最近読んだ本2010/04/02

『新 世紀メディア論』(小林弘人著・ バジリコ)
かつての日本版『WIRED』に編集長であり、最近では話題の書『フリー』の 監修者としても知られる著書によるデジタル出版論。Kindle、i-padが登場する現在の状況を予見、というよりも当然こーなるのに、何をやってんだ お前ら!と檄を飛ばすデジタル文化と格闘する真摯な出版人による警告の書。

『ボーダー&レス』
(藤代泉著・河出書房新社)
かつて文学でも映像でも散々語られた日本人と在日コリアンとの「差別意識=見えない壁」を題材にした小説。手垢にまみれたテーマともいえるが、新入社員の日本人の「僕」の目を通して、重くならず、さりとて軽んずるのでもなく、仕事・友情・恋に揺れ動く青春・友情を等身大に描いたあたりが今日的であり、若い(?)読者の共感を呼んでいるのだはないか? ナ。

『現代演劇のフィールドワーク』(佐藤郁哉著・東京大学出版会)
この著者、どこかで見た名だと思ったら『暴走族のエスノグラフィー』の人でした( ^ ^ ; 。で、本書は7年におよぶフィールドワークを経て、著したという労作。経済(カネね)面も含めて、社会学のフィールドワークという手法を使って、小劇場の実相を描いたみせた点は評価できると思う。戦後演劇を俯瞰するという意味でも、系譜図なども付いて、ワタシ的にはとても勉強になりました。(^_-)

最近観た映画2010/04/07

『母なる証明』(2009年・監督:ポン・ジュノ)
ゼロ年代のベストワンに輝いた『殺人の追憶』の天才!ポン・ジュノの最新作にして、人間の光と闇、深淵なる「業」を描いた傑作。恥ずかしながら映画館で「えっ!」と叫んでしまった意外な(?)展開と、これもポン印か、本作ではタルコフスキーばりに水(液体)にこだわり、観るものの身体に巻きつくようなねっとりとした演出を魅せる。次はどんな驚きをみせてくれるのか、早くも次作が楽しみ!( ^ ^ ;

『沈まぬ太陽』(2009年・監督:
製作・上映に際して日本航空(JAL)が相当の圧力をかけたとされる山崎豊子原作の航空会社を舞台とした人間ドラマ。なにしろケン・ワタナベ演じる主人公・元労組委員長(実在のモデルがいる)は海外に10年間も飛ばされ、ジャンボ墜落事故が主要なテーマとして映し出されるのだ。今や「沈む太陽」ともいえる日航にすれば、心中穏やかではないだろう。それにしても途中休憩を挟んで、3時間22分という本作の完成・公開にこぎつけた製作陣の執念を感じさせる力作となった。

『橋のない川・第二部』(1970年・監督:今井正)
水平社結成で終わった第1部の続編、というか本作は1~2部で1本の作品ととらえたほうがいいだろう。ワタシも知らなかったが、公開にあたっては評価・批判さまざまな議論があったようだ。そうした歴史性と過去の検証も含めて、こうして手軽にDVDで観ることができるようになったことは評価していいだろう。

ジェフ・ベック・コンサート2010/04/13

東京国際フォーラム(4月12日)での、ジェフ・ベック
ベックの生ライブで聴くのは、2008年、昨年のエリック・クラプトンとの共演コンサートに続いて3度目 。さすがに今回はパスしようと思っていたのだが、ドラムがナラダ・マイケル・ウォルデンと聞いてで思わずチケットを衝動買い。( ^ ^ ;
で、このバンドの音が出たとたんに「おおっ、今回のベックはBB&Aか!」と思わせる音圧。
ナラダのど迫力のドラムに加えて、話題女性ベーシスト、ロンダ・スミスが奏でる音もまたぶっ太い!こりゃ、近年のソリッド・ポップ路線からヘヴィー・ベック路線に転向か!? と思わせたのも最初のうちだけ。もちろんブリブリのナンバーでは鋭いフレーズを弾きまくり、メロウなナンバーでは一転してとろけるような美しいフレーズを聴かせる、聴かせる~♡
いや、この充実ぶりは尋常ではない!「Over The Rainbow」「PEOPLE GET READY」「 A day in the life」など次々と奏でる有名曲を見事に自分流に消化し、ベック・ミュージックに昇華。インストなのに、インストだから、ベックのギターだから…と何度と聴いたナンバーもますます磨きがかけられ…。ラスト曲、「スーザン・ボイルで有名になった「I Dreamed a Dream(夢やぶれて)」では、ロックのライブで珍しいスタンディング・オベーション!隣のオヤジも泣いていた!(T_T)  ワタシも泣いたゾー!( ^ ^ ;

桂文珍・国立劇場10日連続独演会2010/04/16

上方落語界の実力派とされる桂文珍師匠の連続独演会・楽日(4月15日)を聴きに行く。
ゲストが兄弟子の桂三枝という豪華な顔ぶれで、客席も期待に溢れるなか、前座の桂楽珍が普天間基地移転騒ぎに絡めて出身の徳之島ネタと「上手廻し」で沸かせる。
文珍師師匠の一席目は新作の「老婆の休日」。老親をネタにしたマクラで会場の爆笑をとり、隣席から聞こえてきた「どこから噺に入ったかわからない…」まま場面は病院の待合室となり…爆笑を最後まで途切れさせない、さすがの上方爆笑王ぶり。
続く、三枝師匠は「落語はお客さんの想像力が頼り」というマクラをうまく使い、観客に頭を使わせながら笑かすという、離れ技的な創作落語「宿題」で、ご本人のアタマの良さを披露。
休憩の後、女流大神楽師の柳家小雪で華やいだ後、再び文珍師匠の「百年目」。「10日目で『百年目』を演らせていただきました」と、連続独演会を無事終えて、本人もホッとしたのだろう。最後は、三枝兄を呼び込んで関西風の三本占め。
上方落語の充実ぶりを、東京の演芸本山で知らしめたイベントと言えよう。

最近読んだ本2010/04/20

『神去なあなあ日常』(三浦しをん著・徳間書店)
映画版『風が強く吹いている』は観たものの、読むのは初めてという三浦本。「林業」「労働」「青春」という三大話のような、まさに小説的なファンタジー。加えて「地域」や「癒し」という言葉も浮かんでくる…エンターテインメント本、ですネ。帯に推薦を寄せている宮崎駿監督も指摘するように、ラストの御柱祭りを想起させるシーンなど、じつに視覚的。お父さんが上代文学・伝承文学研究者らしいが、そんな遺伝子も引き継いでいる?

『K-GENERATION K-POPのすべて』(古屋正亨著・DHC)
かつての『気分はソウル―韓国歌謡大全』なぞの韓国音楽本も懐かしや、今やK-POP!ですよ。若きK-POPの伝道者、古屋氏が韓国エンターテインメントへの愛を注いだ最新K-POPカタログ。どこまで続く、K-POPレボリューション!?

『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』(宮本太郎著・有斐閣)
話題の『生活保障』(岩波書店)よりも「『福祉政治』を読んでからの方が、宮本太郎氏の考え方が理解しやすくなるこちらの方がわかりやすい」との評を目にして手にした一冊。え~、難しいよ!学者本じゃん、でも宮本先生の雇用・福祉論には注目していますヨ。( ^ ^ ;

最近観た映画2010/04/23

『赤ちゃん教育』(1938年・監督:ハワード・ホークス)
なるほど、こーいうのをスクリューボール・コメディって言うのかぁ( ^ ^ ; 。気弱な考古学者(ケーリー・グラント)がわがままな令嬢(キャサリン・ヘップバーン)に振り回される話だが、予想できないスピーディな展開と、ベタながら洒落た笑いに安心して観ていられる王道コメディ。

『はだかっ子』(1961年・監督:田坂具隆)
設定はワタシが生れる前(?)だろうに、やたらにカラフルでモダンな風景や暮らし、車などが次々に顕れて、ええ、オレの子どもの頃ってこんなだっけ?と、まず驚き( ^ ^ ; 。職人・田坂監督って、いろんなテイストの作品を撮れる人、って印象があったけど、そういう意味では本作も職人作家の面目躍如たる一作か。余談ながら、TV放映されない(できない)理由も判明。

『グッド・シェパード』(2006年・監督:ロバート・デ・ニーロ)
家庭と仕事の軋轢、CIA内部の情報漏洩に苦悩するベテラン諜報員(マット・デイロン)の姿を描いた作品だけど…なんだかコムヅカシイというか、演出のキレが感じられないというか…( ^ ^ ;。

最近読んだ本2010/04/30

『日本の路地を旅する』(上原善彦著・文藝春秋)
「路地」を呼ばれる被差別部落出身者である著者が、日本全国の「路地」を旅する力作ノンフィクション。紀行文的なノリで始まった旅が、やがて著者自身が語り出し、心情を露呈し、最後に心のトゲとして在った実兄に会いに行く…という自身が血を流す旅に。大宅賞の価値あり、の近年の収穫。

『「つくりごと」の世界に生きて プロレス記者という人生』(井上譲二著・宝島社)
『ケーフェイ』はレスラーの立場から、『流血の魔術最強の演技』はレフェリーの立場から、プロレスの「真実」を語った本だが、本書は「記者」の立場からそれを暴露する。ゆえに、多くのプロレス団体の「真実」が語られるのだが、(ワタシがリングサイド席で息を呑んだ)あの第二次UWFさえもそうだったとは!とすると、日本でプロレスが輸入されて誕生以来、数十年にわたって「真実」を隠蔽してきたプロレス村、とりわけアントニオ猪木サンは稀代の詐欺師、もといトリックスター といえる。多くのプロレスファン(とりわけ若者)を騙し続けたその才能に、かえって驚愕を禁じ得ない…というのは倒錯した見方かナぁ。( ^ ^ ;

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(辻村深月著・講談社)
作者の故郷である山梨を舞台に、アラサー女子の仕事、結婚、家庭、親子、学歴の“息苦しさ”と“格差”を描いた作品。母親を殺した幼なじみを探すフリーライター(作者の投影?)が次々と彼女(と自分の)同級生や知人と会っていく一章は、宮部みゆきの『火車』や『理由』を想起する展開だが、一転して、二章(といっても全体の1/5程度)ではその幼なじみが語り出すのだが、この構成もあまり効いていない… 。なかなか物語世界に入っていけなかったのは、オヤジがやっぱ「女子」ではないからかぁ?( ^ ^ ;