【本】月と蟹 ― 2011/04/02
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家族に“過去”を抱える元転校生の慎一は、やはり家庭に問題を抱える春也とともに海辺に秘密の場所を見つけ、ヤドカリを神様に見立てる儀式を繰り返す。そして「ヤドカミ様」に祈ると、なぜか少年たちの願いは叶う。やがて「ヤドカミ様」への願いは、少年たち自身と大人たちへも向けられ…。
冒頭から何度も登場するヤドカリが背負った貝殻をライターあぶる場面は、否が応でも『泥の河』(小栗康平監督)の一場面も想起させるが、物語は中盤まで大きな展開はなく、この二人の少年がやりとりとそこに織りなす心象風景が淡々と語られる。
その二人の関係にさざ波を立てるのは、慎一と浅からぬ因縁を持つ少女・鳴海のしなやかな存在だが、慎一の祖父・昭三の存在がまた、この物語にふくよやかさを与えるとともにトゲのように鋭く突き刺さる。
過去と現在が宿念のように絡み、物語はある種の悲劇へと向かっていくのだが、傷つきながらそこへ転がっていく慎一、春也、鳴海たちの心の痛みが、ジンジンと伝わってくる。
その作劇と描写のうまさが、この作家の評価であろうし、本作が直木賞を受賞したことにワタシもまったく異論はない。
あえて慎一の母親や鳴海の父親の心象を排除し、抑えた筆致で“子ども”たちの心的・神話的世界を描ききったことに、筆者の真骨頂と本書の成功がある。
帯にある宣言文句を引用する我が表現力の貧しさが腹立たしいが、まさに「深い余韻にとらわれる」読後感が、かえがたい魅力として沈殿する一冊。
◆『月と蟹』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「弱さの連鎖が因果となって」--asahi.com(佐々木敦氏)
「人間を描く筆致に凄み」--MSN産経ニュース(篠原知存氏)
「最後まで読ませる『筆力』に、圧倒」--琥珀色の戯言
「描写力や文章力で圧倒的な力を持つ作家」--黒夜行
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