【映画】ダーク・ナイト2011/03/10

『ダーク・ナイト』
『ダーク・ナイト』(2008年・監督:クリストファー・ノーラン)

というわけで、ワタシにとって2作目のクリストファー・ノーラン監督作品。いわずと知れたバットマン・シリーズの傑作にして、稀代の悪役キャラ“ジョーカー”ことヒース・レジャーの遺作としても記憶されている。

『メメント』では、時間と場面を交錯させた複雑なストーリー構成を最後まで押し通し、その才気走った作風が強く印象を残したノーラン監督だが、本作では人気キャラによる人気シリーズをハリウッドの“住人”として、ストレートに演出して魅せる。

バットマンが正体を隠し粉骨砕身でゴッサム・シティの“悪”と戦うも、いっこうに平和は訪れず、街にはピエロの扮装で狂気じみた犯罪を繰り返す「ジョーカー」が跋扈する。
次第に正体を名乗らないバットマンに批判が集まるなか、マフィアと闘うことを堂々宣言する新検事が現れて喝采を浴びるのだが…というのが大筋。

バットマンの活躍はケレン味に溢れ、“ジョーカー”のキレぶり、キュートなマギー・ギレンホールとの屈折ある恋愛感情の振幅、本作のテーマである善と悪との“トゥー・フェイス”を体現する検察官(アーロン・エッカート)の異化作用など、仕掛けも十分に風格さえ漂わせる作品に仕上げている。

しかしながら、人間の暗部を写し出すダークな通奏低音は『メメント』から繋がるもので、人間をキリスト教的な善と悪との単純な二律背反として描かないところに、この監督の矜持が感じられる。

イギリス生れで、父はアメリカ人、母はアメリカ人。幼い頃から両国で過ごし、ロンドン大では英文学を学んだという同監督の出自が気になるところだが、『メメント』同様にラストは未解決のまま観客は放り出される。

ちなみにワタシは、本作を観て真っ先思い出されたのが、永井豪の『デビルマン』であり、ジョージ秋山の『デロリンマン』であった。『デビルマン』では、デーモンとたたかうデビルマン自身こそデーモンの支配者サタンであったことが明かされ、『デロリンマン』では、悪と対決したデロリンマンが宿敵の仮面を叩き割るとそこには…という衝撃的なラストが用意されていた。

そして、そこに池波正太郎作『鬼平犯科帳』での「鬼平」のつぶやき、「人間というのものはおかしな生き物だ。良いことをしながら悪事をはたらき。悪事をはたらきを良いことをする…」が重なる。

いずれにせよ、そこには善悪の此岸(しがん)を諦観する監督自身のヒューマニズムが息づいている。

名優マイケル・ケインによるどこかユーモアを含んだ“執事”ぶりや、主人への忠誠心に溢れたモーガン・フリーマンなどの、演技や配し方などイギリス的な香り感じられ、どこかエレガントな佇まいもみせる。

また、言うまでもなく本作の成功は、悩ましくもバットマンを演じ続ける主役のクリスチャン・ベールの苦悩の演技ではなく、やはりヒース・レジャーの圧巻の演技に依るものだろう。

『ダーク・ナイト』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「完成度が高く、衝撃力を持った傑作」--アメコミくえすと
「苦悩映画の最高傑作」--たけくまメモ
「熾烈なアクションと緻密な人間描写が美しく冴える」--365日映画
「善悪の問題をこれほど深くあつかった映画作品はない」--粉川哲夫の「シネマノート」
「歴代バットマン映画の最高傑作」--超映画批評(前田有一氏)
「闇のヒーローの苦悩を描く人間ドラマ」--映画ジャッジ!(渡まち子氏)
「ジョーカーの持つパラドックスが魅力」--映画ジャッジ!(福田次郎氏)
「これはジョーカー映画だ。」--映画ジャッジ!(町田敦夫氏)
「ヒース・レジャーがひときわ輝く残酷で美しい」--映画ジャッジ!--(岡本太陽氏)

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