで)というだけあってこの日も寒風吹きすさぶなか多くの人が詰めかけていた。
作品は、そのほとんどが現場で制作されたということで、事務室、廊下、資料室、階段、地下室、中庭など、屋内外のあらゆる空間に展示され、かつその空間の佇まいを生かしている作品が目につく。しかも、大使館なんてめったに入れない空間なので、ここは倉庫かな? ここは機密書類を保管していた部屋かな?( ^ ^ ; などと想像しながら歩くのもまた一興。
個々の作品(作者)については細かくメモしてこなかったが、林立するチューブの中を鳥の羽が吹き上がる屋外のインスタレーション「Air Tube」(小松宏誠と石渡愛子)や「愛憎弁当」(岡田裕子)など、印象に残る作品多々。お見逃しの方は是非。

日本の伝統芸能絵巻2010/02/08

「神楽坂 伝統芸能2010」の一環として行われた「日本の伝統芸能絵巻~美しき日本の四季」(2月6日・夜の部 矢来能楽堂)に足を運ぶ。といってもこの分野はまったくのモンガイカン(>_<) …なので以下、ほとんどレビューになっていない簡単な報告。
まず会場が素晴らしい。矢来能楽堂は東京では二番目に古い能楽堂だそうで、檜づくりの趣のある舞台。(他と比較できないが)音の響きもいいそうだ。
で、この催しは、能、長唄、箏曲、新内、日本舞踊それぞれの演目で副題となっている「日本の四季」を表現するというもので、まさしくに日本の伝統芸能・音楽(の一部)を俯瞰できるオムニバス形式の演奏会。二度の休憩をはさんで3時間近く、さまざまな演者による「芸」が披露された。
ところでワタシにとっては、「能」以外はいずれもナマで聴くのは初めてというものばかり。
で、能と箏曲はワタシには行儀良すぎてチョット退屈( ^ ^ ; 。長唄の東音宮田哲男サンは人間国宝(こういう呼称はあまり好きではないが)だけあって、さすがに声がイイ。
さらに新内の鶴賀若狭掾サン(やはり人間国宝)は、子どもから女房まで超絶技巧のごとく咽を使い分け、観客を舞台に引き込みサスガの芸。拍手もひときわ大きかった。
日本舞踊、それも男の踊り手は初めて観たが、よくわからんが、とてもエモーショナル!
初体験ということもあり、コンテンポラリーダンスなどとは違う独特の深みがあるような…。
うーん、この世界、もうちょっと探求せねば。

最近観た映画2010/02/09

『スリ』(2000年・監督:黒木和雄)
アル中のスリと、彼を取り巻く男女の人間模様を描いたドラマ…なのだが『竜馬暗殺』『祭りの準備』といったダークでエネルギッシュな黒木作品にホレてきたワタシ的には、今ひとつパワーが足りないような…。この後、黒木監督は『美しい夏キリシマ』『父と暮せば』という戦争レクイエム作を美しい映像と細やかな演出で撮る。

『同胞(はらから)』(1975年・監督:山田洋次)
岩手県の農村を舞台に、東京の劇団のミュージカルを公演しようとする青年団の活動を描く…とと、劇団って「ふるさときゃらばん」じゃん!(の前身の「統一劇場」。ココから分裂して「ふるきゃら」になった) 倍賞千恵子演ずる劇団員が青年をオルグする様など、今に通じる「ふるきゃら」の制作・上演スタイルそのもの。山田監督は実際に公演を主催した青年団をモデルに、1年かけて本作を撮ったというが、後半はまるで「ふるきゃら」公演のダイジェスト版を観るよう!その後、「ふるきゃら」は、農村を公演を続けながら次第に企業スポンサーを募り、とうとう政府(道路特定財源)までパトロンにしてしまう。この頃の「ふるきゃら」の純粋さに惹かれた(たぶん)山田監督もフクザツな気持ちだろうなぁ。

『マーティ』(1955年・監督:デルバート・マン)
これは今でいうブサメン草食系男子とイケてない29歳女子のラブストリーということね( ^ ^ ; 。もとはTVドラマらしいが、今風仕様でリメイクしてもけっこうイケるのでは? 名脇役・アーネスト・ボーグナインがいい味。

監視カメラが忘れたアリア2010/02/12

鴻上尚史が主宰する「虚構の劇団」による「監視カメラが忘れたアリア」を観劇(2月11日・座・高円寺)
テーマは「監視社会」で舞台は近未来(いや、まさに現代か)。劇の冒頭、「観客のみなさんを会場内のカメラで録画しています」とアナウンスし、テーマに引き込む。ここはウマイ。で、ある大学のサークル広場に設置されたカメラを監視する「監視カメラを監視する会」の活動を軸に、この会の創設者で今は渋谷の街頭を監視カメラで監視する警察官と妻、サークル広場を利用する劇団などが多層に絡んでいくという流れ。
よく練った構成で、セリフも効いているし、若い役者もよく動く。映像の使い方も上手い。
きっと鴻上ドラマの真骨頂といったところなんだろうけど、かつて第三エロチカが『ニッポン・ウォーズ』で管理社会を痛烈に描いたことを知っている世代としては、ちょっと軽いノリが衝撃性を欠く…という印象も。

Antony and the Ohnos -魂の糧-2010/02/13

Antony and the JohnsonsのAntonyと大野一雄・慶人とのコラボ・ライブ
 「Antony and the Ohnos -魂の糧-」(2月12日・草月ホール)に出かける。
某音楽雑誌の告知で「Antonyと大野一雄が共演」を目にしたときは、本当に驚いた(T_T)。
エッ、あの100歳を超えた大野サンが本当に踊るの!? かつてシアターコクーンでの公演に並び、数人前で当日券が売り切れてその雄姿を観ることができなかった大野サンが、再び舞台立つ!?…という奇跡はなかったが、…夢のような一夜だった。
昨年リリースされた『The Crying Light』が高く評価され、そのジャケットに大野サンの写真が使われていたので、Antonyが大野サンをリスペクトしていたことは知っていたが、まさに大野サンへの「愛」溢れるステージだった。
ゲストのジョアンナ・コンスタンティンと大野慶人のダンス・舞踏、『O氏の死者の書』(一雄サンのパフォーマンスを記録した映画)の上映と、Antony(Vo+ピアノ)とロブ・ムース(Vl+G)によるライブという構成。
イメージと違って、ちょっと太めで衣装もフツー(というかダサい( ^ ^ ; )Antony君の容姿は意外だったが、歌声は素晴らしい。歌もピアノも上手い。最後に歌ったプレスリーの「愛さずにいられない」などは、まるでアーロン・ネヴィルみたい(ちょっとテイスト違うか)。オヤジ的にはその妖艶ぶりも併せて、ジョブライアスなんか思い出しちゃったりして…(笑)。
久々の密度と質の高いパフォーマンスを堪能。

如月の三枚看板【文左衛門・扇辰・喬太郎】2010/02/14

噺小屋スペシャル「如月の三枚看板」(2月13日)と題した落語会へ行く。
談志師匠の会がよく開かれるという会場の銀座ブロッサム(中央会館)は900席のホール。ここがビッシリ満員で、改めて落語人気に驚く。客席も前座の入船亭辰じんサンの「たらちね」から笑いが起こり、イイ感じ。
で、いきなり登場したのが柳家喬太郎師匠で、マクラから観客を引っ張り込み、この人ホント今や「(平成という言葉は使いたくなくいので)00年代の爆笑王」ですな。とうとう95キロまで膨れあがった自身の太鼓腹をうまく使った「幇間腹」で、会場は爆笑の渦。
続いて、初めて聴く入船亭扇辰師匠は、「徂徠豆腐」冒頭の「と~ふぅ~~」の豆腐屋のひと声で、一挙に観客を江戸の街へ誘う。喬太郎師匠で大笑いさせられた後は人情噺でホロリ。
さて、トリを務めるコワモテ(失礼)の橘家文左衛門師匠は、ずいぶんと前に「彩の国落語大賞受賞者の会」(2005年)で聴いた覚えがあるが、「らくだ」がこんなに面白い噺だとは思わなかった!と思わせる見事な出来。荒唐無稽な笑いの裏で、つくり込んだ人物造形で主役のくず屋をはじめ長屋の暮らす人々の生活や心情をくっきりと浮かび上がらせる。
三者それぞれの持ち味で、見事な名演。この日のお客サンはワタシも含めて、落語の多様な魅力を堪能にしたのではないか。これだから落語通いはやめられない、ってか。( ^ ^ ;

reset-N「青」2010/02/15

reset-Nによる「青」を観劇(2月13日下北沢ザ・スズナリ)
じつはこの劇団のことはよう知らなんだが、下北沢演劇祭のチラシを見て、近未来の移民社会をテーマにしていることに興味を持ち、足を運んだ。作・演出の夏井孝裕サンも注目の作家らしいし…。
閉鎖した病院の一室を舞台に、急増する移民を暴力で排斥するグループのリーダーに祭り上げられた若者たちの苦悩を描いたストレートプレイ…なんだけど、語られるテーマはいきなり「60億の暴力の連鎖を断ち切るのどうしたらいいか?」だったり、結構「言葉」の芝居ネ。
重いテーマに真正面から取り組んだ作家の力量は認めつつも、ややありがちなラストとともに、1時間45分という上演時間ももの足りない感じも。もっとテーマを練って、ぜひ再演してください。(^_-)

最近観た映画2010/02/16

『武士道残酷物語』(1963年・監督:今井正)
戦国武士から現代サラリーマンまで残酷・非情な封建社会を七代にわたって萬屋錦之介が一人で演じた異色(?)作。だって、忠義のために自分の妻や娘を主君に差し出したり、いくら封建社会だからってムチャクチャでしょ。これじゃ臣下もついてこないと思うけど、南条範夫の原作はどこまで史実に基づいているのか?と、網野善彦史観に影響されたワタシとつい懐疑的になってしまうのだが…。でも、なかなかの力作ではある。

『霧の中の風景』(1988年:監督:テオ・アンゲロプロス)
長回しの〝アレキサンダー大王〟アンゲロプロス監督による父を探し求めてアテネからドイツを旅する幼い姉弟の姿を描いた切ないロード・ムービー。この監督は『旅芸人の記録』や『アレキサンダー大王』など、ギリシャ現代史に古代史をダブらせて壮大な物語を描いた作風で知られるが、本作ではそうした厳しい現実を描きつつも『エル・スール』や『ミツバチのささやき』を思わせるような幻想譚に仕上げている。

『崖の上のポニョ』(2008年・監督:宮崎駿)
うーん、『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』と傑作を連発していた宮崎カントクはどこへ行ってしまった~という感想を持たざるを得ない最新作。「人魚姫」をモチーフに、幼い子どもでも楽しめる作品を目指したのだろうけど、かつてなら目を見張っただろう宮崎印煌めく海(モデルとなった鞆ノ浦も)のシーンにしても、「パンドラ」(by『アバター』)を観てしまった後にはもの足りなさを感じてしまうワタシがいる…。(>_<)