若松若太夫独演会2010/06/05

ワタシが説教節若松若太夫の名を知ったのは、先代から。アルコール依存症から立ち直り録音した『石童丸』は愛聴したなァ。切々とした声が節が、グッと胸にくる名演だった。初代のCDも購入して聴いた。
そして、本日の演者は三代目・若太夫で、12回目の独演会だという。会場も板橋区立郷土芸能伝承館という趣ある建物、そして主催は説教節を保存・伝承する「若松会」。たしか代表の青木久子さんは、先代をアルコール禍から救い出したその人だったかと思う。そんなさまざまな人や思いに支えられてか、会場は年配の方を中心にゾロゾロと地域(?)の方々が集まってくる。
三代目の節は、(当たり前だが)先代の節を受け継いだ艶ある唸り。時として弱々しく聴こえるが、それも先代の持ち味だった。三味線にこんな多彩な弾き方があったかと思わせる、表情豊かな伴奏もイイ。(^_-)
日蓮上人の弟子の話「日朗上人佐渡の雪」でじっくりと、「日高川入相花王」で楽しくと、説教節の幅も魅せてくれた。まだ若いので、これからさらに期待できる三代目である。

庭劇団ペニノ『アンダーグラウンド』2010/06/12

庭劇団ペニノ『アンダーグラウンド』を観劇(6月10日・シアタートラム)。
なるほど、葬式が『お葬式』、納棺が『おくりびと』というエンターテイメントになりえるのならば、手術だってなるはずだ!と作・演出のタニノクロウ氏は思ったに違いない。実際に精神科医だという氏は、研修で10時間の大手術を見学したことが本作の契機になっているというが、なるほど。なにしろ、手術シーンを一糸乱れぬ演技(?)、手さばき、身のこなしで演出(?)してしまうのだから、スゴイ!( ^ ^ ;
ところが、「手術ショー」と銘打っているだけあって、当初シリアスに進んでいく手術が、次第に荒唐無稽な、ドタバタ劇に…。音楽をうまく絡めて、タニノ氏の言うところの「楽しめる」作品となった。
たしかに作り物とはいえ、臓器や血が溢れる本作は、「映画」というよりもまさに「演劇」的。
フェリーニや寺山、鈴木清順を思わせる幻想的な(表題どおり)アングラ感も。

最近読んだ本2010/06/16

『累犯障害者』(山本譲司著・新潮文庫)
ムショ暮らしを経験した元国会議員が、ムショ内で多くの障がい者と出会い衝撃を受けたことは『獄窓記』ですでに触れていたが、本書ではさらにその問題を解明すべく「障がい者が起こした事件」の真相を追及していく一級のノンフィクション。風俗・売春産業に流れる知的障がい者の実態など、まさに「社会から隠された闇」を緻密に描く。この人、文章もうまい。

『外国人が見た近世日本 日本人再発見』(竹内誠監修・角川文芸出版)
本書を読むと近世日本にはさまざまな外国人が来訪し、またそれを記録していたことがわかる。それゆえに各人の「日本人」のとらえ方に相反する部分もあるが、総じて我々の祖先を肯定的にとらえているが印象的。網野善彦史観を補強するかのように、江戸~明治庶民の多彩な暮らしぶりが描かれている。

『アラン・ローマックス選集 アメリカン・ルーツミュージックの探究1934-1997』
(ロナルド・D・コーエン著・みすず書房)
表題のとおりローマックスがアメリカの民謡・伝承歌の研究者であることは知っていたが、本書を読むとはその探究心は、「アメリカ」にとどまらず「世界」に拡がっていたことがわかる。そういう意味では、ローマックスこそ、世界の民俗音楽・大衆音楽を俯瞰して観るというワールド・ミュージック研究の先駆者としてとらえることができる。

最近観た映画2010/06/19

『夕凪の街 桜の国』(2007年・監督:笹々部清)
じつは大絶賛された原作マンガにあまりピンとこなかったので、期待せずに観たのが…ヨカッたです( ^ ^ ; 。広島で被爆した家族を3世代にわたって丹念に描き、半世紀前の出来事と今をしっかり繋いでいる。オーソドックスな演出ながら見応えありの佳作。

『闇の子供たち』(2008年・監督:阪本順治)
こちらもどっと重いテーマで、タイと日本を舞台にした児童(臓器)売買の小説を原作としている。やっぱりキモは原作にない(という衝撃の)ラストだろうな。ここでも、問題は繋がっているのだ、という提起がなされている。

『シークレット・サンシャイン』(2007年・監督:イ・チャンドン)
なるほど「密陽(ミリャン)」は英訳すれば表題になるのか!?  『オアシス』で障がい者と犯罪者の愛を描いた異才チャンドン監督が今回描くのは、犯罪に巻き込まれたシングルマザーと不器用な男のラブ(?)ストーリー。その仕掛けに、児童誘拐や宗教を絡ませ、表題どおり痛々しくも「密やかな陽差し」さす物語に仕上げている。

最近読んだ本2010/06/22

『ルポ 資源大陸アフリカ』(白戸圭一著・東洋経済新報社)
本書を読むと、本当に南アフリカでワールド・カップを開催していて、いいんだろうか? (ていうかよくFIFAがよく南アを開催地に選んだなぁ( ^ ^ ; )という治安最悪の状況が描かれ、スーダンの惨状なども胸が痛くなる。資源を巡り翻弄されるアフリカの現実は、欧米の覇権主義が連綿と続く歴史の暗部なのだろう。著者は、アフリカをアフガンのような「世界が見捨てた国」々にしないために、警鐘を打ち鳴らすのだが…。

『へんないきもの』(早川いくを著・新潮文庫)
これは抱腹絶倒、なぜ本書がベストセラーになったかわかる逸品。神(?)はかくもこのようにな「へんないきもの」をお造りになったのか、生命と進化の不思議に迫る(?)力作!

『ビッグ・ピクチャー ハリウッドを動かす金と権力の新論理』
(ハワード・J・エプスタイン著・早川書房)
断片的には耳にしていたが包括的な書はこれまでなかった、という点においてやはり本書は貴重なレポート。『グラディエーター』のラッセル・クロウは、身体はスタントマンで顔だけCGではめ込んだ(笑)とか、出演者は契約の中に、映画宣伝のプロモーションも含まれていて、とにかく出演作を褒めないといけないとか、ソウダッタノカ!的な発見も多数。