【映画】戦場でワルツを2011/06/14

『戦場でワルツを』
『戦場でワルツを』(2008年・監督:アリ・フォルマン)

2008年のアカデミー外国語賞を『おくりびと』と競った、レバノン内戦の悲劇を斬新なアニメーション手法で描いた作品。

なるほど、冒頭からアメリカン・コミックを思わせる人物の輪郭をクッキリと描き、実写の演技をアニメに興したかのようなスタイリッシュな手法には、ぐっと引き込まれる。

冒頭の犬に追われる“夢”のシーンからしてスリリングで、何度も再現される照明弾が灯る夜の海や海原で巨大裸女と戯れる幻想的な場面など、アニメならではの見どころも少なくない。

写実的ではあるが、どこかメルヘンチックな世界。
監督自身が本人役として登場し、レバノン内戦時の“忘れられた記憶”をたどっていくという夢の道程を描く意味でも、この手法を選択したことは当然の帰結だったのかもしれない。

しかしながらワタシは、物語が進むうちにこのアニメ手法が、しだいに疎ましいものに感じてしまった…。なぜなら、本作はアニメではあっても、れっきとしたドキュメンタリー作品だからだ。
作者(監督)自身がぬぐい去りがたい過去と向き合い、自身が19歳の時にその場に立ち会った「サブラ・シャティーラの虐殺」を告発した映画なのだ。

ならば、戦闘シーンや夢、幻覚(想)シーンはともかく、本人役として登場している人物は実写で描くべきだったのではないだろうか?
そのあたりの事情をネットで探ってみると、どうやら「自分で書いた脚本をもとにまず実写で撮影し、そのビデオをもとにアニメをつくりあげていった」(フォルマン監督(という。
「中年の男が、25年前の暗い過去について取材する様子を、当時の映像もないままに語っていたら退屈な作品になってしまう」ということらしい…。

そうした事情はあるにせよ、レバノン内戦の社会的背景に疎いこともあって、ワタシにはどうもそのアニメのゆったりとした動きに冗長な印象を受けてしまった。

タイトルに由来する戦場のライフル乱射シーンも、それほど衝撃的ではなく、やはりインパクトがあるのはラストの“実写”だ。
そこでは“虐殺”後の生々しいニュース映像が、ワタシたちを突き刺し、重い軛をもって問いかける。

だからこそ中途半端なアニメに逃げないでほしかったというのが、ワタシの本音だ。

『戦場でワルツを』の参照レビューの一覧(*タイトル文責は森口)
「映画史に確かな足跡を残す作品」--映画通信シネマッシモ(渡まち子氏)
「アニメと現実の狭間の不思議なトリップ」--映画ジャッジ!(岡本太陽氏)
「ドキュメンタリー・アニメーションという独自の映像表現」--映画ジャッジ!(山口拓朗氏)
「ラストで一転、ざらついた『真実』が登場するショック」--映画ジャッジ!(小梶勝男氏)
「"架空の世界"のアニメで"事実を記録する"試み」--映画のメモ帳+α
「表現のつたなさは否定できない」--シネマポスト
「虚無と悲しみが覆う実体験を描いた作品」--asahi.com(宮崎陽介氏)

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_ 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評 - 2011/06/14 23:22

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