【本】中国朝鮮族を生きる―旧満洲の記憶2011/08/07

中国朝鮮族を生きる――旧満洲の記憶中国朝鮮族を生きる――旧満洲の記憶
戸田 郁子

岩波書店 2011-06-25
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韓国や中国の地から、時折含蓄に富んだレポートを届けてくれる戸田郁子さんの最新刊。

冒頭の、旅と出会いを記した章が感動的だ。
中国黒龍江省ハルビンに語学留学した著者が、歴史に翻弄されてきた中国の朝鮮族である李先生と出会い、温かな交流をつむぐ。その出会いをきっかけとして、この希有なる著者の、中国東北地方の朝鮮族の移住と定着の歴史の探究する深遠なる旅が始まるのだ。

そこから満州国を舞台とした、日・朝・中(否、中・朝・日か)の雄大かつ壮絶な歴史人間ドラマが、本書では展開される。
黒龍江省中国共産党委員会副首席を務めた李敏(リミン)女史をはじめ、間島(カンド)出身の詩人・尹東柱(ユンドンジュ)、英雄・安重根(アンジュングン)のその後の家族たち、そして延吉の「新鮮族」など、この希有なる著者によって、未(無)知なる近現代史が駆け回る。

そう、ワタシたちをあたかも歴史の現場に誘うこの著者は、いかにも“希有な”存在なのだ。それはなぜか?
民主化宣言(1987年)以前の、韓流ブームなど想像もつかなかった1985年に渡韓し、高麗大学で「日帝」の歴史を学び、やがて韓国人カメラマンと結婚。さらに中国に渡り、朝鮮族の取材をすすめてきた著者には、日本と朝鮮と中国という三つの民族の“魂”が内在しているように、ワタシには思える。

単なる知識ではなく、その地に生き、暮らしてきた人々の歴史や生活の息吹までもを心身にとり込み、“魂”として宿してしまった。戸田氏はそういう書き手だからだ。
だからこそ、この日・朝・中に「つながった」物語が書き記せるのだ。

惜しむらくは、途中のコラム的な記述が、ノンフィクション書として一貫性を欠いたきらいがあり、これが整理されていれば、本書は大宅賞もしくは講談社ノンフィクション賞級の収穫になったであろうに。
しかし、戸田氏が心砕いてきた日・朝・中をつなぐ旅は、ワタシにはまだそのとば口に立っているようにしか見えない。そう、氏の中にある“魂”たちが黙っているはずがない。本書が、氏の新たな旅の序章になることを願ってやまない。

『中国朝鮮族を生きる』の参考レビュー(*タイトル文責は森口)
「中国に移民し、忘れられた朝鮮人たちの歴史」--愚銀のブログ
「氏のライフワークの集大成とも言える一冊」--統一日報

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